『妖星ゴラス』(1962)子供のころ、異質に映ったSF特撮映画の傑作。怪獣マグマは必要!
東宝特撮映画の傑作である本作品の製作年度は1962年です。その頃からすると作品舞台となっている1979年は近未来であり、科学の進歩がポジティブに語られる時代であったに違いない。万国博覧会、東京オリンピック、高度経済成長など昭和の発展を代表する言葉が国民の意識を高揚させていたでしょう。
そこへ突然、死にかけの太陽のような超高熱の彗星ゴラスが地球に向けて一直線に迫ってくることが惑星探査ロケット隼号から知らされる。田崎潤船長ら搭乗クルーは地球の二千倍というゴラスの引力に引きずられ、生還が叶わなくなるが、最後までデータを送り続けて激突して果てる。
命令を聞かずに未知の彗星探査を行い、殉職していった隼号に対し、当初政府は責任問題で揉めているが、各国からのデータへの感謝の声が届くと一転して英雄に祭り上げる醜さが示される。今も昔もグラグラする日本は変わらない。
地球の二千倍の引力と六千倍の質量(再接近時には成長して六千二百倍)を持ち、大きさは地球の四分の三というのがゴラスの設定です。観測時はまだ太陽系には来ていませんが、一年足らずで衝突することが明らかにされます。
それまでいがみ合っていた米ソもさすがに協力せざるを得なくなります。具体的には南極に水爆並みの重水素の爆発力を利用して、ジェット噴射によって地球の軌道を変えてしまおう(ゴラスを避けた後は北極に同じ設備を作って元の軌道に戻すそうだ。ただ北極には大陸はない。)という現実的には荒唐無稽な計画が立てられる。実際にやれば、たぶん地面にめり込んでいくだけでしょう。
当初はゴラス爆破計画と軌道変更計画の二つが提示されるが、地球の六千倍の質量を爆破するだけの兵器はないので軌道変更を採用する。後年、ウルトラセブンのエピソード『ダーク・ゾーン』でペガッサ星人の巨大宇宙都市ペガッサをセブンが破壊する下りが出てきます。
自身の軌道すら変えられない幼稚な科学力しか持たない原始的な地球を救うためとはいえ、ペガッサを爆破してしまえば、あちらの生き物は滅びます。絶対的な正義など存在しないというセブンの世界観がしっかり堪能できるエピソードの一つです。
また引力に曳かれるという設定はデス・スターに向かっていく反乱軍にそのまま何度も使われていきます。科学的に見れば、突っ込みどころ満載なのでしょうが、小学生の頃からテレビやビデオで見てきたぼくは楽しんできました。
思い出に残るのは円谷らしい迫力ある都市破壊シーンの素晴らしさです。光学的な処理は今の目で見ると初歩的に映るのでしょうが、これが製作されたのは1962年です。半世紀以上も前にこれだけのことをやってのけたのは驚きです。
ジェット噴射で燃え上がる南極基地の物量と迫力、突拍子もなく現れて、ジェット・ビークルみたいな攻撃機にすぐに退治されてしまう怪獣マグマの悲哀は何度も見ては泣けてきます。
マグマと攻撃機はそのままウルトラQやウルトラマンに転用されたようです。ちょこちょこ出てくる白川由美の恋愛エピソードは終末かもしれないという刹那的な人間臭さが上手く描かれているように思いました。なつかしのイデ隊員役でウルトラマン・ファンにはおなじみの二瓶正典が出ているのも嬉しい。
俳優陣も懐かしの方ばかりで、当時の黄金のラインナップともいえる俳優が目白押しです。池部良、上原謙、志村喬、白川由美、水野久美、西村晃(水戸黄門様ですね)、田崎潤(隼号の船長です)、平田昭彦、佐原健二、久保明、太刀川寛、堺左千夫、天本英世(死神博士じゃないですか)らが出演しています。
1962年(物語世界では1979年)の時点においては人類を救う方法としてゴラス爆破計画と軌道変更計画の二つが候補に挙げられていましたが、今ならば、世界の超富裕層(いわゆる1%の大金持ち)と中共の欲張りだけが良ければそれで良いという輩が火星移住するか、宇宙ステーションに運べるだけの物資を抱えて地球から逃亡しそうです。
残された我々99%は見棄てられる訳ですが、世界の金持ちの上位ベスト10の資産と下位36億人の資産が同じなら、ぼくらの身の回りにいるすべての人は等しく貧しいという平等社会に生きていると言える。
人気取りをしようとする政府は会社経営者とか少金持ちに課税強化を行うのでしょうが、超富裕層はそこにはいない。だって彼らの財産があるのはパナマやリヒテンシュタイン、シンガポールなどの租税回避地にあるのだから。
キャメロン元イギリス首相、プーチン、周近平がらみの口座もあるわけですし、自分だけのセイフティ・ガードは盤石で、いつ失脚しても大丈夫です。ほったらかしにされるのはいつも国民だけのようです。
もし、地球滅亡危機が起こり、超富裕層が逃げ出したらどうするか?そのときは脱出しようとするロケットを破壊して道連れにするか、火星に水爆を落として道連れにすればよい。まあ、ブラックだなあ。
しかし科学や成長期万歳という時代はとっくに過ぎ去り、軋みや歪みが日に日に大きくなっています。超富裕層の代表ビル・ゲイツはトランプをケネディに似ていると評しましたが、後ろから撃たれるという意味だろうか。
トランプが租税回避地を滅ぼす対策をするならば、彼を支持するべきでしょうが、超富裕層は自分達の影響力や資産を守るためならば、大統領だろうがお構いなしに抹殺しそうですし、中共の独裁者、周近平とでも手を握りそうです。
フランス革命やロシア革命で貴族たちは壊滅的な打撃を受けましたが、スーパー・リッチにもそんなギロチンの日が来るのだろうか。
総合評価 85点