良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『砂の惑星/DUNE』(1984)公開当初、大失敗作として語られたデヴィッド・リンチ作品。

 先日、チリが生んだ映画芸術の鬼才、アレハンドロ・ホドロフスキー版のドキュメンタリーを記事にした後、1985年3月の公開初日に映画館で観て以来、30年ぶりにデヴィッド・リンチ監督版『砂の惑星/DUNE』を自宅で見ました。  見終わって、まず思ったことは当時は受け付けられなかった作品ではありましたが、それほど最悪というレベルではなかったということに気付きました。
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 その後の映画修行の中で、数えきれないクズ映画に鍛えられてきたことが大きいのかもしれない。冷静に見ていくとデヴィッド・リンチらしく、ヴィジュアル的に優れた映像が多い。  とりわけ色調の暗さとザラザラした統一感はしっかりしていて、抑圧され続ける人々の声なき声が聞こえてくるようですし、貴族階級であったり、宗教的な重厚感はただならない圧迫感を与えます。
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 ただ致命的なのはこれらがたった二時間ちょっとで無理やりパッケージされてしまっているために、感情がぶつ切りにされてしまうことでしょうか。  本来10時間以上はあったであろう全編を総集編としてダイジェスト編集されてしまったモノを本編として見せられた感じなのです。例えて言えば、NHKが毎年の年末に数回に分けて一挙放送する大河ドラマの総集編をさらに編集して商品化したような感じ、もしくは『新世紀エヴァンゲリヲン』劇場用が悪名高いダイジェストだったときのあの怒りの感覚です。
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 プレス・リリース版のラッシュ・フィルムとしてこれを試写室のスクリーンに向かって、関係者の立場で観たならば、かなり大きな期待と満足感で包まれたことでしょう。しかし、ぼくらはこれを劇場用映画としてお金を払って観たのです。  あまりにも粗々しくハサミを入れられたようにフィルムがぶった切られた感じ、もしくは繋ぎのシーンなどがそもそも撮影すらされていなかったのかは知りませんが、場面から場面への展開が急激すぎて、無理やり状況説明的な台詞や描写が多いのと図で関係性を示されたりするのには閉口する。
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 ライバルであるハルコネン家と主人公ポール(カイル・マクラクラン)たちの勢力、皇帝の勢力の位置関係が図で出てくるのですが、あとあと特に位置関係が重要になるシークエンスがあるわけでもないので無意味に思えます。  主人公カイル・マクラクランやオヤジさん(ユルゲン・プロホノフ。彼って『Uボート』の艦長さんですね。毒吐いて死んじゃいます。)もあっという間にピンチに陥ったり、切り抜けたりで、美しい女性に出会ったかと思えば次の場面ではすっかり恋人になってしまっていたり、修行を始めたかと思えば、瞬きしている間にすっかり巨大オームのマスターになっていたりする。
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 主人公の成長を見守ることで得られる観客と主人公との一体感醸成というSF活劇だけでなく、物語性においてもっとも重要なプロセスを放棄してしまっています。だから映画館でこれを観たぼくらは主人公ポールに感情移入が出来ずにほったらかされたような白けた気持ちになったのだろう。  物語は石油をめぐる中東産油地域と欧米勢の支配に対する圧力と抗争を寓話として描いているのだろうか。ホドロフスキー版ではスパイスにより、本来の自分に目覚めて、自分の感性を高めていくことを重視しているようでしたが、リンチ版では石油採掘利権を争っているように見えました。ギルドって、石油メジャーみたいですし、ジハード(聖戦)というワードも登場してきます。
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 浮き上がる巨塊ハルコネン男爵(ケネス・マクミラン)の不気味さ、サンドウォームナウシカのオームみたいだが、こちらの方がオリジナル。すでに1974年のホドロフスキー版でイメージが出ています。)を乗りこなすまでの修行シークエンス、スティングとの短剣によるデュエルのシーン、神聖ではあるが禍々しい主人公の妹であるアリア(アリシア・ロアンヌ・ウィット)など多くの登場人物には生命力が満ちていて、映像自体のインパクトはかなり強い。  妹アリア役のアリシア・ロアンヌ・ウィットの存在感は名だたる名優たちに囲まれていても際立っています。その後、彼女がどのような女優さんになったのかは知りませんが、圧倒的で鮮烈な印象を残した子役俳優はその後、なぜか大成しないようなので、あまり追いかけない方が良いのでしょう。
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 キャスティングされた俳優たちが実は実力派ぞろいだったのも後から気づいたことで、見ているとユルゲン・プロホノフポール・スミスリンダ・ハントマックス・フォン・シドーパトリック・スチュワートなど当時は気がつかなかったので嬉しくなりました。  それでも一本の映画としては纏まりがなく、散漫な印象しかない。脚本の交通整理が出来ていない残念な作品なのかもしれません。素材が揃っているのに仕上がりが最悪な料理になってしまったのが鬼才デヴィッド・リンチ版です。なんでこんなごった煮になってしまったのだろう。謎は深まるばかりです。
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 総合評価 68点
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