良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『バングラデシュのコンサート』(1972)ライブ・エイドの原点はジョージ発案のこのコンサートでした。

 おかげさまで今回の記事で映画関連の累計がちょうど1000本目になりました。ブログを始めてから15年目になってようやく1000本目なのでかなりペースは遅いわけですが、自分で無理なく続けていける程度の更新でやっていく方針に変わりはないので、今後ともよろしくお願いいたします。  ジョージ・ハリスンの出ている映画というと、ビートルズ時代の4本の出演作『ア・ハード・デイズ・ナイト』『ヘルプ!』『マジカル・ミステリー・ツアー』『レット・イット・ビー』くらいで、他に思いつくものはモンティ・パイソンでしょうか。  そんな彼も一時期は積極的に活動していて、ビートルズ時代の三番手という立場から解放されて、活き活きとしながら、三枚組超大作『オール・シングス・マスト・パス』を発表したり、このコンサートを企画したりしていました。  三枚組の『オール・シングス・マスト・パス』はジョージの才能をすべて出し切った感のある作品で、それは裏返すとこの超大作以降の彼はこれを越えることは出来なかったということでもあります。それでもキャリアの到達点としてだけではなく、他のメンバーたち、つまり絶対的な神の領域にいたジョン・レノンの『ジョンの魂』『イマジン』やポール・マッカートニーの『バンド・オン・ザ・ラン』と肩を並べるレベルに追いついた金字塔的作品でもあります。  大ヒット曲『マイ・スウィート・ロード』『美しき人生』は時を超える名曲ですし、『アイド・ハヴ・ユー・エニイタイム』『ビウェア・オブ・ダークネス』『サー・フランキー・クリスプのバラード』『オール・シングス・マスト・パス』は彼の人間味と才能が溢れる素晴らしい楽曲です。
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 また、三枚組の最後の三枚目のアップル・ジャムはエリック・クラプトンらも参加する脅威のセッションで、輝きは失われずにぼくらに迫ってきます。今回、記事を書くために久しぶりに聴きたくなり、どうせ聴くならレコードをと思い、よく通っているレコード屋さんでレコードを購入し、三枚組を聴きながら、記事を書いています。  もともと大学生の時にレコードを買い、その後CDでも持っていましたが、知り合いにあげてしまい、今回、買い直しました。中高生当時のこのアルバムに関する思い出は買いたくても手が届かない、とても高価な三枚組ということで、あこがれの対象でもありました。  しかしながら、さすがにレコードを聴かなくなった時代、CDに買い替えたころに処分してしまったのは今では悔やまれます。まさか、30年以上も経って、ふたたびこれを購入するとは想像もできませんでした。  よく出入りしている中古レコード屋さんにお手頃な盤で良いのでと頼んでおいた三枚組は赤盤ではなく、1975年ごろに再発された黒アップル盤です。ほとんど聴かれてこなかったようで、さいわいにも音がとても綺麗なままで、ぼくは十分に満足しています。製造後40年以上は経っていますが、ほぼチリ音もない素晴らしい状態でした。
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 ついでにクリーニングを依頼していたアメリカ・キャピトル盤『イエスタデイ・アンド・トゥデイ』、カビのノイズがあったために洗浄を依頼していた1971年プレスの東芝音工時代の『イマジン』も一緒に引き取ってきました。  たしか2003年ごろにフィル・スペクターによる、いわゆる“音の壁”を取り払い、厚化粧を落とした“すっぴん”のシンプルな状態の音に戻したリマスター盤が出ましたが、ネイキッド物の良さは分かるものの、聞き慣れた音にどうしても戻ってしまいます。  1970年代初頭、というか1960年代後半にビートルズが最後に送り出した『アビイ・ロード』以降、もっとも羽ばたいたジョージが次に興味を持ったのがチャリティ企画であり、のちのバンドエイドのオリジナルともいえるのがこのバングラデシュの飢餓を救うためのライブ企画とレコード盤製作でした。  コンサートに参加したのは言い出しっぺのジョージ・ハリスン、盟友のエリック・クラプトン、かつての同僚リンゴ・スター、当時の人気者だったレオン・ラッセル、ライブ活動から遠ざかっていたボブ・ディラン、インド料理の師匠ラヴィ・シャンカール、そしてビートルズ時代からの仲良しで、『ゲット・バック』にも参加したビリー・プレストンや旧友のクラウス・ブアマン(マンフレッド・マンのベーシスト、『リヴォルヴァー』のジャケット・デザインも彼)が勢ぞろいする超豪華なコンサートでした。
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 そんなに当時はチャリティ意識などはロック界にはなかったでしょうから、それをやり始めたのがジョージというのは大きな意味はあるでしょう。もっともコンサートの収益金のすべてがバングラデシュに送られた訳ではなく、中抜きをされてしまったのはダーティな業界のあさましさを見せつけます。アラン・クラインが製作に関わっている時点で、きな臭さといかがわしさはプンプンしてくるので、ある意味仕方ないのかもしれない。  演奏されたのはラヴィ・シャンカールのいつまでも続く『バングラデューン』、ジョージの『ワー・ワー』『マイ・スウィート・ロード』『アウェイティング・オン・ユー・オール』『ビウェア・オブ・ダークネス(レオン・ラッセルとのデュエット)』『ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス』『ヒア・カムズ・ザ・サン』とまずは主催者ジョージの独演会とビリー・プレストンらの演奏が続く。  このころのジョージは後から考えると、まさに音楽的に絶頂期にあったのは間違いない。このコンサートでも演奏されているジョージの楽曲のほとんどはビートルズ時代の彼の代表曲だったり、高く評価された『オール・シングス・マスト・パス』からのナンバーが出し惜しみされることなく、仲間たちの演奏をバックに得て、一挙に演奏されていく。圧巻の大ヒット曲大会になっています。  個人的に素晴らしいと感じたのはピート・ハムとジョージが2本の生ギターだけでマジソン・スクエア・ガーデンの観客を沈黙させた『ヒア・カムズ・ザ・サン』でアコギが会場にしみわたる様は何とも言えない幸福感があります。さすがの説得力を持つ演奏です。
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 ラヴィ・シャンカールのこのライブでの演奏を最初に聴いたときは「今年中に終わるのかなあ…」と思うほどでしたが、今回はアンプを通してスピーカー4台を鳴らして聴いてみると、音の解像度が格段に向上して、とても心地よい音階が耳に入ってきます。  シタールサロード、タブラ、タンブーラなどのインド楽器の音階やドローン音楽の独特なリズムと揺らぎは好きな人にはとても心地よく響いてきます。ジョージは『ノルウェーの森』『ラヴ・ユー・トゥ』『ジ・インナー・ライト』『ウィズイン・ユー・ウィズアウト・ユー』などでインド音楽ビートルズに導入しています。  まあ、好きでない方にとってはジョージ版『レヴォリューション9』かもしれません。トイレタイムか、早送りするパートかもしれませんが、ゆったりと聴く音楽もたまには必要と割り切って、揺らぎに身を任せたい。  ラヴィ・シャンカールと言っても、今の若い人には分からないでしょうが、世界的な歌手として有名なノラ・ジョーンズのお父さんといえば、分かってもらえるのかなあ。
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 リンゴ・スターの『明日への願い』、レオン・ラッセルの『ジャンピン・ジャック・フラッシュ~ヤングブラッド』が演奏され、ジョージの素晴らしい『ヒア・カムズ・ザ・サン』の後にライブに復帰した、本日の目玉、ボブ・ディランが満を持しての登場となります。  ステージに戻ってきたディランは『はげしい雨が降る』『悲しみは果てしなく』『風に吹かれて』『女の如く』が圧倒的な存在感で歌われます。ぼくは『はげしい雨が降る』が特に心に沁みました。  再びジョージが登場し、代表曲の一つである『サムシング』とライブのテーマでもある『バングラ・デッシュ』が歌われてコンサートは締めくくられます。 驚くのはビートルズ時代には決して現れなかったアンコールに応え、『バングラ・デッシュ』を歌いに帰ってくることでしょうか。    今となっては動いている若き日の伝説のスーパースターたちの勇姿を拝めるだけでも十分に楽しめます。最初の大がかりなチャリティコンサートを企画したジョージはその後はあまりライブ活動には積極的ではなく、静かな生活に戻ります。晩年は日本にもライブをしに来てくれていましたが、残念ながら、すでに鬼籍に入っています。  カメラワークは特に凝ったものではなく、記録映像としての色彩が強いが、あくまでもバングラデシュの惨状を伝えるために行われたコンサートですので、奇を衒う演出は不要と判断したのかもしれません。  総合評価 85点