良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『レヴェナント:甦えりし者』(2016)リアルな西部劇。素晴らしい映像と単純なストーリー展開。

 さすがにアカデミー賞受賞直後の話題作なのでお客さんで一杯なのかなあと思いきや、奈良はいつも通りに映画館は閑散としています。  超話題作『タイタニック』などに出演していた頃から人気はあるのにずっと名誉とは無縁だったレオナルド・ディカプリオがついにオスカーを取ったとフジテレビのめざましが大騒ぎしている姿に違和感がありました。  行くかどうか迷っていましたが、単純に「あれっ!?オレはべつに彼目当てじゃないやん!!」という当たり前の事実に気付き、近所の映画館に向かいました。  待っている間に周りをウロウロしていると『X-MEN アポカリプス』の特大パネルを発見しました。大好きなシリーズなので、毀誉褒貶はあるもののしっかりと最後まで見届けるつもりです。予告編ではアメコミ映画が四本も出てきたり、『インディペンデンス・デイ』の続編が流れたりとかなりアメリカもネタに困っているのだなあと妙に心配してしまう。  さて『レヴェナント:甦えりし者』に戻ります。ロケが過酷そうなのは厳しい寒さと自然光での撮影へのこだわりを見るだけで想像がつきます。物語は単純明快な復讐劇ではありますが、アメリカの荒々しく、厳しくも美しい風景が淡々と映し出されると、かえって禍々しく感じます。
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 これも対位法なのでしょうか。ディカプリオやトム・ハーディら登場人物たちを打ちのめすような寒々しさが映画の雰囲気を引き締めています。生肉を口一杯にかぶり付くレオナルド・ディカプリオの鬼気迫る演技を楽しみたい。R15に指定されているように過激な描写も数多い。  インディアンが首をちょん切ったり、報復行為である吊るし首場面があったり、凍死を防ぐために自分を乗せてきてくれた馬(落下して死亡している。)の臓物をえぐり出し、そのなかで眠ったりするシーンはえげつないが合理的ではある。  翌朝の別れ際に生命を守ってくれた馬への思いが見てとれる。西部劇の要素である騎兵隊、ガンマンやインディアンがたくさん出てきますが、いわゆるヒロインは不在でかなり汗臭い男祭りの映画に仕上がっています。  西部劇ではなく、服装は時代がかっているもののむしろ現代劇の印象を受けます。つまり舞台設定が西部開拓時代だから、ヒーローとヒロインのロマンスが描かれるわけではない。ただしすでに亡くしてしまった妻への思いや殺された息子への愛情はしっかりと描かれていて、むしろ愛に溢れているように思えます。リアルすぎる描写のために過激に見えますが、血が通った作品です。
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 ところで観ていて気になってしまったことが一点あります。それはカット割りの方法で、寒い冬を舞台にしているから採用したのでしょうが、カットを割るときに登場人物の吐き出すむさ苦しい息やタバコの煙で画面を覆い尽くすことで次のカットに繋げていった演出に違和感がありました。  これをされるとカメラのレンズが曇っていく様が想像できるので、一気に物語世界から現実に引き戻されてしまうのです。数回採用されていますが、コメディならともかく、思いテーマの作品に使うにしては個人的には残念な切り替えでした。  見所としては復讐物語が展開されるきっかけとなるレオナルド・ディカプリオ対グリズリーの異種(まさに異種。)格闘技戦の迫力でしょう。映画館の大画面と大音響のもとで展開される殺伐とした一戦は必見です。  クライマックスのディカプリオ対トム・ハーディの決戦は冗長にも見えますが、リアルに戦えば、人間はなかなか死なないという現実と乳酸が溜まってくると素早い動きは影を潜め、へたりながらの決着となるというカッコよくない決まり方がとても良い。
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 激しく流れる、薄暗くミステリアスなミズーリ川の水の色はまさにブラック・ウォーターで、さまざまな意味が込められていそうです。昔、イーグルスが歌っていた『ブラック・ウォーター』の舞台はミシシッピ川でしたが、ミズーリ川も黒っぽいのでしょうか。行ったことがないのでさすがに何とも言えません。氷で覆われた川からはなぜかG・W・グリフィスやリリアン・ギッシュを思い出す。  今回のディカプリオはまさに身体を張った演技の迫力が凄まじく、この映画に賭ける彼の心意気を感じます。ひたすらに山道を這い回り、馬の臓物を食らい、極寒の地で裸で動き回る。クマに噛まれ、クマの爪で肉を切り裂かれ、息子の敵に切りつけられて、身体中が傷だらけになってしまいます。  回復が早過ぎるのが気になります。生き残ってから復讐するまでが異常に速く、字幕を入れて二年くらい回復までの時間を経過させておくなどの工夫が必要だったのではないか。  伏線の張り方で興味深かったのが物語の途中で、狩猟集団の荒くれ者たちが殺戮したインディアンの集落を通るときに「ヤツラは死んだふりをして襲いかかってくるから、油断するな!」という下りが呈示されている部分です。
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 クライマックスではインディアンの娘を妻にしたレオナルド・ディカプリオが息子(フォレスト・グッドラッグ)を殺害したトム・ハーディ(一緒にいたウィル・ポーターは相変わらず変わった顔をしています。メイズ・ランナーにも出ていました。)を仕留めるために危険な罠をかける場面があります。  このシークエンスの前に彼らの雇い主である隊長(ドーナル・グリーソン。どーなると言われると、死んじゃいます。)とレオナルド・ディカプリオはハーディを確実に倒すために二手に別れて追跡するも、隊長はハーディに先に見つけられてしまい、返り討ちにあってしまう。  隊長の遺骸を抱えたディカプリオは遺骸を載せた馬を先導させて、ハーディに射撃させ、近づいてきたところを死体のふりをしていた彼が突然発砲して仇を負傷させる。
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 途中で助けた酋長の娘もクライマックスとなる格闘の後に川を通りかかり、彼女の父親が仇にとどめを刺し、ディカプリオには危害を加えることなくその場を去っていく。  淡々と流れていくが、荒々しい展開で観客を飽きさせることなく、2時間半があっという間に過ぎていきます。ぜひとも劇場で観たい作品ですので、ゴールデンウィークは近くの映画館まで通ってみてはいかがでしょうか。  ディカプリオ?彼がスターであろうとなかろうとこの作品はシンプル(ひねりがなさすぎますが。)で分かりやすく、無駄なカメラの動きもなく、オーソドックスなつながりが機能していて、観客は集中して観ていられます。音楽は我らが坂本龍一教授です。1970年代後半から教授と呼ばれていますが、今でも教授って言うのだろうか。名誉教授に就任されてはどうでしょう。 総合評価 80点