良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ベルリン 天使の詩』(1988) 当時のおしゃれな人達がたいそう褒めていたドイツ映画 ネタバレあり

 ヴィム・ヴェンダース監督の1988年の作品ですが、1988年から1990年というと、バブルの時代の真っ只中でありまして、子供から大人まで株に手を出して、素人でもおこぼれに預かれる、という今では考えられない時代でもありました。

 外国といえばアメリカだった時代は終わり、憧れだった、かの国に対する気持ちに変化が生まれ、日本人は戦国時代以来、久々にヨーロッパに関心が向きだした頃でした。欧米といいますが、実質は「米」です。

 株、外車、ティラミス、F1、セリエA、そしてブランド物を買い漁る日本人観光客の山。映画も例外ではなく、『ニュー・シネマ・パラダイス』、そしてこの作品が大変人気がありました。『ニュー・シネマ~』は確かに今見ても心が洗われる素晴らしい作品ですが、残念ながらこの『ベルリン~』では綺麗な映像に目を奪われるものの映画として良くない点が目につくのです。

 心の底では、作品の良さなんて判っていないのに理解しているように見せかける、自称知識人や国際人(笑)がティラノサウルスのように大量に闊歩していた時代です。みんなが良いと言うから自分も良いと言っておこうという薄っぺらさを感じました。

 ヴィム・ヴェンダース監督は、彼の持つ実力以上に過大評価されていると思います。確かにとても綺麗な写真ではあります。しかし、この作品は本来であれば、もっとしっとりした世界観を描けたはずなのです。

 『ローマの休日』を撮影したアンリ・アルカンによるカメラが全てを台無しにしてしまっている。ここでの彼は必要以上にカメラを振り回し、アングルを変えまくって、見るものを混乱させます。あれほど、しつこいくらいなまでにパンや移動(特に人物の周りを一周する撮り方が多い!)を繰り返す必要性がいったい何処にあるのだろう。アンリがヴェンタース監督にそのように撮るよう強制されていたのであれば、彼に責任はありませんが。

 せっかくドイツ映画伝統の美術の重厚感と抑制の効いた艶めかしさ、数学のように整列するような構図の良さ、グロテスクと美しさのせめぎ合いのようなレベルの高い映像美を見せてくれているのです。

 その映画美を台無しにしているのが、落ち着きのないカメラの動きです。キネティック・パワーとでも言うのでしょうが、小津監督やタルコフスキー監督を尊敬しているにしては雑すぎる印象があります。自分にないものを求めたのだろうか。

 最初グレーに近かったモノクロ映像は、天使が俗世界に関心を持つにつれて、徐々に茶色が強くなり、赤みを帯びてきて、天使が地上で目覚めた時に、原色の強いカラー映像に変わるところがありました。ここは面白い表現だと感心しました。

 味気ない天国から地上に降りる天使ブルーノ・ガンツ。カラー映像に変わるまでは天使は、子供や純粋な人間のみにしか見えない存在として描かれています。ただし天使が人間に変わるまでが、あまりにも、もたもたしすぎているように思えました。

 天使の逡巡というか、迷いを表したかったのかもしれないのですが、編集のテンポが悪いのではなかろうか。観に行った人で、この作品が駄目だった人のほとんどはカラーに変わる前に映画館で寝てしまったようです。友人も駄目だったと告白していました。

 考えられた構図には素晴らしいセンスを感じます。また画面には張りつめたような緊張感がみなぎっています。でも動きが悪い。活動写真なのに、上手く活動していません。良い写真がもったいない。そういう意味でとても残念な作品です。綺麗なのに。

 ヨーロッパ作品であり、かの地の香りと80年代の雰囲気を堪能させてくれる作品ではあります。アメリカ作品を見慣れていると、ストーリーだけをついつい追ってしまいがちですが、それをするとかなり眠い印象を持つかもしれません。

 感覚で見るべき作品が非常に多いのが、ヨーロッパ映画です。この作品は、ヨーロッパ作品にしては、かなりスペクタクルな場面もあり、楽しめる方だと思います。

 ここまで書いていると、少々批判的で、きつく感じるかもしれませんが、実際に見てみると、この作品の映像へのこだわりとレベルの高さは他に抜きん出ています。「天使」の巨大な像の色が黄金の色に染まった時には、思わず声を上げてしまうほどの美しい色彩を見せてくれます。

 空中ブランコのシーンもとてもエロティックなシーンでした。サーカスというとフェリーニ監督を思い出しますが、ヴェンダース監督の描くそれも切なさと楽しさがありました。

 出演者の演技も素晴らしく、ブルーノ・ガンツのくたびれ具合や苦渋に満ちたおっさん天使の生々しさは素晴らしく、そしてピーター・フォークが本人の役で出てきたのには頬が緩みました。本編でも2度ほど「コロンボ!」と声をかけられるシーンがあり、堅苦しい雰囲気が全篇を覆っている中で、ガス抜きの役をしていました。

 結局、首をひねったのはカメラの動きと、大きすぎるほどに急に音量を上げられる音楽でした。

総合評価 72点

ベルリン・天使の詩

ベルリン・天使の詩 [DVD]