良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『海賊とよばれた男』(2016)石油メジャーと大喧嘩して生き残った漢・出光佐三の物語。

予告編でよくやっていた『海賊とよばれた男』に来ています。原作は未読ですが、日章丸事件出光佐三のことは高校時代に日本史の先生から聞かされていました。  当時は「根性ある人やったんやなあ…」という程度でしたが、まさか今頃になってベストセラーになり、さらには映画化までされるとは思いませんでした。  最近は出光と昭和シェル(メジャーです。これ大事です!)の合併騒動が経済ニュースを騒がせていますが、この映画を見ると両社のアイデンティティはまるで正反対なので、創業家が待ったをかけたのは当然だと理解できます。
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 第二次大戦前の満州国時代からの最大の敵である石油メジャーとメジャーに屈した出光以外の石油会社と合併するなどはあり得ないと分かるでしょう。  本編映像を見ていて感じたのは『ALLWAYS 三丁目の夕日』に似ているなあというものでエンドロールが出てきて、監督が山崎貴とクレジットが入り、納得しました。  ただ最近はエメリッヒ化しているような気がします。作品内容はかなり違いますが、大作を任され、特殊効果をふんだんに使い、宣伝を投入しているという意味においてです。
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 本日の観客の年齢層は思った通りで高齢者ばかりで、本来ならば見て欲しい大志を抱くべき中高生などの若者たちは誰一人いない。その代わり、映画館には来てほしくない輩が数名いました。  まずは上映中、ずっとシャカシャカとビニールに入った持ち込みらしきエサを漁るバカジジイ、そして席をチョロチョロ移動しながらとなりのバカ親としゃべるクソガキ及び注意しないバカ親、携帯音を何度も鳴らすバカ老婆と最悪の環境にテンションは下げられっぱなしでした。  劇場もカネ目当てに誰にでもチケットを売らずに、大人向きの映画に子供の入場は断るという最低限のルールを作るべきでしょう。お願いしますよ、シネマ郡山さん。
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 見ていると音楽に問題があり、何度も仕事に汗を流すシーンや困難にぶち当たったシーンで挿入される社歌『国岡商店社歌』の多くにBGMがつけられてしまっていて、臨場感が永遠にゼロになり、現実に引き戻されてしまいました。  これは何を考えているのかとガッカリしました。おそらくCDなどを売りたいのでしょうが、映画を観た人はカラオケなしバージョンを望むはずなのですべてのひとがガッカリするでしょう。  お話自体は出光石油の創業時や戦中戦後の困難を描いた力作で歴史的も見どころは多い。個人的に楽しかったのは“船”の変化で、商店立ち上げ時は手漕ぎ船だったのが少しずつお金を儲けだすとエンジン積載の船に変わり、戦争引き揚げ船が登場し、ついには自社の財産としての日章丸(映画では日承丸として登場。)が完成し、大海原に繰り出していく。
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 ここで上手く用いられるのが山崎監督らしいVFX表現で、迫力ある映像を見られます。SFと違い、かつてあったものを再現するのでかえって映像として表現するのが難しい部分もあったでしょう。それでも徹底的にディティールにこだわっていたようで、説得力のある映像に仕上がっています。  俳優陣では岡田准一を主役に用い、ALLWAYSでも起用した吉岡秀隆、もっとも印象的だった戦死する染谷将太鈴木亮平、最近よく見る野間口徹、この人も良く見るピエール瀧矢島健一、ほとんど存在感がなかった黒木華、薄幸の妻を演じた綾瀬はるか、日章丸船長役の堤真一、大正時代からの付き合いだったパトロン役の近藤正臣、石油利権の黒幕役の國村隼らを豪華に配置しています。  物語はダイジェストのように、そして年老いた岡田の回想が行ったり来たりするために注意深く見ていないとおはなしに取り残されてしまうかもしれない。なんだか大河ドラマの総集編のようでした。仕事ぶりは丁寧です。
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 これならば、前編後編の二部作にしてもらい、年明けくらいに戦後の有名な日章丸事件の顛末を丁寧に映画化した方がより理解が深まったのではないか。  また妻役の綾瀬はるか及び後妻の黒木華の使い方が迷走しているように見えました。最初の妻の綾瀬へのスポットの当て方も中途半端でしたし、黒木に至っては存在感が全く出ていませんでした。これならば名のある女優を起用していく必要性も感じません。  ストーリー展開としてはクライマックスとなる日章丸事件及び日本に帰還する際に遭遇した英国軍艦との接近遭遇で緊張と弛緩を行い、日本の川崎に帰港するまでを描いた方が重みがあったのではないか。余計な家族エピソードを無理やりに入れる必要性はない。 総合評価 75点