良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『執事の眼』(1950)ホラーの老舗、ハマー・フィルム製作の異色南国風ラブコメ。

 ハマー・フィルムという映画会社の名前を聞くと、ホラー映画ファンが思い出すのはクリストファー・リーピーター・カッシングが出演していた血みどろ作品群でしょう。  しかしながら、それだけでは経営が成り立つわけはなく、実はあまり知られてはいませんが、ラブコメなどを製作していた実績があり、歴史に埋もれてしまっているもののキラリと光る可愛らしい佳作があります。
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 それが今回、紹介する『執事の眼』です。他愛ないラブコメではありますが、DVD化はされていませんので、ストーリー展開も書いておきます。  南国ココナッツ諸島に赴任していた伯爵(エドワード・リグビー)と彼の執事(ヘンリー・モリソン)が任期を終えて、イギリスに帰国してくるところから幕が開ける。すっかり現地が大好きになってしまった伯爵と執事は堅苦しいイギリスの貴族生活に戻ると退屈で仕方ない。
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 そこへ船便(昔だから、航空便は考えにくい。)でかのココナッツ諸島からの荷物が届く。中身はハンティングで仕留めたサイや猛獣の剥製です。野蛮な荷物に驚く家人たちを尻目にウキウキしている伯爵がチャーミングです。  すると空の荷物箱が見つかり、訝っているとじつは王国のお姫様(マーシー・ヘイステッド)が恋人関係にあった執事の後を追いかけて、イギリスまで勝手に不法入国してしまったのでした。その頃、王国ではお姫様が行方不明でイギリスに誘拐されたと思い込み、開戦間近まで緊張する。
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 そんな状況でも伯爵はお気楽で、彼女が巻き起こすカルチャーショックな出来事を大いに楽しみます。正装で出るように伝えられたパーティに全裸で現れたりする様子は西洋人から見れば衝撃的でしょうが、健康な肢体を自然に見せる彼女は魅力的です。  しかしながら、周りのお堅い英国人たちは彼女の奔放さに付いていけずに困った末、外務省や新聞記者に匿っていることを通報してしまう。
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 お姫様も愛する執事をモノにするべく、惚れクスリを使ったり、あの手この手で誘惑するものの違う相手に飲ませてしまう。結果的には誤魔化しきれなくなった屋敷の人々はお姫様をココナッツ王国に戻すが、執事も彼女と行動をともにするために伯爵に暇を告げる。  執事はココナッツ王国首相に任命される。しかし、ココナッツ王国に惚れ込んでしまった伯爵も執事としてかの地へ向かう。逆玉ですね。こんな感じです。
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 英国の階級社会への風刺や異民族に対する蔑視を嫌味にならない程度に取り入れて、皮肉っぽく笑うというお得意のコメディ手法で描いています。  シェイクスピアの『空騒ぎ』や名作『ローマの休日』の設定を利用したようなくすりと笑わせる工夫がいっぱいです。上映時間は60分間程度の小品ですが、キラリと光る可愛らしさはハマー・フィルムとは思えない出来映えですので、機会があればご覧ください。 総合評価 70点