良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『艦隊これくしょん~艦これ~劇場版』(2016)ゲームで大人気“艦これ”が劇場版に!

 自宅からはもっとも近いが、今まで行ったことのなかった、いつもと違うシネコンでの初鑑賞になりました。今まで通っていたシネコンはじつは京都南部になるので地元奈良県経済に貢献するには大和郡山にあるシネコンに行く方が良い。  しかしながら習慣というのは恐ろしいもので通いつめていると、毎回無意識のうちに新作はそこで観るようになっていました。六年ほど前に県庁所在地なのに閉館してしまった地元シネコンからの映画難民になったぼくは当時では一番近かった京都の映画館に通うようになりました。  まあ、そこで掛かる映画は売れ線ばかりで珍しい作品が掛かることは皆無でしたのであちこち出稼ぎ外国人のように出掛けていきました。それぞれ見やすさであったり、アクセスの難しさだったり、周りの食べ物屋さんの充実度といろいろありますが、それらも含めての映画館での鑑賞だと思います。  今回初めて訪れた映画館はショッピングモールの三階にあるので、駐車場からはちょっと遠いが、ウィンドウ・ショッピングも兼ねて一時間くらい前にチケット購入を済ませ、休みのちょっとしたお出かけや普段羽織りにちょうど良い国民服UNIQLOやGUなどの服屋さんや大型書店で時間を楽しみました。  平日だったためか、オタクっぽい大学生グループがいましたが、たぶん彼らはゲームの方のマニアなのでしょう。ぼくは一人で観に行きましたので、たぶん向こうから見れば、変なオジサンがいるぞくらいな感覚でしょうが、お互いにディスることもなく、淡々とスクリーンに向かっています。
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 事前に来年からアニメ第二期がスタートすることが分かっていたので、この劇場版は一期と二期との繋ぎになる物語世界を目一杯広げて伏線をばら蒔いていく回だと認識しています。  奇しくもスターウォーズ・シリーズのスピンオフ『ローグ・ワン』の予告編が流れていたように、暗黒面が支配するダークな劇場版になるものと予測していました。結果としてはダークな葛藤が描かれていて思った通りではあります。  そもそも僕が見てきたのはアニメ・シリーズの“艦これ”ですので、ゲームはまったく知りません。アニメ版は如月轟沈ショックもあるためか、ファンの間でも賛否両論が出ていて、“否”が優勢であまり評判が良くないようでしたので、劇場版が出来たのは意外ではあります。もっとも第二期シリーズが来年春にも始まるようですので期待したいですし、悲劇的な最期を回避してほしい。  在りし日の軍艦(いくさぶね)の魂を受け継ぐ少女たちを“艦娘”(かんむす)と称しているこの作品はいわゆる擬人化が楽しく、美少女たちが戦闘装備である艤装を付けての戦いはアイデアとして楽しい。  主役を務めるのは駆逐艦吹雪(女の子)です。その他の軍艦もすべて中学から大学生くらいの学生や教員役(那智とか大淀。長門は秘書艦。赤城も女子高生には見えない。)までの女の子です。まあ、母艦というくらいなので、軍艦はすべて女の子としても違和感はない。  連合艦隊の第一空母赤城、加賀、飛龍、蒼龍、翔鶴、瑞鶴、大鳳などの航空母艦の魂を受け継ぐ娘たちは弓道部スタイルで、艦載機は“矢”で表現されているのが斬新で惹きつけられます。
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 戦艦の娘として長門陸奥、大和、比叡、金剛などが登場する。基本的に戦艦の娘たちは発育の良い巨乳で登場するが、これは大艦巨乳主義による洒落か。また大きさに合わせて食欲も増していき、ご飯は超大盛りで御ひつごと食べてしまう勢いです。  特に大和と赤城の食欲はすさまじく、間宮さんで注文するココイチで昔流行った超特盛カレーのような山盛りカレーを頬張る姿は微笑ましく、デートに連れて行ったら、財布が持たないレベルで食べまくるので大変そうです。  テレビアニメ第一期ではおそらくミッドウェイ海戦と思われる戦闘スぺクタル場面をメインに構成して、それまでの吹雪の成長を描いています。マレー沖海戦は省略されていますが、アニメのエピソードでカレー戦争があるので洒落なのかなあ。劇場版ではどの戦場を描くのだろうか。海戦なので候補になるのはレイテ沖なのかなあと思っていたら、主な戦闘海域はソロモン諸島沖当たりでした。  声の出演は以下の通りですが、さすがに登場人物(艦船か?)が多いためか、一人の人が色々な役柄を演じ分けています。上坂すみれ駆逐艦 吹雪)、藤田咲正規空母 赤城)、井口裕香(加賀、利根)、佐倉綾音長門陸奥、川内、神通、鎮守府のアイドルと言い張る那珂、球磨、多摩、島風。声のバリエーションが多い。)、東山奈央(金剛、比叡、榛名、霧島、パンパカパーンの愛宕。)と姉妹艦の多い人は演じる役柄も多い。
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 大坪由佳(北上、大井)、日高里菜(睦月、如月。こちらも姉妹艦)、洲崎綾(暁、響、雷、電、最上)、野水伊織(翔鶴)、タニベユミ(夕立)、ブリドカット セーラ 恵美(夕張)、堀江由衣(間宮)、川澄綾子(大淀)と主な声優さんはこんな感じです。  アニメ版は五省のナレーションから始まります。海軍学校では早朝、この五省を内省してから一日を過ごす習慣がついていたそうです。 五省 一 至誠(しせい)に悖(もと)るなかりしか 一 言行に恥づるなかりしか 一 気力に欠くるなかりしか 一 努力に憾(うら)みなかりしか 一 不精に亘(わた)るなかりしか 以上の五つですが、現代のストレス社会こそ、こういう冷静な内省が必要なのではないでしょうか。  吹雪は第三水雷戦隊に所属していたのが、深海棲艦との実戦と日々の訓練を通じて、愚直なまでに精進しつつ、成果を上げていき、ついには旗艦になるまで成長して信頼を得ていく。  深海棲艦というアイデアは興味深く、沈没したが、浮かばれない魂は艦娘ではなく、深海棲艦になってしまうようで、如月ちゃんがつけていた髪飾りが激戦後の海面に現れ、「返して!」と小さく声が聞こえるので、たぶん彼女はあちら側に行ってしまったようです。  映画は11月26日公開で、アニメは来年に第二期がスタートしますので、今回の劇場版はその繋ぎになるのは間違いないので、おそらくダークな展開になるのは避けられないでしょう。
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 劇場版で物語世界を拡大させて多くの伏線を作り、第二期アニメで如月の謎や総督の意志などすべての伏線を回収するのか、それとも第二期シリーズ後に完結編(またか?お金がつらいぞ!)としての劇場版を持ってきて、最後の資金回収に走るのかと興味は尽きない。  潜水艦(スクール水着です。)の艦娘やドイツ海軍のビスマルクなどの艦娘もいるので、彼女たちの活躍を描くには完結編が必要かもしれない。  そしてあれこれ考えつつ、スクリーンを眺めているとついに上映スタートしました。内容としては真っ赤に海が染まっていく海域の秘密を探り、敵である深海棲艦の一大拠点であるアイアン・ボトム・サウンドを攻撃して海が赤くなる理由を突き止めるというものでした。  ファンにうれしいのはアニメで唯一轟沈した如月が深海棲艦の拠点で発見され保護される下りでしょうか。艦娘が轟沈すると深海棲艦になってしまうが、深海棲艦を撃沈させると艦娘に生まれ変わるという無限ループ論が出てきます。  つまり艦娘だった如月はいずれ深海棲艦になってしまう運命にあるが、現在は艦娘であり、アイアン・ボトム・サウンド攻略の作戦には参加しないことになる。まあいつ敵側に寝返るか判らない者を味方として連れていくのはリスクが異常に高いので仕方ない。  なんだか『ひぐらしのなく頃に』『涼宮ハルヒの憂鬱』みたいに延々と同じことを繰り返すのかと一瞬暗澹となりますが、艦娘が沈まずに深海棲艦をすべて轟沈させることができれば、全員が艦娘に戻れるという超楽観主義が出てきて驚いてしまいます。
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 今回のカギを握るのは姉妹型の暁と如月の葛藤とアイアン・ボトム・サウンドの出所に突っ込んでいく主人公吹雪です。如月は本来戦場に来るべきではないのでしょうが、良心を残す深海棲艦型艦娘という別次元に進化しています。  失われていく良心と拡大する無念の魂である深海棲艦に進んでいく過程(病状)を暁への思いでなんとか自我を保ちつつ、海戦に参加し、ハイブリッド型艦娘として皆を守り切る。  かなり厳しい戦いのため、多くの艦娘が傷つき、倒れそうになり、すべての武器を使い切った北上、大井らの第二艦隊の残存勢力は大和や暁、吹雪らを先に行かせ、海に漂う。そこを深海棲艦の艦船に取り囲まれる。  先に進む大和らも徐々に最後の時を迎えようとするが、吹雪を中心まで送り届ける。サウンド震源地である深海に飛び込んだ吹雪はそこで自身の片割れである無念の化身と対面する。向こうはすでに深海棲艦化しているが、片割れである希望としての艦娘の心がネガティブな無念に打ち勝ち、というか無念を包み込み、アイアン・ボトム・サウンドは鳴りやみ、海が正常化していく。  後半のクライマックスまでの海戦は映画館ならではの迫力ある音響により、かなり満足度の高い出来に仕上がっています。アニメでの悲劇的な伏線や謎もすべて回収されています。
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 アニメで轟沈した如月は深海棲艦化する過程であったため、暗黒面であるアイアン・ボトム・サウンドの消失とともに消えてしまうが、他の深海棲艦と異なり良心を残しているためか、徐々に崩壊していく。  アニメでは孤独のうちに轟沈した如月でしたが、今回は姉妹である暁に看取られながら昇天していきます。一方、自身の暗黒面をも包み込んだ吹雪は生き残り、大和ホテル(?)のある宿営地に帰還してくる。その他の艦娘も生き残ったようです。  映画はこのまま吹雪が新たな艦隊を率いて深海棲艦撃滅へ出向くところで終わる。ただエンディングのスタッフロールが始まっても誰も席を立たない。みなまだ何かあるのではないかと期待していると案の定、暗転してから海の見える丘で暁と如月が再会するところで終わる。  これが夢なのか、現実なのかは分かりかねますが、これは来年始まるアニメ第二期につながっていくのだろうか。
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 基本的にアニメ第一期を見ていない人には敷居が異常に高く、訳が分からないでしょうし、感情移入は難しい。またアニメ第二期を見るつもりがない人にも無意味かもしれない。  ただアニメへの批判に耐えて、ずっと見てきた人には十分に見応えのある劇場版に仕上がっています。難点としてはアニメ版に出てこなかった艦娘たちが大活躍して如月を助け出す下りが分かりにくいこと、鎮守府のアイドル那珂ちゃんや雷電コンビの活躍が皆無だったこと、北上と大井のいちゃつきがまるでなく味気なかったことでしょうか。  レズっぽい設定が嫌な人には問題なしだったのでしょうが、批判に耐えてアニメを見続けた人には物足りない感じでした。何はともあれ、各提督、おつかれさまです!  総合評価 68点