良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『水の声を聞く』(2014)カネ!カネ!カネ!時々性欲爆発!新興宗教の裏側を語る。

 先月後半は会社の決算月に当たっていたため、深夜までどころか、朝まで書類とにらめっこをしていた日もありました。  何とか月末の徹夜明けで山場を越えたので、帰りに足つぼマッサージで悶絶させられたあと、知人が経営するお店でのんびりと食事を楽しんでいます。  お酒を出すお店なのでさまざまな職種の人たちが集まってきます。僕自身はお酒をほとんど飲まないので食べる専門ですが、色々な人生模様を眺められるのは楽しく、お酒の席は嫌いではない。
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 五十代後半らしい自営業風のオジサンについてる女(三十路手前。)は水商売っぽく、ねっとりと絡んでいるが、キャバクラでは稼げなくなったようで、「取り合えず30万円くらい稼ぐんやったら、チャット・レディか熟女パブかなあ!?」などと稼げなくなったと言っている割りには景気が良い会話をしています。  オジサンは良いようにあしらわれ、彼女の尻に敷かれているようで、全ての支払いは彼持ちでした。女はまったくお金を出さないくせに値段を聞いて、「うわあ、高いな。あんた何食べた ん!?」と言っていましたが、「あんたがガブガブ高い酒飲んだからだろ。」と突っ込みたい気持ちを抑えつつ、二人を眺めていました。  彼らもこの店によく来るようで、ぼくの知り合いを名前で呼んでいますので余計なことは言わないほうが無難でしょう。
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 気分転換を兼ねて何か映画でも観に行こうかと近所のシネコンの上映予定をチェックしていますが、あまり観たいのはやっていません。  秋口に公開するよりはお正月映画として12月に公開時期を合わせたほうが観客動員が見込めるのでしょうが、そこそこ程度の出来上がりならば、むしろ秋口に公開して、その時期の映画動員の総取りを狙う戦略も有りなのになあとも思います。  結局、近所のTSUTAYAさんで何本か借りに行くことにして選んだのは『テラー・トレイン』『メイズ・ランナー』『水の声を聞く』の三本でした。
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 『テラー・トレイン』は懐かしいホラー、『メイズ・ランナー』は今月後半に第二弾が公開されるための復習、そして『水の声を聞く』は山本政志監督の久しぶりの監督作品で昨年度の公開時に九条シネ・ヌーヴォで掛かっていたのを見逃してしまったために借りてきました。  山本政志監督の作品では『闇のカーニバル』『てなもんやコレクション』『ロビンソンの庭』などを見ています。今回の『水の声を聞く』では在日韓国人女性二人組が占いから始めた怪しげな新興宗教を取り上げています。  この団体が金になりそうだと嗅ぎ付けた欲にまみれた自称信者と広告代理店関係者たちが彼女の周りに群がり、集金マシンとしてのシステムを整えていく過程と信念に目覚めてしまったバイト感覚の巫女(宗教的な知識などない。が徐々にルーツに目覚め、膨張しようとするが、システムに敗北。)との意識のギャップが悲劇的な結末を生み出す顛末を描き出します。
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 山本政志監督の脚本により活き活きと描き分けられた役者たちの演技が素晴らしく、教祖役を務めた玄里の表面上の透明感と内輪で見せるドロドロした葛藤は見応えがあります。  周囲を固めた脇役陣も優れていて、借金まみれで迷惑をかけ続ける父親(鎌滝秋浩が好演。最後は惨殺される。)、運営サポートをしているものの金目当てで関わっている中年小宮夫婦のイヤラシさ(薬袋いづみと松崎颯の陰険さが小気味よい。教祖を乗り換え、金銭を追い求める。)、ヤクザと教祖と教団関係者の間で上手く立ち回る狡猾な中学生(萩原利久。最後は東京湾に浮かぶ。)らの演技は強烈な印象を残します。  イヤな人間だなあと見る者に感じさせた時点でこの映画の成功は決まっています。けっして大々的に取り上げられることはないでしょうし、地上波で流されることはないでしょうが、同性愛者や地下社会、在日外国人社会などマイノリティを描き続けてきた山本政志監督作品の中でも大きな位置を占める作品になるでしょう。
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 この映画を見ていてふと思ったのは新興宗教投資ファンドの類似点です。どちらも現世利益など保証はできないにもかかわらず、世間に向けてのプロデュース能力と集金システムの構築に秀でていて、判断能力に乏しく、他人に頼ろうとする人々から金銭を巻き上げる。  新興宗教は寄付金やお布施、投資ファンドインデックス運用の数倍の手数料を奪い取る。どちらも自分の縄張りであるオフィスにカモを呼び込み、カモの集団を個室に閉じ込めて教義の講話(ファンドなら儲け話)が行われる。
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 もっともらしいことを語り、多額の金品を要求し、失敗しても責任をとらない。なぜ人は他人にすがろうとするのか。神様は敬う対象であり、ものをねだる対象ではない。この映画でも現世利益(恋人が母親を殺した後に自殺する。)がかなえられなかった幹部信者が裏切り、玄里を追放し自らが新たな教祖につくが、もともとこの女も何の能力もないので使い捨てにされるだけだろう。  本来、宗教では生きる上での指針とか精神的な安定が得られれば良いのであるから、そこから先の経済的な繁栄は裟場での努力次第です。日本は他国に比べれば、圧倒的に住みやすい国であり、職業も自分の意思である程度叶えられる。
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 つまり、病気や事故であったり、家庭環境の不幸を除くと一般家庭出身者が底辺の生活を送る場合、それは各自の自己責任なのです。まずは他人のせいにせず、なんとかやっていく。宗教教育はそこから始まる。  興味深いのは済州島の歴史です。日本統治時代のあとに訪れたのは血で血を洗う同胞同士のむごたらしい殺し合いで米軍・韓国軍・共産党が揉め事を持ち込み、島民の生活を蹂躙していく様はより救いがない。
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 その土地に祖先を持つ玄里は宗教団体が壊滅した後にかの地へ戻っていきます。新鮮なのは在日の人たちが日本語と韓国語を交互に使い分けている様子が自然に描かれていることでしたが、これは本当にこういうふうなのか、それとも日本での公開が主であるために分かりやすくしているだけなのか判別はつきません。  ただ彼らが話す日本語も彼らが話す韓国語も同じようにすっと流れていきます。なんだか不思議な感覚を味わえる異国情緒と日本があります。ストーリー全体に溢れるのは生命力の強さであり、金銭や肉欲への執着です。  ただひたすらに金の臭いをかぎ分け、互いの肉欲と金銭欲のために他人を平気で裏切る人間模様は醜悪ではあるが、なんだか『にっぽん昆虫記』のような皮肉っぽいコメディの味もする。シリアスな悲劇は喜劇にもなるのだろうか。
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総合評価 80点
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