良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『グッドモーニングショー』(2016)出したのが15年遅いかも…。

 『踊る大捜査線』などフジテレビ系列の脚本を多く手掛けてきた君塚良一が監督したコメディがこの『グッドモーニングショー』です。今では当たり前になったネット環境も15年位前ならば、普及が爆発的に進んでいく過程でウィニーなどのファイル交換ソフトによる漏えい問題も発生していました。  ネット利用者にとってはダウンロード規制をはじめ、様々な問題が起こり、混沌としていました。それでもまだ一般の人たちにとってはテレビや新聞が情報の大部分を占めていました。  しかし時は過ぎ、テレビや新聞など旧来の価値観を構築してきたメディアに対しての信頼はすでに大きく低下しています。英国ではEUからの離脱を掲げた人々が勝利し、政権は崩壊しました。アメリカでも選挙前はヒラリーが優位であると大手メディアから連日伝えられていたのにいざ投票してみるとドナルド・トランプ大統領が誕生しました。  わが国でも旧来の新聞やテレビ局への信頼は消え失せているにもかかわらず、相変わらずの偏向した報道姿勢は改善されることなく、部数や視聴率は低下する一途です。  いつまでも陳腐でステレオタイプの価値観を押し付けるメディアには若い層の国民はすでに見切りをつけているのではないか。
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 スマホの普及もあり、ニュースはネットで手に入る。見たい記事だけを見ないでいろいろ見てから真偽を確かめる判断力が不可欠にはなりますが、いくつかのニュースを確認すれば、ある程度は取捨選択できます。  そんな状況下ではテレビメディア側の内幕的な題材をコミカルに描く本作のような脚本に求められるのはより真相をえぐる切れ味や登場人物の深層に迫る覚悟でしょう。  コメディとして無難にまとめようとしていますが、どうも「こうすれば、観客は喜ぶだろう?」「こんな感じが見たいんでしょう?」という下世話な意図が見えてきて、少々不快になります。  カフェ立てこもり事件に司会者役の中井貴一とアシスタントの長澤まさみの不倫疑惑を絡めて展開させていく構成は無難ではあります。関係をばらすぞというまさみちゃんの爆弾女的なサスペンス感を作っていますが、どうも中途半端に終わっている。
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 立てこもり犯として司会者中井を呼び出す濱田岳は最近の事件の犯人像としてはなかなかの現実味はありますが、犯罪を起こすほどのリアリティはあまり感じない。  そもそも彼は火事の責任の汚名を店長にかぶせられてクビになり、無実を晴らすために中井に近づきますが、無視されて立てこもり事件を起こしてしまう。ただ事件の犯人として逮捕されていたのであれば、逃亡の危険もあるので収容されているのではないか。  逮捕も拘留もされていないのであれば、司会者を恨んでいて事件を起こすという展開は強引過ぎるし、説得力はない。また犯人が自殺しようとするとテレビ投票を呼び掛け、死なないように説得するというのは悪趣味です。  しかも他人事ならば、誰が死のうと関係ないし、むしろ退屈なテレビショーをきっかけにもしかするとライブで自殺が放送されるスリリングな期待から死ぬようにリモコンボタンを押す暇人ばかりの低俗な輩が出てくるのは容易に想像できます。
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 犯人が「死ぬべき」が69%、犯人の命を「とっておく(生きるべき)」が31%という予想された集計が上がってきたところ(聴衆は他人が死ぬところが見たいのだ)を局内の編集責任者(時任三郎)は編集して逆の数値で発表する。  情報操作ですが、人命を救うためならばオッケーというマスコミ関係者(君塚含む)の思い上がりのエゴが見えてくる。生命の危機にさらされているのがマスコミ関係者ではなく、警察関係者や自衛隊関係者ならば、そのまま発表していたのではないか。  自分たちの指先一本で人の生き死にを決められるのだという思い上がりと傲慢な姿勢は見苦しいし、使命感とやらのためといいながらも自分たちの都合で情報はどうにでもなるよというシーンが出てくるのは陳腐ですが、けっこう不快な現実味を持っています。  常にスポンサーの意向を伺い、事件現場に映っているのがスポンサーのライバル会社だからカメラアングルを代えろと要求してくる下世話感はただただ不愉快になってきます。おそらく製作側の意図はそういう面も含めて笑ってくださいということなのでしょうが、なにも笑えない。
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 夫が生命の危機に陥っているときに冷め切った目で終始、自宅のソファーでくつろぎながらテレビを眺めているだけの司会者中井の嫁役の吉田羊に違和感があり、ふいに差し込む家族エピソードも無駄にしか思えない。  普通、都内で自宅からそう遠くは離れていない場所で家族が犯罪に巻き込まれ、生命の危機が迫っていたならば、警察は自宅に来るだろうし、現場まで行こうとするだろう。局側もまったく家族に接触しようともしないし、違和感満載です。  コメディなのにあまり楽しくはない。社会派として描くには軽すぎる。相対的に悪くはないのにどこか不満が残る。なんだか不思議な作品でした。  製作側はいったい何を見せたかったのだろうか。内幕モノの喧騒を面白おかしく描きたかったのか。だとすれば成功したとは言えない。 総合評価 60点