良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『イマジン』(1988)ジョンの歌には魂がこもっている。ただ祭り上げて欲しくはない。

 ジョン・レノンに対してはビートルズ・ファンの一人一人に独特の想いがあります。ビートルズの中期までのリーダーは間違いなく彼でしたし、発言でももっとも目立つ存在でした。ビートルズ解散後のラジカルな活動は政治的で、急進的でついて行けない人も多かったでしょうが、彼を崇拝する人は死後、神格化してしまいます。果たして彼は喜んでいるでしょうか。  愛と平和の伝道師という役割がどうしてもついて回る彼ですが、生きていくうえでは堅苦しかったのではないかと想像します。小野洋子という人に対してはビートルズ・ファンとしては良い気持ちは持っていませんが、彼女は彼女なりにジョンを守っていたのは間違いない。  ポールのファンは常にやることなすことをジョンと比較されて、的外れな批判され続けてきたという苦い感情があるために、ジョンに複雑な感情を持っているでしょう。  ジョージのファンはジョンとポールという二人の天才に囲まれた彼の思いを推し量り、表立った意見は言わないでしょう。静かな彼が騒動を望むはずはないから、彼のファンも穏やかに過ごしていることでしょう。
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 リンゴは損な役回りだったのか、それともとっても幸運な人生の宝くじを引き当てた人だったのか、本人にもファンたちにも答えが出ないのではないか。  ぼくらファンは好き勝手に言いますし、ファン同士で揉めるのもみっともない。ただ言えるのは4人が揃った時のパフォーマンスやビートルズ印のついた創作物には圧倒的な魅力と創造性が生まれ、ずっと聴かれ続けていきます。半世紀近くも前にとっくに解散したにもかかわらず、新しいファンが今でも生まれてくるバンドは珍しい。  最近、ビートルズのアナログ・レコードをふたたび集めていて思うのはジョンの声はアナログが合っているということです。自宅の室内でアンプとスピーカーを通して、レコードで聴くジョンの声は部屋の中でまさに自分の目の前で語りかけるように歌ってくれているようです。  しばらくはスピーカー4台で鳴らしていましたが、どうも低音が物足りなくなってきたので、映画鑑賞以外はめったに使わないサラウンドを止め、接続を変更し、サブスピーカーのところにウーファーを配線で繋ぎ、サウンドの分厚さを求めて、ベースなどを強化しました。  しかしながら、ウーファーは使い方が難しく、あまり低音ばかりを強化しすぎるとブンブンうるさいだけでバランスを壊してしまうのであくまでも適度な音量に調整して使っています。
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 CDは音のバランスが整えられていて、気軽に誰でも聴きやすくはなっているのですが、レコードのように主張してこない物足りなさがあります。結果として、中古レコード屋さんのお世話になり、ビートルズ時代だけではなく、とうとう各メンバーのソロ・ワークまで突き進んでいます。  ジョンについては前からCDを持っていましたが、『ジョンの魂』『平和の祈りをこめて』『シェイヴド・フィッシュ』『心の壁、愛の橋』『ダブル・ファンタジー』『ミルク・アンド・ハニー』はレコードで所有していました。ただこれだけだと大好きな曲の一つである『ジェラス・ガイ』を聴けないので、先日、アルバム『イマジン』の東芝音工時代の盤を買ってきました。  『ジョン・レノン・コレクション』でも良かったのですが、聴き比べてみると無理に詰め込み過ぎたベスト盤は音溝が狭く、埃が溜まりやすく、大きめに溝を刻めないためにどうしてもパワーに欠けます。そのために『イマジン』を選びました。  ついでにこれまで何故か縁がなかった問題作の2枚組『サムタイム・イン・ニューヨーク・シティ』のアメリカ盤も購入してきました。日本盤とジャケの材質が違い、ザラザラとした新聞紙の質感のような手触りがむしろ心地よい。アメリカ向きのカッティングなので、『ジョン・シンクレア』のギターがアメリカ中西部でカントリーを聴いているように響いてきます。
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 イギリスや日本の盤と違い、カラッと乾いた明るさとクリアな音色を持ち、深刻になり過ぎないような聴こえ方をしています。またアメリカ盤の特徴はしっかりと残されていて、元気なパンク・ロックのような質感で、日本盤よりも気に入っています。  評価は低いそうですが、『女は世界の奴隷か!』『血まみれの日曜日』『ザ・ラック・オブ・ジ・アイリッシュ』『ジョン・シンクレア』『アンジェラ』『ウィ・アー・オール・ウォーター(洋子の曲で唯一のお気に入り。理由としてはワン・トゥ・ワンでも演奏されていたからかも。)』『冷たい七面鳥(モノラルのライブ・テイク)』『京子ちゃん、心配しないで(演奏がなんだか、レッド・ツェッペリンの『胸いっぱいの愛を』みたいです!)』など聴きどころが多い。  本日はかなり前にWOWOWで放送された、1972年のビデオクリップ集『イマジン』を見て、そのあとにこの映画を見ています。朝もやの中を二人で歩くオープニングは不思議な感じの雰囲気を出しています。サントラのCDも持っていますが、この盤の特徴としては『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』が最初のギターのファ―スト・ストロークから聴けることです。  サージェント・ペパーズではショー仕立ての構成で、観客の歓声が鳴りやまぬ中でのスタートなので、静かに聴くことが出来るこのテイクは貴重でした。CDの青盤でも一部はこのテイクが使われていて、ぼくはこのテイク目当てだけに購入しました。
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 残念なのはせっかくのオフィシャル企画にもかかわらず、ライブ演奏がほとんど使われずにスタジオ・テイクに差し替えられてしまっていることです。ワシントンDCでの『フロム・ミー・トゥ・ユー』はアメリカ上陸という記念碑的映像が残っているのにもったいないし、迫力が伝わりにくい。同じく、ロイヤル・コマンド・パフォーマンスもライブではない。“ONE TO ONE”コンサートを録画した『ジョン・レノン・ライブ・イン・ニューヨーク』の模様も流れます。  このライブを初めて聴いたのは1984年の夏にNHK-FMで放送されたキング・ビスケット・フラワー・アワーのアーカイブからのものでしたが、ビデオとは微妙に収録曲が違っています。  ヨーコの『ウィ・アー・オール・ウォーター』、スティービー・ワンダーとのデュエットの『ギヴ・ピース・ア・チャンス』がカットされていましたし、『カム・トゥゲザー』の最後に「STOP THE WAR!」と叫んでいた記憶があったのですが、普通に歌っていました。昼の部と夜の部があって、どちらかの良い方のテイクが使われていたのかもしれません。  物議をかもしたキリスト発言にしても、たしかキリストその人ではなく、教会批判だったと記憶しています。何かと発言が今でいう“炎上”になってしまうのは世界的な有名人だからでしょうが、奔放に発言していることへのリスクを考えず、無防備だったのが原因なのかもしれません。KKKが出てきて、デモを行うさまはかなり気味が悪い。
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 映画はジョンの人生そのものを振り返る形式が取られていて、興味深いのはミミ叔母さん、シンシア元夫人、小野洋子、メイ・パンなどジョンを支えた女性たちのインタビューが収録されていることでしょう。ジュリアンとショーンという二人の息子のインタビューも聞くことが出来ます。  ジュリアンはのちにアスコットの邸宅に招かれた時、12万坪もあるジョンの家と自分たちが住んでいる狭い家との差に驚いていいたことも話していて、彼らには財産が十分に分け与えられていないことが推察できます。ジョンは愛を歌い、権力と戦う人でしたが、後妻はそうでないようで、あくまでも自分の血縁だけしか優遇しない人のようです。音楽誌などでよく“ヨーコさん”などと気持ち悪いことを書いている人がいますが、忖度が過ぎるので、やめて欲しい。  ジョンとポールの有名なパートナーとしては先妻シンシアやジェーン・アッシャーが思いつきます。両者ともファンには受けが良かったのですが、何故か彼女らは長く関係を築けずに、別れてしまい、不人気な二人と結婚することになります。  ジュリアン・レノンは『ヴァロッテ』でデビューしたときは声の質がお父さんによく似ていて驚いた記憶がありますが、単純に彼の『ヴァロッテ』『トゥー・レイト・フォー・グッバイ』が好きでしたので、当時はすぐにレコードを買いに行きました。今回の記事を書く前に改めてこのアルバムを聴きましたが、学生時代以来でしたので、懐かしさで嬉しくなりました。
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 不満だった点としてはジョンをもっともよく知るはずのポールやジョージ、リンゴらの新規のインタビューはなく、すでにあるインタビューが入っているのみなのは寂しい感じを受けます。  ジョン射殺事件を語るシークエンスではBGMに『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』に用いられたオーケストラによるエンディングが使われていますが、さすがに強烈な印象を与えます。葬儀の様子や集まったファンたちの悲しむ様子も収録されていて、事態の深刻さが改めて理解できます。  来年で死後40年になるというのがとても信じられません。撃たれた日はちょうど母親と駅前の繁華街に買い物に出かけていたら、電光掲示板がジョンの死のニュースを伝えていました。当時はまだ小学生だったので、ファンではありませんでしたが、母が「ジョン・レノンが死んだんや!」と驚きの声で言っているのを聞き、「誰なの?」と話した記憶があります。  ファンになったのは中学生になってからで、友人のお兄さんが持っていた8枚組の『ビートルズ・ボックス』をカセット・テープに録音してもらい、来る日も来る日も聴き続け、ボックスに入っていない曲が多い、『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』『ウィズ・ザ・ビートルズ』などからコレクションを進めていきました。
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 オリジナル全曲を一通りすべて聴くには必要だったアルバムはアナログ時代にはたしか『レアリティーズ』『ヘイ・ジュード』を含めて16枚ほどあり、買い揃えるまでには5年くらいかかりました。その頃はお金もないので、二枚組を買うのは大変でしたが、『ザ・ビートルズ』、つまりホワイト・アルバムだけはなんとか買いました。  ジョージの『オール・シングス・マスト・パス』のような3枚組超大作を買う余裕などは無く、現物を手に入れたのは大学時代になってからでした。同じく、ジョンの『サムタイム・イン・ニューヨーク・シティ』なども縁がないアルバムでしたが、前述のように先日、購入しています。  死後、40年近くが経過しても、リアルタイムで聴いていたわけではないぼくらが未だに買うかどうかで迷ってしまうほどの魅力を保っているジョンの存在感の大きさは尋常ではない。  総合評価 68点