良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『黒猫』(1934) 怪優ベラ・ルゴシとボリス・カーロフの初共演作品。

 ユニバーサル映画というと『キング・コング』、『ジョーズ』、そして『ターミネーター』などの怪物映画が有名ですが、それらの先駆けとなったものにモンスター映画と呼ばれる一連の作品群がありました。『魔人ドラキュラ』(1931)、『フランケンシュタイン』、『ミイラ再生』、『狼男』、『透明人間』、『オペラ座の怪人』、『大アマゾンの半魚人』などなど。

 

 これらの作品をきっかけにスターになったものも現れました。ベラ・ルゴシ(ドラキュラ)、ボリス・カーロフフランケンシュタインの怪物)、ロン・チェイニーJr(狼男)はその代表です。

 

 1934年の製作で65分という小品ではありますが、この『黒猫』ではそのうちの二人であるベラとカーロフが、お互いのライバル心を剥き出しにして画面の中で戦います。役柄としては、ベラはボリスに裏切られ、妻子を奪われた復讐の鬼として。そしてカーロフはベラの妻子を奪い、悪魔教を奉じる司祭として。

 

 つまりこの作品では彼らはモンスターではなく、人間として向き合うのです。彼らの持つ顔立ちそのものが化け物じみているために、この作品での薄気味悪さはむしろ怪物映画よりも際立っています。特に画面を通して窺えるベラの異様なまでの潔癖さと俳優としてのプライドの高さは、ボリスへの軽蔑とやっかみが絡んでいるという複雑さを有しています。

 

 ベラは大ヒットした『フランケンシュタイン』(1931)の怪物として出演依頼をされていましたが、台詞のない役だった為、俳優としてのプライドを持っていた彼は出演を辞退しました。その後にお鉢が回ってきたのがボリス・カーロフだったのです。結果はボリスの怪物の方がドラキュラよりもおいしい役でした。そのこともありベラはボリスに並々ならぬライバル心を持っていたのです。そのことが良い方向に作品に反映されたのが幸運でした。

 

 のちの作品『フランケンシュタインと狼男』で怪物役を引き受けたベラでしたが、その時の怪物のフォルムはカーロフのそれから全く代わり映えの無い姿でありさぞプライドを傷つけられたことでしょう。後の人生と同じくベラの完敗に終わりました。

 

 一方のボリスのほうが何気なく遠慮気味なのはベラへの気遣いからくるものなのかもしれません。それでもこの作品での彼は個性をしっかり見せてくれています。意外に声が良いことも驚きでした。「怪物」を演じていた時の彼は呻くか叫ぶか(続編の『フランケンシュタインの花嫁』ではたどたどしい言葉を話します)だけでしたので、彼が普通に話すといういわば当たり前のことが新鮮でした。それだけ彼の演じた『怪物』は衝撃的だったわけです。

 

 その二人の初共演作。原作はエドガー・アラン・ポー。それだけでもホラーファンなら見る価値はあると思います。 総合評価 61点モンスター レガシー コレクターズBOX

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