良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『美女と野獣』(2017)特撮技術向上による実写化の流れは進む!

 今回、映画館まで観に行こうと思った理由は二つありました。ディズニーのアニメ版の評価がかなり高かった『美女と野獣』をわざわざ実写版にして映画化する必要があったのかというのが第一の疑問でした。  絵コンテがしっかりと観客にも浸透しているアニメ作品を実写化するには特撮技術の進歩が不可欠で、ここが陳腐で見る者を納得させるレベルまで到達していない場合、アニメ版のファンだった観客を失望させてしまいます。  第二の疑問はディズニー・アニメには素晴らしい作品は色々あり、『眠れる森の美女』は『マレフィセント』で魔女に焦点を当て、そこそこの出来栄えに終わり、『アリス・イン・ワンダーランド』、つまり『不思議の国のアリス』の続編が大コケしてしまったためにそのリベンジを狙ったのだろうかということです。次は『白雪姫』だろうか。  『ズートピア』と『モアナと伝説の海』がなんとかアリスの続編の失態の穴を埋めてくれたおかげで体裁が保てているに過ぎない。『スターウォーズ』にも手を出し、夏には『パイレーツ・オブ・カリビアン』の新作で大金を集め、次のアトラクションの宣伝映画を公開しようとしているディズニーにとって、この作品はどういう位置付けなのだろうか。  魔法を掛けられた野獣が純粋な女の子の真の愛情でキラキラしたイケメン王子様に戻るという古臭い展開は『ハウルの動く城』『紅の豚』などの宮崎アニメでも出てきます。  今日の朝のニュースでは観客動員数が100万人目前であることが伝えられていました。ディズニーの片棒を担ぐのは抵抗がありますが、映画を見てもいないのに批判は出来ません。
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 良いにせよ、そうでもないにせよ、まずは見てから判断したい。夕方からの上映でしたので、仕事帰りのOLが圧倒的に多く、キャパ120人程度のところに80人程度が入っていました。  これは奈良では大盛況の部類に入ります。彼女たちの反応を見たり、会話を聞いているとなんだかリピーターが多いようです。まあ、ディズニー好きな人は何回でも足を運ぶでしょうから、動員数はAKB総選挙のように水増しされているでしょう。  こちらは冷静なので、見るポイントは特撮技術、音楽の使い方、ストーリー展開のテンポ、俳優がハマっているかなどです。  ただ通常来ない者が来ることもあるので予想はしていましたが、年寄りのジジイババア夫婦が二組ほどいて、喋るわ、食い散らかすわで最低でした。自分の汚い家と公共スペースである映画館との区別も出来ない半ボケは来るべきではない。  作品に関しては皆がすでにストーリーを知っているという前提なので問題はない。映像、特に野獣王子の城内で魔法に掛けられた村人兼召し使いたちが家具にされていて、彼らがエマ・ワトソンを歓迎するためにディナーを用意する際、淋しい彼女を楽しませる躍りと音楽のシーンの出来が素晴らしく、楽しい仕上がりになっています。  このシーンを見るだけでも、映画館に出掛ける価値はあります。エマ・ワトソンを着飾るために“歌いながら動く箪笥のオバちゃん”(本当にそうなのでこうしか書けないww)が金粉を細工しながら、ドレスに模様を装着していくシーンは夢見る女の子たちには楽しめる演出でしょう。
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 せっかくここまでやるのであれば、服の模様ではなく、エマ・ワトソンの頭に乗るティアラにでもすれば、お姫様感が増し、より魅力的になったのになあと思いながら見ていました。エマ自身が適切かどうかは分かりかねますが、悪くはないという印象です。野獣ダン・スティーブンス(超獣ブロディみたいだ!)に関してはほとんどが特殊メイク状態なので何とも言えません。  また話題になっていた同性愛描写と思われるバディ感及びマツコ・デラックス感たっぷりのジョス・ガッドとガストン(ルーク・エヴァンス)との関係性やしぐさを注意深く見てはいましたが、それほどストレートな描き方ではないので、何故にそれほど問題になったのかが不思議でした。一応はディズニー初の同性愛キャラという称号を得ることになりました。  見ていて弱いなあと感じたのは監禁されているエマ・ワトソンが被害者でひどい目に遭わされている前提なのにあっさりと野獣に心を許していく過程で、ちょこちょこと本が大好きでインテリな彼女が村では受け入れられているとは言い難い点が語られますが、それで感情が動くかなあと疑問が残る。パトリシア・ハーストのようなストックホルム症候群だろうか。  それに加え、なんだか萎えるなあと思ったのはアメリカの業界ルールでしょうがないのは理解していますが、意味なく大勢の黒人キャストが魔法の巻き添えを食った村人かつ召使役に入れられている点で、この当時ならば、彼らは奴隷という括りなのではないかとモヤモヤしながら見ていました。  衣装からすると20世紀にはなっていないことを考慮してみると、当時は白人万歳時代ですので彼らに正当な地位や賃金が与えられていたとは考えにくいのでついついそういう風に見えてしまいます。  個人的に楽しかったのはオープニングにディズニー城が浮かび上がるおなじみの映像の時、お城の後ろ側に小さな集落が映り込んでおり、それがこの映画の舞台のようなのです。
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 つまりディズニー世界の中の一部にこの町があり、お城もまたこの世界に繋がっているような演出がある点でした。  勘違いかもしれませんが、なんだか良いなあと思いました。構成という点ではミュージカル要素があまりにも強く、ちょっと喋ったら、すぐに誰かが歌い出すのは閉口してしまいました。  何度も繰り返し歌われる『美女と野獣』のメイン・テーマは使いすぎで効果が落ちてしまっています。それでも今年の冬に公開された『ラ・ラ・ランド』とは比べ物にならないレベルの高さを誇っていて、ディズニーのプライドと有り余る製作費のおかげでゴージャスな仕上がりにはなっています。  晩餐シーンで賑やかにエマ・ワトソンを楽しませる調度品たちのなかで、紅茶ポットのおばさんが宙に浮きあがり、ニコニコするカットがあるのですが、これはメリエスの『月世界旅行』そっくりで笑ってしまいました。
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 心配していた特撮部分もしっかりクリアしてくれていて、個人的には楽しめました。なお、女の子をお姫様気分にさせてくれ、ブサイクでも中身を見ろよとアピールする点でもデートに連れて行ったり、娘さんを映画館に連れて行くには持って来いの人畜無害な安全映画でもありますので、迷ったらこれで無難でしょう。『スプリット』はやめときましょう。  アニメと実写版では多数設定が変更されていて、アニメでは採用されていた場面がばっさり落とされていたり、反対にアニメで詳しく語られなかった部分が詳細に語られていたりして、完全に同じというわけではありませんので、アニメに強いこだわりを持つ方はあくまでも別作品であることを理解して劇場に出向かないと不満が残るかもしれません。  昔のハリウッド映画のようにメインの出演者たちの顔と名前、そして役柄が一人ずつ紹介されていくエンドロールが懐かしさがあり、古き良き時代を感じさせるお洒落なエンディングでした。ただスタッフ・ロールは延々と続きます。  ラストのディズニー城が出てくるお馴染みのカットにオープニングでは出ていた物語世界の集落が写っていないのは残念でした。これを映像で表現してくれるといいなと思い、席を立たずに残っていたのですが、しょうがないですね。 総合評価 70点