良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『SF火星の謎/アストロノーツ』(1971)雨降りはこれで決まり!

 この作品はいわゆる映画、つまり劇場で一般公開された作品ではない。1970年代以降に多数製作されてきたテレ・フューチャー、つまりテレビ映画です。  こういった作品からでもスティーブン・スピルバーグの『激突!』のように好評価を得て、のちに劇場公開された作品もあります。今回記事にした『SF火星の謎/アストロノーツ』もテレ・フューチャーのひとつです。  1970年代から1980年代にかけて、当時は大人気だったプロ野球が雨天中止になるタイミングで放送される雨傘番組として『プロ野球珍プレー・好プレー』とともにしょっちゅう目にすることが多かった作品のひとつです。  ではそれほど放映された理由はなんだったのだろうか。まず第一は放映権料が安かったのだろうという経費的な問題を挙げることができます。  製作元、もしくはブローカーとテレビ局側は放送契約を結びますか、通常買い取りでないので、放映権を獲得してはじめて放送ができます。
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 当然ながら、契約には期間があるので、たとえば二年契約だったりすると、一年置きくらいに一度放送して、期間中に数回は放映できます。  よって昼・夕方・深夜と時間帯を変えたり、テレ東でよくやっていたように放映タイトルを放送ごとに変更したり、時間そのものをカットする編集が行われたりするので、同じ作品に遭遇する確率は増えていく。  これを関東キー局が入れ替わり立ち替わりで契約を結んでいくとさらにタイトルも変わり、視聴者は何度も何度もババ抜きのように放送される同じコンテンツに遭遇することになる。  これらも含めて楽しむのがテレビ洋画劇場の有段者ではないか。また同じじゃないかと目くじら立てずに再放送に巡り会えたことに感謝しましょう。騙されるのもまた宜しからずやと孔子様のように達観しましょう。  それはさておき、実際問題としてこの作品は上映時間がフルに放映したとしても72分と短めであり、余計な編集の手間がないのが重用されたポイントでしょう。
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 昼下がりや深夜帯の誰も内容など気にせずにただテレビを付けているだけのダラダラした視聴者向けに流すにはこういったコンテンツを流すのが一番無難だったに違いない。  最近のクレーマーだらけの鬱陶しい状況ではなおのことかつてヒットしたドラマやバラエティの再放送や映画は使い勝手が良い。  この作品の内容は大向こうを唸らせるようなテレジェニックな見せ場は皆無であり、どちらかと言えば、火星探査に出向いたものの不慮の事故で亡くなった宇宙飛行士の未亡人をも巻き込んで、予算を維持したい官僚の陰謀により未亡人のもとに整形して送り込まれる男の悲劇を描いたサスペンス映画です。  地味な『カプリコン1』といった趣ですので派手な宇宙船が出るわけでもなく、エイリアンが登場することもない。宇宙でのシーンは宇宙飛行士が不鮮明な映像のなか、宇宙服の不具合が原因かと思われる整備ミスでじわじわ死んでしまうシーンのみです。
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 あとはすべて人間ドラマだけで押し切ってしまう。キスしたときの口臭や微妙な接触から正体を見抜かれてしまい、嫁にグイグイと問い詰められて、ついに泣き出してしまう替え玉(モンテ・マーカム)の人間性が印象深い。  未亡人(スーザン・クラーク)は騙されたことに激怒するものの、その後の人生を保証され、また替え玉の優しさ(本物は男尊女卑思想の持ち主のようです)に触れていくうちに彼と生きていく決意をします。  そして配役で一番興味深かったのがジャッキー・クーパーです。『チャンプ』の子役で有名になったものの大人の俳優としては羽ばたけず、鳴かず飛ばずになっていた彼でしたが、テレビ時代の到来とともにこういうテレビ映画や『スーパーマン』の編集長役で再ブレイクを果たし、晩年は刑事コロンボにも出演していました。  顔を見て何だか懐かしいなあと思い、調べてみたところ、このひとが『チャンプ』の子役だったことにはじめて気づきました。  何も知らずに子供のころ見ていた『刑事コロンボ』や『スーパーマン』に出ていたオジサン俳優がこの『SF火星の謎/アストロノーツ』にも出ていたので彼の生き様を振り返ることになりました。このおじさんも色々と人生苦労したのだろうなあとしみじみ思いながら、再度鑑賞していました。
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 キスで偽者を見抜く嫁  まあ、俳優として一番印象的だったのは苦難を乗り越えて一線に戻ってきたジャッキー・クーパーでしたが、お話の中で一番強烈だったのはキスの粘液と体臭だけですぐに偽者と見抜いた嫁(スーザン・クラーク)でしょう。  というか、女の子でも口臭や体臭は人それぞれ違うのでキスすれば、彼女かどうかなんてすぐに見抜けるはずですね。  もしかすると何気にこの作品は大人向けの土曜ワイドみたいな体質を持った物語だったのかもしれません。 総合評価 69点