良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ブレードランナー』(1982)評価を得るまで10数年を要した傑作SF

 80年代に公開されたSF映画の中では圧倒的に多くのマニアを魅了し続けている『ブレードランナー』を今までぼくは五回ほど見ましたが、その度に違う印象がありました。  そもそも公開は1982年で最初から評価されてきたわけではありません。家庭用ビデオやレンタル店の隆盛と共に人気が出てきたカルト映画だったのが今では歴史的な名作として評価されているのです。  ぼくがはじめて見たのはたしか高校生の頃でテレビ放送の吹替え版でしたので、オリジナル版だったと記憶しています。そのあとはビデオ・レンタル、WOWOW、BS、スカパー、そしてDVDでの鑑賞でした。
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 ただ、その度に見た印象が変わる不思議な作品でもあります。その理由は公開時オリジナル版、ディレクターズ・カット、ファイナル・カット、そしてテレビ放送時の吹替え版と見る度に違う編集のモノをこだわりなく見てきたからです。  さらにそれほどマニアックにのめり込むことなく一作品として眺めてきたから、細かな違いを強く意識しなかったこと、そして見る間隔が空いて、長いときには十年以上も経ってからだったりとかということもあり、ゴチャゴチャに覚えていたからでしょう。  今回は現在公開されている『ブレードランナー2049』を映画館に観に行く前の復習かつ新作の予習として、自宅で所有しているディレクターズ・カット版『ブレードランナー』を夜中に見ています。
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 見ていて気づいたのはハリソン・フォードのナレーションがなかったことで「ああ、あれはオリジナル版だったのか。」「残虐シーンがあったはずだけど、あれはファイナル・カットだったのかな!?」というマニアが聞けば、怒られそうな感想でした。  まあ、それはさておき、今回見直して感じたのは世界観やビジュアルの設定は結構往年の名作『メトロポリス』に似ているなあということでした。  ついでに作品の雰囲気はフィルム・ノワールの設定にも似ています。犯罪者、謎の組織と謎の美女、理由がよく分からないままにアクシデントに巻き込まれていく感じなどです。
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 妙な和風テイスト(ツバメクラブみたい。広告に登場する巨大な芸者風モデル。日本語の看板や居酒屋!?)、不思議なデザインの飛行船や威圧的な外観のタイレル社、ディストピア的世界観はフリッツ・ラングの『メトロポリス』そのものです。  ただSF的な未来観を映画にしようとするとどうしてもディストピア的世界観で製作する方がお話としては面白いのでしょうが、科学の進化にはプラスの面もあるはずで、どちらに目を向けるかで見え方は違ってきます。  例えば、AIやレプリカントに対して、人類を脅かす恐怖と捉えるか、人類の病気治療や働き方を含めた生き方への福音や可能性と捉えるかではまるで印象は変わってきます。
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 緑内障や目の障害で視力を無くしてしまった人でもたとえ四年に一度は交換する必要があったとしても視力を取り戻せる可能性が出てきます。  病気の内臓や血液の入れ換えも可能でしょうし、様々な明るい未来が広がります。ロサンゼルスに蠢く日本、中国、東南アジア、中東色が色濃い非白人コミュニティにしても侵略やアイデンティティの喪失と受け取るか、中共への返還前の香港のような混沌とした活力と取るかで見え方は変わってきます。  同じ時代を切り取るにしても、悲観的にも楽観的にも捉えられます。ルトガー・ハウアーが演じたレプリカントの最期のシーンは謎に満ちていて、さまざまな解釈がされています。
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 多くのブレードランナーマニアにとってはとても重要です。唐突な白鳩の登場は何を意味するのか、ハウアーが自分の手を釘で打ち抜くのは受難に耐えた末に復活するキリストを意識しているのか。  ハリソン・フォード自身は嫌っていたヒロインであるショーン・ヤング(髪型は笑ってしまいますww)はその後どうなるのか(双子を出産し、死亡。アンドロイドが出産?)。事実を隠して見つからないようにしてしまうというのは『スターウォーズ』のルークとレイアみたいです。  子供を奴隷(見世物)として隠すのは『猿の惑星』のシーザーみたいです。デッカードのパトカー(空飛ぶ車って、デロリアンみたいです!)にまとわりつく小さい奴らがジャワみたいに見えるのはぼくだけだろうか。
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 衝突や摩擦は文化や文明が切り替わるときに必ず起きるもので、徐々に解決されていくものなのだと理解すれば、落ち着いた対応が出来るのかもしれない。  ハリソン・フォードか演じたデッカード捜査官について、彼もレプリカントの一人(バティらが6型。だとすると7型か8型?)であるとしていた見解もあったようですが、今回の『ブレードランナー2049』の公開によっても秘密は明らかにされていません。  また最新作である『ブレードランナー2049』について、本国アメリカでは観客動員が大コケだったと面白おかしく揚げ足取りに終始しているようです。
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 しかしながら、もともとがマニア向けのカルト映画であり、何も考えなくても良いデート用ではないので敷居が高いのは当たり前です。解りやすい娯楽作ではなく、芸術的な構図や色彩が前作にまして強化されていて、興味深いが一般受けするような楽しい作品ではない。  マスコミの下らないミスリードに誤魔化されずに自分の意思を貫いて是非とも映画館に足を運び、巨大スクリーンの迫力と音響を楽しみましょう。  ヴァンゲリス(よく『ラジオスターの悲劇』をヒットさせ、その後は売れっ子プロデューサーになったトレバー・ホーンのバングルスと間違える人が多かった。)のサントラが好評だった今作品は見所が多いので新作も楽しみに観に行きます。というか、今日見てきましたのでしばらくしたら新作についても書いていきます。 総合評価 92点