『シン・シティー』(2005)タランティーノ、ロドリゲスそしてフランク・ミラー。濃いはずですが・・。
うるさ型で個性的なタランティーノ、ロドリゲス両監督にフランク・ミラー(原作者)が絡んでくるという一歩間違えればコテコテな作品に成ってしまうかと思いきや、実にあっさりしているこの作品。
タラさんらしい「痛そうな」映像、ロドリゲス監督らしい派手な撃ち合いなどいかにもなシーンはしっかりと押さえられてはいるのですが、全体としてみた時にそんなに印象に残ってはいません。
全てを持っていったのはモノクロのようなセピアのような淡い色彩に強烈な印象を残す原色の「青」、「赤」、そして「黄色」。パートカラーのコミックを見ているような気分でした。勿論安っぽいものではなく、ポップな色彩です。
画面の中でやっていることがかなり悪趣味でB級なのですが、この色彩が作品を救っています。ただしあくまでも作り物に過ぎない。「赤」を鮮烈に使っているにもかかわらず、「血」が通っているようには見えません。
このCGばりばりのデジタルっぽい画面はどうもいただけません。『ヴァン・ヘルシング』のような作品でも感じることなのですが、人工的な作品という「殻」を破っていないのです。漫画に過ぎない物足らなさがあります。
タランティーノ監督は大好きな監督なのですが、それは『ジャッキー・ブラウン』まで。『レザボア・ドッグス』、『パルプ・フィクション』を観た時は久しぶりの才能を感じました。『キル・ビル』も2本に分けずに、1本の4時間作品としてみたならば、唸ったかもしれませんが分けてみるとがっかりするものでした。1本初心に帰って作って欲しいものです。ヒッチ先生が『ハリーの災難』を撮ったように。
ロドリゲス監督も『エル・マリアッチ』は映画への愛情と創意工夫が見られる素晴らしい作品でしたが、『デスペラード』での主役交代と『レジェンド・オブ・メキシコ/デスペラード』で味わった失望感。細かくカットを割っていくスタイルは好きではないのですが、『エル~』でのこれはきちっと決まっていました。予算が取れるようになったのに切れが無くなったように感じます。
そしてこの二人にフランク・ミラー監督が加わったこの作品。この作品を特徴付ける色調のアイデアを出したのが彼だったとすれば、間違いなくこれは彼の映画です。3人の監督がクレジットされていますが、斬新なのはこの色彩のみです。その他の物語の要素のうちプロットの作り方はタランティーノ節ですし(かなり今回弱いですが)、銃撃シーンはロドリゲス劇場(これもキレが無い)です。
演技者について見ていくと、キャラクターはかなり強く出来ているのですが、いかんせん人間の臭いがしません。それぞれはいい味を出しているのです。ルドガー・ハウアー、ベニチオ・デル・トロ、ブリタニー・マーフィー、イライジャ・ウッド、そして蘇ったミッキー・ローク。悪くは無いのです。でも何か物足りません。それはおそらく脚本がまずいのでしょう。もったいない限りです。
一コマ一コマをカットして並べてみたならば、一枚の美しい写真ではあります。それが演出や脚本のどこかに穴があり、修正できなかったならば、こういうもったいない作品になってしまいます。
タランティーノ監督、ロドリゲス監督、俳優陣、そして美しい写真の数々。好きな要素が沢山あるのにまとまりと映画への愛情を感じない作品でした。そもそも肝心の「街」が描けていません。
総合評価54点