良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『フランケンシュタインと狼男』(1942)ユニヴァーサル・モンスターの初共演作品。

 1942年に製作された、『フランケンシュタインと狼男』は『魔人ドラキュラ』、『フランケンシュタイン』、『透明人間』、『ミイラ再生』、『フランケンシュタインの花嫁』、そして『狼男』などモンスター映画で大当たりしたユニヴァーサルが、その後の類似品の粗製乱造のため、徐々に飽きられ、観客動員が落ち込んでいった時期に起死回生の作品として企画されました。  それまで対決物がなかったことのほうが驚きなのですが、ユニヴァーサルではあくまでも「スター」であった怪物たちには共演の機会が与えられていませんでした。その後のモンスター映画ではゴジラ物を筆頭に対決物やオールスターキャスト物を多く見かけるようになっていきます。  結果としては作品は大ヒットしたそうで、揺らいでいたユニヴァーサルの屋台骨を支えたのはフランケンシュタインや狼男に代表される怪物たちでした。ユニヴァーサルの関係者が怪物たちに向ける眼差しは他の会社が怪物に向けるそれとは明らかに違うように思える。  それは「あたたかみ」といっても良いのかもしれません。怪物たちが一人の俳優として尊敬されて、撮影されているような感覚があります。スタッフから愛されていてこそ、はじめて観客からも愛され続けるキャラクターが生まれるのではないでしょうか。  ファンにとっては脚本にカート・シオドマクが加わり、ロン・チェイニー・Jrとベラ・ルゴシが共演するだけでも嬉しい作品です。かつての大スターだったベラ・ルゴシが生活苦のために、毛嫌いしていたフランケンシュタインの怪物を60歳を超えてから演じる羽目になったのは切なすぎます。  フランケンシュタインの怪物を、かつて演じたボリス・カーロフはその後も『手錠のままの脱獄』やロジャー・コーマン作品などに出演し続け、成功者として俳優人生を送っていました。それに比べ、落ちぶれたベラは麻薬に溺れ、病気を患い、金もなく、施設に収容されてしまうほどでした。  一連のエド・ウッド監督作品に出続けて、哀れな末路を晒しているように思うファンもいたかもしれませんが、生活に困窮していた彼にとっては、口だけ挟む人間よりも、スターとして扱い、食事を与えてくれるエドの方が大切だった。まあ、それは後の話です。  作品を見ていきますと、好感が持てるのは作りこみへのこだわりで、ドラマ部分をしっかりと製作することにより、特撮シーンを浮き上がらせることなく、作品世界を成立させています。  丁寧なカット割り、ホラー独特の雰囲気をかもし出す構図や影の使い方、前作で起用した主演俳優ロン・チェイニーと脇役陣の再起用によって生まれる作品世界の連続性などで観客を引き込んでいく。  とかく企画が大当たりすると、足元を見る監督や俳優陣が多いために、製作費用が高騰したり、主役変更があったりして、オリジナルに遠く及ばない作品もままある中で、同じスタッフを集められたユニヴァーサルは幸福だった方かもしれません。  もちろん狼男と対決するフランケンシュタインの怪物を演じるのがボリス・カーロフだったならば、作品のクオリティはさらに一段上がったのは確実なので、出演できなかった事が悔やまれます。  狼男と怪物の絡みは最後の5分間のみなのですが、この理由はベラ・ルゴシの高齢のせいで、まったく対決できるような状態ではありませんでした。特殊メイクを伴う怪物役はかなり負担が掛かったようで、彼は体調を崩してしまったそうです。  味わいはあるのですが、実際ベラ・ルゴシの動きは鈍く、とても強靭な力を持っている人造人間には見えません。彷徨う様子はまるでゾンビのようでした。ドラキュラ役では最高レベルを誇るベラですが、もともと乗り気ではない怪物役では彼の良さは発揮できなかったのでしょう。  対決シーンではスタントマンを使って撮影されたため、躍動感のある素晴らしい戦いの場面として、仕上げられています。観客の感情移入の対象が、明らかにロン・チェイニーに向けられるように物語が構成され、撮影されていくのはベラ・ファンとしてはとても寂しいのですが、ベラ自身があのような状態では仕方ありません。  作品自体はベラの不調にもかかわらず、セットの雰囲気、ミニチュアの味わい、「ファロラ・ファロリ」の歌など音楽も効果的に用いられ、ユニヴァーサル・モンスター・ワールドを十分に堪能できる内容になっています。  初期ユニヴァーサル・ホラーには体温のような温かみを感じるのですが、それはモノクロの特性のためなのか、それとも製作者の熱意と良心のためなのか。  印象的だったシーンを二つ。まずはフランケンシュタイン城の廃墟にロン・チェイニーが潜む様子を捉えた画面を横切る二匹の蝙蝠は不気味さを表現する「お約束」映像であるとともにドラキュラ俳優ベラに敬意を払っているようで、個人的には大好きです。  もうひとつは村祭りに乱入した怪物とともに狼男が逃げる場面での馬車のスピード感ある動きと酒樽を落として、村人の追跡をかわす様子をロングで捉えたシーンの迫力でした。  理屈抜きで楽しめるユニヴァーサル・モンスターは永遠の映画スターなのです。ですから、映画出演させる時には敬意を払って、大事にリメイクして欲しい。 総合評価 72点  狼男 レガシーBOX
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