良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ヴァン・ヘルシング』(2004)はモンスター総出演の顔見世興行映画なのか、単にネタがないだけか。

 スティーブン・ソマーズ監督の2004年の作品ですが、これはまたえらいものを作ったものです。この何年かのハリウッドやわが国における「リメイク(大まかにオリジナルではないものとしてここでは使っています。続編やドラマの劇場版も含む)」物の、あまりにも多すぎる状況は目を覆うばかりになっています。昔の映画のリメイクならまだしも、「漫画」のそれには驚きを通り越してあきれてしまいます。またドラマの映画化もほとんどが酷いものばかりです。

 『宇宙戦争』、『スター・ウォーズ シスの復讐』、『NANA』、『CASHERN』、『リング(アメリカ版)』、そして悪夢の『デビルマン』・・・。これらはまだ単品の原作を汚しただけです。しかるにこの最低の製作者はオールド・ファンが大切にしているベラ・ルゴシボリス・カーロフロン・チェイニー親子、クリストファー・リーピーター・カッシングなどの印象が強烈なモンスター達を、わずか一作で薄っぺらいものに価値を貶めて、怪物そのものを汚す事に成功しました。

 CGなどがどれだけ凝っていても(美しいとは思えなかったのでこう表現しております。)、内容が伴わず、キャラクターへの愛情を全く持っていないのは明白です。これらのモンスター達は、やむにやまれぬ事情から人間を襲うために、哀愁を帯びているはずなのです。実際にオールドフィルムで描かれる彼ら怪物たちは、むしろ人間よりも人間臭さがあり、そのためにファンの心を掴んだのです。

 それなのに、この作品で描かれる彼らからは悲壮感が全く感じられません。「ハイド氏」は超人ハルクかWWFのプロレスラーのようで、泣きそうになりました。「狼男」、「ドラキュラ」はただ飛んだり、跳ねたりしているだけでした。唯一フランケンシュタイン博士の怪物のみが弱感哀愁らしきものを漂わせてくれていたのが救いではありました。

 そして何よりも最悪だったのは主人公「ヴァン・ヘルシング」その人でした。ヒュー・ジャックマンヘルシングは教授なのです。威厳に満ちてモンスターを退治する知性の塊であり、意志の人なのです。あれではまるで、インディー・ジョーンズと全く変わりがない。(インディーも学者の設定ではありますが。)主人公が納まりの悪い映画は、方向が定まらず大抵こけますが見事にこれも失敗作でした。あんなに若くて、肉体を見せつけるヘルシングは悪夢でした。ヒューさんのキャリアをも汚してしまいました。

 それに拍車をかけたのが、CGを使いすぎて、デジタル化しすぎて質感が全く無くなってしまった映像でした。序盤ではそれなりに雰囲気を出していたものの(結構期待しました。)、怪物たちが動き出してからは、無意味に速すぎて全く恐さは描けていませんでした。「次恐くなるよ、さあ恐くなるよ」というのがバレバレの音楽や演出にはほとほと情けなくなりました。ボクシングで相手に見切られてしまって避けられるパンチを「テレフォン・パンチ」といいますが、この作品でのスリル演出はまさに「テレフォン・ホラー」とでも言ってよいような惨憺たる出来でした。

 漫画のような、出来の悪いルパンのコピーのようなクライマックスの救出シーンでの綱渡りシーンには思わず椅子から転げ落ちそうになりました。なんという脱力感。リラクゼーションのためにモンスター物を見ているのではないのだ。ユニバーサルの怪物製作者が草葉の陰から泣いてるぜ。

 違和感と脱力感に支配された時間を過ごしました。初めて映画を見る子供たちならば、東映漫画祭りのノリで楽しめる作品かもしれません。あと場面転換、アングル、カットが節操なく、ばたばた変わり、とても見づらい作品になっています。

 昔のモンスター・ホラーの良いとこ取りをしようとして、『フランケンシュタイン』、『吸血鬼ノスフェラトゥ』などからシーンをパクリ倒していますが、痛々しすぎて切なくなります。おお、切なくなった。モンスター映画を切り貼りした、この映画こそ「映画のフランケンシュタイン」であり、最低のリメイクかもしれません。

 最低の映画は『デビルマン』ですが、リメイク部門ならば、『ヴァン~』はワースト10に入るでしょう。いっそのこと『怪物君』のリメイクでも作ってくれたほうが、よほど楽しく見れることでしょう。「フンガ~」、「ザマス、ザマス」、「ソーデ、ガンス」を復活させてくれれば、観に行くね。

総合評価 20点 

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