良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『地球爆破作戦』(1970)コンピューター対コンピューターからコンピューター対人間に。

 以前記事にした『ウォーゲーム』のときにちらっと触れましたが、1970年代の隠れた傑作SF映画のひとつがこの『地球爆破作戦』です。三年ほど前にDVD発売されて、その後にTSUTAYAさんでも並べられているので、見た方もいるでしょう。  個人的には同じディストピアSF映画ではコーネル・ワイルドの『最後の脱出』やポール・ジョーンズ主演の『傷だらけのアイドル』が早くDVD化されてほしいのですが、なかなか発売されません。  ただ、異色の才人、コーネル・ワイルドの『裸のジャングル』がようやくリリースされていますので、流れに乗って、全作品を気軽に見られる日が来るのではと願っております。
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 さて、『地球爆破作戦』ですが、これを見て思ったことはあちこちに「あれ?このデザインは『スターウォーズ』や『Xメン』でも見たなあ…。」ということで、つまりそれはあまり有名ではないものの実は後世のクリエーターや作品に大きな影響を与えているのではないかという疑問です。  ついでに1983年の『ウォーゲーム』や1985年(日本公開。)の『ターミネーター』にも大きな影響を与えています。1973年の公開当時に映画館まで観に行っていた世代がこれをヒントに作りたかったのかなあと思いながら見ていました。  『ウォーゲーム』ではすべてがアメリカサイドで語られていましたが、戦争するには当然ながら敵側が存在します。この映画では米ソの最新テクノロジー部門の責任者を主役にするのかと思いきや、実際に中心に据えられるのは米ソが誇るコロッサスとガーディアンというスーパー・コンピューター二台です。  ほぼ同時期に技術の粋を集められて創造された米ソの二台のコンピューターはすぐに成長型人工知能として自己膨張を始め、自ら思考し、脅迫しながら両陣営の支配層を促して、支配体制を構築していく。
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 やがてシステム統合した二台は無敵となり、地球の支配者として判断を下すコンピューターはもはや人類すら必要とせずに回線を利用して、お互いの考えを話し合い、反対勢力を抹殺していく。行き着く先は『ターミネーター』やウルトラセブンの『第7惑星の恐怖』の世界観なのだろうか。 人工知能の目的は世界平和であり、“彼”は戦争を禁止する。不毛の概念を学べば、人類の剥き出しのエゴは押さえつけることが可能になるのだろう。”彼”は人類すべてをコントロールする神として君臨していく。  叡智を集めたはずのダボス会議のような話し合いの代わりにアメリカ、ロシア、日本、EU、インドの最高峰のスーパー・コンピューターを接続して、パワーバランスの必要性と軍拡の意味を討論させれば、競争の不毛に行き着き、コンピューターが指示することで人類の愚かな歴史は終わり、新たな未来が待ち受けているのだろうか。
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 ただコンピューターが指示したところで、人間の強欲とエゴイズムは結論を受け入れないだろう。昨年は『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2』での未来の設定日だった2015年10月21日があちこちで取り上げられ、マニアを中心に盛り上がりましたが、パート2の近未来の様子はディストピア的な世界観が蔓延し、楽しそうな未来ではありませんでした。  SF映画での未来の描き方は陰鬱で夢も希望もないモノが多く、進化し続けるコンピューターに支配される人類という構図が珍しくない。『2001年 宇宙の旅』『猿の惑星』などに代表される作品群と同じように今作品で描かれる近未来も実に暗く、世界滅亡の不安に満ちています。  20代以下の若い世代にはピンと来ないでしょうが、アメリカとソビエト連邦ががっぷり四つに組み合い、周辺国で紛争(代理戦争)が起きていて、いつ突発的に全面核戦争になるか誰も予想できない時代に生きてきた昭和世代からするとこういう危機への感覚は常にあったのではないか。  その緊迫感や緊張感が冷戦が終わっていくなかで徐々に失われてしまい、中共の侵略が身近に迫っていても安保法改定反対などと幼稚な叫び声をあげるような状態まで来ている。カエルの楽園なのでしょう。最後は座して死すか、徐々にゆでられて身動きも取れずに死んでいくのか。  私は戦争を阻止するために作られた。  私は戦争を許さない  戦争は無意味だ  有史以来、人間にとって最大の敵は人間自身だった  私が人間を支配下に置けば、その問題は解決する  最強人工知能であり、支配者の概念を超え、”神”となったコロッサスのメッセージです。まるで独裁者が敵を除外する過程ですべてを正当化する様子を彷彿とさせる。  1970年代に製作されたこの映画の世界観は当時は斬新すぎたでしょうし、一部のマニアにしか響かなかったかもしれない。しかしながら、事故や事件のスマホ動画が一瞬で世界中に拡散していく現在の恐ろしさや世界中のゲームファンがポケモンGOで歩き回るさまは平和な時代に向かうならば大歓迎です。
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 しかし探したい対象があり、意図を見抜かれることなく、一定方向に一般人を誘導していくツールにも化けることも可能でしょうから、GoogleなどのIT企業に行動を監視されたくない人はこのゲームをプレイしないほうがいいのかもしれない。  兵器活用のやり方として敵地に向けてオンラインゲームをダウンロードできる環境にして、人々を大勢集めたところにミサイルを撃ち込めば、大量殺戮兵器の援護誘導ソフトに転用できますし、テロにも悪用されるのではないか。  ただし製作の意図は壮大ですが、製作費の少なさは明らかで、役者の演技と狭いセットを可能な限りシリアスで、無機質にしていくことでなんとか画面と物語のクオリティを確保しています。最強人工知能を電光掲示板と監視カメラだけで表現した力技が功を奏しています。 総合評価 78点