良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『狼男』(1941) 三大モンスター俳優のうちの一人、ロン・チェイニーJrの当たり役ネタバレあり。

 ドラキュラのベラ・ルゴシフランケンシュタインの怪物のボリス・カーロフと並ぶロン・チェイニーJrがスターとなるきっかけとなったこの作品。父親のロン・チェイニーに始まる親子二代に渡っての俳優一家です。

 そして彼が演じた怪物には、他の怪物とは決定的に違う点があります。それは普段の彼は全く普通の人間であることです。満月の夜になると突然、恐ろしい狼男に変わってしまう。

 製作当時、1941年といえばヨーロッパではナチスが猛威を振るい、ユダヤ人をはじめ、ジプシーや精神薄弱者などが殺されたり、迫害を受けていた時代です。脚本を書いたカート・シオドマクはユダヤ人でナチから逃れ、たどり着いた先が、アメリカ西海岸のユニバーサルでした。

 彼が描きたかったものは、おどろおどろしい怪物、その見た目や残虐性だけではなく、普通の人々が何かのきっかけがあれば、怪物化してしまうことへの恐怖でした。つまりこの作品はナチのためとはいえ、人々が簡単に暴力的に変貌してしまい、理性を失うことへの恐怖、それを描いたものです。

 主人公ラリー・タルボットは普段は物静かで気の優しい男で、教会へも通う善良な市民です。彼は満月になると恐ろしい狼に化けるのですが、彼はそれを自覚しています。その他のモンスターと決定的に違うのはこの点です(フランケンシュタインの怪物も自己の存在について、強烈な自己嫌悪を抱えていますので彼を除きます)。

 良心が半分残っている彼(日中は人間です)は狼男になってしまってことに深く傷つき、自殺しようと悩んでいることです。自殺願望のある怪物はこの狼男のみです。そのため、人間臭さが随所に見られます。彼は人間ですから。

 狼男の魅力はまさにこの人間臭さなのです。どうしようもない業を背負わされてしまった哀れなタルボット。見事に演じたロン・チェイニー・Jr。見た目の恐さで無く、自分の責任ではないのに、不幸に陥ってしまう恐さと悲劇を描いたこの作品。

 ただのモンスターものではありません。ラリーの、シオドマクの苦しみと悲しさを味わって欲しい作品です。脇の俳優達も素晴らしく、ベラ・ルゴシとマリア・オ-スペンスカヤの演じたジプシーの夫妻は絶品でした。

 シオドマクの脚本は素晴らしく悲哀を描いたところのみならず、狼男にかまれた者も狼男になってしまうという点はここが原点です。ちなみに満月の夜に化けるものの最初は、『倫敦の人狼』(1935)がオリジナルのようです。

 まあもともと狼男伝説はヨーロッパで古くからあったようなので厳密にはオリジナルというものは存在しないのかもしれません。おそらく狂犬病のようなものに人間が感染した時に、狂って行く様子を狼に喩えたのでしょう。

 ホラー映画のみではないのですが、モノクロ映像の作品は何故こんなに美しいのでしょう。制約が多ければ多いほど、製作者の腕がもろに出てしまうからなんでしょうかね。作品を盛り上げる音楽もきっちり決まっていて必要な音楽が必要な時のみにかかります。これが映画音楽です。

 突然に変化する人間への恐怖。今の世でも起こらないとは誰もいえません。昼と夜の二面性。本音と建前の二面性。過去のものではありません。

総合評価 74点狼男

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