良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『女はそれを我慢できない』(1956)往年のロック・スターが多数出演!

 タイトルを聞くと、なんだかエッチな映画なのかなあと思う人がいるかもしれません。しかし、それは勘違いで実際は1950年代に活躍していた偉大なロックンローラーたちが実名で大挙出演するロック映画なのです。  今と違って、躍動感のある大きな映像で彼らをしかもカラーで見られることは皆無の時代でしたので、それらの価値もオープニングで表現しています。  普段はラジオやレコード写真、音楽雑誌でしか見たことがなかったであろうロックンローラーたちの姿を見ただけでも大いに満足したことでしょうし、映画館に見に行けない貧乏なティーンエイジャーやマセガキにとってはテレビ放送に釘付けになる夜だったようです。
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 それはお金持ちの現役ミュージシャンも例外ではなく、世界を制圧したビートルズ・メンバーたちも放映日には皆でテレビを囲み、ワイワイやりながら楽しんで、そのままの勢いで2枚組『ザ・ビートルズ』に収録された、元気なロック・ナンバー『バースデイ』のレコーディングに臨んでいます。  メンバー間の確執が表面化しだした時期にあっても、あの曲だけは妙に楽しそうだったのはそういう理由があったのでしょう。天下のビートルズでも楽しませたこの映画は現在DVD化されているので、久しぶりに見たくなり、Amazonで購入して、到着を待っていました。無事に届き、再生を始めると、伝説のロックンローラーや人気歌手が次から次に出てくるので嬉しくなります。  ベティ・グレイブル『I Wish I Could Shimmy Like My Sister Kate』、リトル・リチャード『The Girl Can't Help It』『Ready Teddy』『She's Got It』、ニノ・テンポ『Tempo's Tempo』、ジョニー・オレン『My Idea of Love』『I Ain't Gonna Cry No More』 、ジュリー・ロンドン『Cry Me A River 』『Every Time You Kiss Me』などが次々に出てきます。
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 歌姫ジュリーの歌声は今聴いても、聴きほれるような美しい声で魅了されてしまいます。映画でもかつて彼女のマネージャー(役柄上)を務め、今はジェーン・マンスフィールドを売り込むために奔走するトム・イーウェルが酔っ払いながら、幻影を見るシーンもあります。  大スターに育て上げた彼女を自分の飲酒などの悪癖で失ってしまった苦しみやマネージャーとしての役割以上の関係があったことが仄めかされます。つまり、この映画は単なるコメディではなく、かつての挫折も描き出しています。  さらに彼女の歌がラジオで掛かっていたにもかかわらず、ジュリーの幻影がジェーンの幻影に変わった時が彼が新たな生きがいを見つけた瞬間だったのでしょう。 歌が下手なジェーンが歌の練習をすると、ガラスや花瓶が割れたりするのは笑ってしまいます。
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 このへんが今でも根強くファンが残っていたり、ロック・スターたちが楽しみにテレビ放送日にニコニコしながら、家に帰って見る理由なのかもしれません。  エディ・フォンテーン『Cool It Baby』、スリー・チャックルス『Cinnamon Sinner』、アビー・リンカーン『Spread the Word (Spread the Gospel)』、ジーン・ヴィンセント『Be-Bop-A-Lula』、エディ・コクラン『Twenty Flight Rock』、ファッツ・ドミノ『Blue Monday』 、プラターズ『You'll Never Never Know 』、トレニアーズ『Rockin' Is Our Bizness』、レイ・アンソニー『Rock Around the Rock Pile』『Big Band Boogie』、ジェーン・マンスフィールドが魅力的に歌う(本人歌唱?)『Ev'rytime』などが出てきます。  音楽が素晴らしいのはもちろん、何気にレイ・アンソニー宅に飾られているロートレックっぽいポスターが気になってしまいます。内容的には『マイ・フェア・レディ』『ボーン・イエスタデイ』などどこかで見たような筋書きと風味ですが、コメディとしてはしっかりと作りこまれていますし、新鮮だったロックへの興味とイメージが伝わってくる良い出来栄えです。
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 当時はポップカルチャーの最先端だったであろうロック音楽をスパイスにして、肉体美(おっぱいがスゴイのとウエストのしまりがスゴイ!不二子ちゃんみたいですwww)を誇るジェーン・マンスフィールドを売り込むための作品だったのでしょうが、製作者のセンスの良さのおかげで、往年のロック・スターたちが一本のフィルムに収まる奇跡の映画になりました。  ピアノを弾きながら、シャウトするリトル・リチャード、カラーで動くジーン・ヴィンセントエディ・コクランの全盛期を見られるだけでロック・ファンにはお得な一本です。彼らを手本に大成功したのがビートルズであり、ローリング・ストーンズなのですから、ルーツを探るにも最適な作品です。  リトル・リチャードやジーン・ヴィンセントエディ・コクランの歌い方はジョン・レノンポール・マッカートニーに大きな影響を与えたことでしょう。
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 洒落ているのがバンドや歌手の紹介の仕方で、小屋の前などに置かれている看板や小道具で、誰が出演するのかを、つまり誰が歌うのかを提示している所です。字幕に入れるのが一番分かりやすいのですが、それだと画面が汚れてしまうので、このやり方はスマートに映りました。  トム・イーウェルはかつて、永遠のセックス・シンボルであるマリリン・モンローと『七年目の浮気』で共演していますが、彼にとってはジェーン・マンスフィールドはどのように映っていたのでしょうか。二人とも不慮の死を遂げた点は哀しき共通点でしょう。
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 総合評価 78点