良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『シン・ゴジラ』(2016)庵野&樋口コンビによって復活した真(新・神・SIN)ゴジラ。

 夏休みということもあり、朝の第一回目の上映時間が8時50分からでした。ちょっと早目にシネコンが入っているショッピング・モールに着いたのですが、まだ施設内に入れない状態でした。開場は8時半からと警備員に言われましたが、このクソ暑い状況なので、屋外で待機するのは勘弁してほしい。  前売り券をすでに購入済みなので座席指定をするだけだったので開場後はすぐに手続きは済みました。今回、ゴジラ映画としては二年前のギャレス・エドワーズ以来ですが、東宝製作の作品は十年以上(2004年)も前になる北村龍平の『ゴジラ/ファイナル・ウォーズ』以来です。  今回のコンセプトはこれまでの作品をすべてなかったことにして、日本とゴジラがはじめて顔を合わせるという主旨のもので、歴代をいったん忘れて作品に接する必要があります。内容次第、もっと言えば、特撮シーンではなく、本編においていかに観客を納得させられるリアリティを持たせられるかにかかってきます。  監督は樋口真嗣、脚本及び総監督が庵野秀明ですから、つい最近(と言っても4年前)ではエヴァ劇場版の上映前に流された『巨神兵 東京に現る』(2012)でもコンビを組んでいました。もともと『八岐之大蛇の逆襲』(1985)でも一緒に作品に関わっていたりしましたのでかなり付き合いは長い。  ストーリー展開では急な巨大不明生物の出現に狼狽えて、それでも国土と国民を守るためにどのようなマシな戦略を立てていくのかに注目して見ていきたい。心配していた音楽部門では伊福部音楽をしっかりと使用してくれているのは旧来からのファンとしては素直に嬉しい。
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 画の撮り方ではスマホを使って撮影したような臨場感あふれるブレブレの映像に迫力があり、偶然撮れたようなリアルな質感があります。また巨大災害対策本部を構築していく場面などで用いられる異常に低い位置からの仰角での撮影が居心地が悪い。  全編CGを用いていますので、かつての着ぐるみ独特の温かみはなくなっていますが、それ以上の完成度があればマニアも十分に納得するでしょうし、そもそもマニアに向けてのみ作品が製作されているわけではない。だから、ゴジラエヴァを重ね合わせることはもっとも不毛なのでしょうが、どうしても深読みしてしまう。  ゴジラ(使徒)出現の緊急時にかかる音楽はエヴァを使っていますし、クライマックスとなるゴジラの血液を凝固させるヤシオリ作戦での化学物質注入ではタンクローリーを並列させて繋げて行くなどまさにヤシマ作品を彷彿とさせます。  またゴジラの弱点を研究して、経口注入する作戦そのものは『ゴジラ』(1984)でのカドミウム弾攻撃や『ゴジラビオランテ』(1988)での中年の星、権藤一佐(峰岸徹)らの抗核バクテリア弾攻撃を思い出させる。  これまでの経口注入作戦とは異なるのがタンクローリー車からクレーン車につないだホースをストローのようにGの口に突っ込んで、運動部がポカリのボトルを飲み干すがごとくぶち込んでいく様子がなんだか笑えてしまう。
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 危険な作戦は生きて帰れるかわからないという長谷川の演説の通りの決死戦となり、編成された二部隊のうち、第一部隊は注入すべき血液凝固剤容量の20パーセントを投入した段階で反撃に遭い、全滅する。  今回のストーリー展開はかなり綿密に仕上げられていて、当初は対G作戦において右往左往していた大杉漣首相をはじめ、内閣首脳が徐々に事態に対応出来るようになってきた矢先にゴジラの熱線による流れ弾で全滅してしまう持って行き方とすぐに臨時内閣を編成し、善処していく下りは素晴らしい。  普通ならば、分かりやすい現場での描写が中心になってしまい、大本営は付け足しでしかなかったのですが、対G後も睨んで蠢く政治家たちの暗闘もしっかりと描かれているのは大人向きと言えます。本編シーンを可能な限り増やし、特撮シーンを極力減らすことが経費を削減し、分数という尺を稼ぐ論理的な方法となります。
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 東京に戦略核を撃ち込もうとする中露のろくでなし振りにはさもありなんとうなずけますし、原子力を重視していて利に聡いフランスを動かして核攻撃以外の選択肢であるヤシオリ作戦を実行に移していくまでの時間を稼いでいく様子は興味深い。  米軍主体の多国籍軍(『ゴジラ』(1984)では今のロシアであるソビエト連邦のミスにより、核ミサイルの着弾目標が東京にいるゴジラにセットされ、撃ち込まれるが、米軍の迎撃ミサイルにより直撃は避けられた。  でもわずかながら核物質を補給できたGは復活してしまう。)による首都での核攻撃容認には裏取引があり、関東圏(国内GDPの40%を持っています。)滅亡の代わりに国際世論の同情と復興費用を肩代わりさせると確約させるなど今までは描かれてこなかった深部まで炙り出しています。  またなんといっても陸海空の自衛隊の全面協力を得て行われている撮影は圧倒的な迫力とリアルな裏付けを観客に見せつけてくれるので説得力がまったく違います。決戦シーンでの迫力だけではなく、避難誘導していく自衛隊や警察などもしっかりと描いています。  対照的に官邸や作戦本部を取り囲み、「ゴジラを倒せ」とわめき続けるデモ隊の様子がなんともみっともなく、安保改定を叫んでいた輩を思い起こさせます。  現在用意できる物資で何とかしようとする科学者らの対策本部と核実験を実地で行いたい国連安保理の性急さがなんとも言えず醜い。各物質を含み、未知の原資をも含むゴジラ生物兵器としての価値も高く、米軍はすべてを極秘情報として手に入れようと蠢きますし、作戦でも指示系統を握ろうとします。
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 これらに対抗するように長谷川らは世界中にゴジラの生物学的な情報を公表し、世界中の科学者や企業の協力を仰ぎながら解決方法を見出していく。利害で動こうとするドイツ人とそれをたしなめる上司のやり取りの様子も興味深い。このように本編が素晴らしく機能しているのであっという間に時間が過ぎていきます。  音楽は伊福部昭ゴジラ映画でのスコアが順番に流れてきます。『ゴジラ』『キングコング対ゴジラ』『怪獣大戦争』『三大怪獣 地球最大の作戦』『メカゴジラの逆襲』『ゴジラ対メカゴジラ』で聴いた懐かしのナンバーが嬉しい。  関西では珍しいことなのですが、エンドロールが出てきても誰も席を立たずに伊福部先生の珠玉の作品群を拝聴していました。客層はハゲオヤジ20%、ガキ20%、若い女の子30%、カップル20%、その他10%という感じです。朝一発目ということもあり、全体の入りは40%くらいでした。  女の子が多いのは意外ですが、エヴァの客層だと考えると納得が行く。また子供たちが誰一人として騒がずに画面に集中していたことがこの映画の圧倒的な迫力と完成度を物語るのではないか。  エヴァのファンでもあるぼくは完結編の進行の遅れも気になるところではありますが、これだけのディテールを達成するのであれば、そりゃ遅れるのは当たり前だと納得しました。マンションから転落する親子、ゴジラの歩みで揺れてずれていく瓦屋根、ビルから散乱するガラスの様子などのこだわりを見てほしい。
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   見ていて気づいたことにゴジラの背鰭で、これまでのゴジラでは背鰭は三列でしたが、今回の作品では五列ありました。その背鰭が発光して、周りの飛翔物体をすべて放射熱線攻撃する様や尻尾からも攻撃するのはかなり強引ではあります。  しかしながら、そのフォルムはとても妖しく魅力的な発光を伴っているのでファンとしては問題ないですし、メカゴジラの全門一斉射撃を思い出させてくれます。  生物的に進化していく(『ゴジラビオランテ』でもビオランテは植物→ゴジラ沢口靖子に変態していく。)のも今回の特徴で、最初の顔面アップでウーパールーパーや何かの稚魚を思い出させる何も考えていない感じが何とも言えないクリッと丸い眼を見た時は正直大丈夫かなあと思いました。  この形態の時はこれはゴジラのえさになるヤツなのかなあと思っていたところ、まさかの変態していく様子に驚きました。核分裂のおかげなのか、上向きの小さな手が生えてきたり、足が力強く進化したり、徐々に変態していくさまが不気味で最終的には目の色も見えにくくなり、目玉も小さくなっていき、それとともに凶悪化していきます。
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 俳優陣ではまずは長谷川博巳と高良健吾コンビと常に冷静な竹野内豊のなんとか現状を現実的に捉えて打破しようとする姿勢が素晴らしい。  最初の登場場面では上滑りしている感が否めない石原さとみもだんだん物語世界に溶け込んでいきます。上から目線の厭な役ではありましたが最終的には彼らと運命を共にします。  いい味を出しているなあと思ったのは國村準演じる統合幕僚長平泉成演じる臨時内閣総理、対G対策本部の津田寛治、冷静な科学者役の市川実日子防衛大臣役の余貴美子(首相とともに墜落死。ミステリアスで魅力的です。)、官房長官役の柄本明や長谷川の盟友役の松尾諭らの渋さがキラリと光っています。いつもながらではありますが、東宝映画と自衛隊の組み合わせは安定しています。  その他のチョイ役出演者として目立っていたのはKREVA(戦車部隊の将校)、戦闘団長のピエール瀧アクアラインで文句を言うカップルの女(前田敦子)を挙げておきます。  太平洋戦争以来、再び瓦礫と化す東京とヤシオリ作戦(血液凝固剤経口注入作戦)によって、全長180メートル(高さは100メートルくらいか。)を楽に越えるゴジラが都心で立ち往生して滅んでいる姿は異様に映りますが、のちに観光名所になるのかなあ。  スクラップ&ビルドによって新たな東京を作り出すのは大変でしょうが、大災害などがなくとも人為的に再建していくにはとてつもなく大きなエネルギーと時間と予算が必要なのは明らかです。戦後復興した我が国は再度、数世紀先を捉えて、再興しなければならない時期に来ています。
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 大災害ではなく、政治力で最先端の国に作り替えて欲しいですし、日本のGDPの17%を占める東京都を第一に改造し、同じくGDPの40%を持つ関東一円をリンクさせ、それから大阪・名古屋・福岡の三大都市を改造し、百年計画で骨子を示してほしい。地方の不満はいろいろあるでしょうが、国全体が沈んだあとでは何も出来なくなる。  久々のゴジラ映画の素晴らしい出来上がりに接して、単純にうれしい気持ちでいっぱいですが、これをまた基盤にして続編製作を進めていくとまたまた賛否の“否”で覆い尽くされるでしょうから、今後続編は作らないという英断か、もしくは10年に一回くらいの頻度でこれまでのはなかったことにする単発モノを作っていく道しかないのではないか。  難点としてはヤシオリ作戦が成功するのは良いのですが、ビルの爆破で身動き取れなくなったGに瓦礫の山の中なのにあまりにも簡単に近づけてしまい、素直に大きな口を開け続けた挙句に全量を注入されるまで待っている点がどうも現実的ではないように思えました。  一度も栄養補給しないことも疑問です。これまでのGは消耗した体力を回復させるために原発を襲ったり、核爆弾の放射能を浴びたりするなど生物的に納得できるシーンが組み込まれていました。  劇中で体内で核融合を行っていて、エネルギー源として動き出すまでに必要な時間を割り出していくという下りもあるので納得できないことはありませんが、どこかで補給してほしかったという思いはありました。  戦闘シーンは素晴らしいのですが、自衛隊は呆気なくやられてしまう。友軍として米軍もGに立ち向かうが、この時使う地中貫通型爆弾MOPⅡの威力は驚異的でした。デイジーカッターみたいなものでしょう。  ちなみにオリジナルとの接点はGを研究していた牧教授が生まれた故郷の名前が大戸島であり、かの地で伝説の怪獣として存在していたのが呉爾羅だったというセリフが出てきます。 総合評価 90点