良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『gift』(2014)松井玲奈がやりたいことは歌と踊りではない。淡々としたロード・ムービー。

 『gift』は遠藤憲一主演でヒロインにSKE48の中心メンバーで先頃、グループからの脱退を表明した松井玲奈を迎えた作品です。  彼女をはじめて見たのはAKBが『ポニーテイルとシュシュ』『ヘビーローテーション』の二曲でブレイクする直前にテレ東系列で放送されていたグループ・メンバー総出演のドラマ『マジすか学園』でした。  この玉石混合(ほぼクズ石ばかり。でも一生懸命にやっているのは伝わってきます。)の演技力に問題があるドラマでの凶悪で精神がイカれている不良少女ゲキカラ役を務めた彼女のインパクトはかなり強烈でした。  彼女の見た目は色白でスレンダー、かなりおとなしめであるため、役柄とのギャップが見た者を惹き付けます。外側に危険な香りを発散するのはもちろん、内面からの狂気を隠せない異様な眼差しはただのアイドルには出せないでしょう。
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 浮いた噂も一切ないままにグループから脱退をすることで、スキャンダルまみれの他のメンバーとは一線を画し、追い掛けてきたファンを強固な信者に変えていく。  この小品『gift』での彼女の役どころはけっこうハードで、壮絶なDVを受けていた弟を庇うために母親を刺したことをきっかけに少年院に入り、母親が飲んだくれて事故死するなど家庭もバラバラに崩壊していく。  刑期を終えた彼女自身もキャバ嬢になり、同僚だけでなく、老婆の財布にも手を出すような荒んだ心を持つ役です。夜の商売でも上手く行かずに、くだらない男の借金まで背負い込み、ソープ嬢に転落するかもしれないというタイミングでのどうにもこうにも地獄しかない境遇を這い回る少女役を演じた彼女は見ていても浮ついた感じがない。  アイドルとしてキラキラしているときの表情とはまったく違う一面を見せてくれます。この娘が今やりたいのはもはや集団の中での歌や踊りではなくて、演じることなのではないか。
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 昨年は秋元康がプロデュースする乃木坂46のてこ入れにまで駆り出された結果、さらに演技への渇望が本人のなかで大きくなったのかもしれない。彼女のファンからすれば、劇場に会いに行けなくなってしまうのは悲しいことでしょうが、十代後半から二十代前半までの大 切な時間を彼らに捧げてきたのであるから、笑顔で送り出すことに納得出来るでしょう。  年齢的なことが第一ですが、いずれアイドルにはその役割を辞めざるを得ない時が来ます。AKBシステムの中に生きる娘たちは自分でそのタイミングを決められるようなので、潔く辞められる。  グループを背負ってきた松井玲奈にとってのタイミングは今年だったのでしょうし、自分の今後を賭けられるようなやりたいことが演技だったのでしょう。大人気グループの中心メンバーの一人でいることのメリットは非常に大きいはずですが、それよりも自分の気持ちを優先するには強固な意志が必要です。
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 彼女がどうなっていくかに注目しています。主演を張り続けるには華がないように思います。しかし映画やドラマでのキラリと光る脇役としてならば、十分に機能するでしょう。  演技や脚本は無難にまとまっているのになぜか物足りなさと違和感がありました。その原因は映像がクリア過ぎること、そして画の軽さが気になってしまうことです。かなりヘビーな設定下にある二人なのに彼らを映し出すカメラに情念が希薄なのです。
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 ざらざらして殺伐とした思い、どうにも抜け出せない不幸から脱出する必死な思いは伝わってない。異化効果を出すのなら、カラッとした画と台詞を持ってきた方が良いでしょうし、なんだか、せっかくの主演俳優たちの演技が軽く見える。この物語ならば、映像はより暗く、昭和の刑事ドラマのような薄暗い感じの方が雰囲気が出るのではないか。  機材が光を取り込む性能や映像の解像度が飛躍的に増した結果、かえって現実味が無くなっているように思えます。フィルムの質感が必要なのではないかと感じる作品でした。タモリ主演のロード・ムービー『キッドナップ・ブルース』のような雰囲気が欲しかったなあ。  総合評価 58点