良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『アンダルシアの犬』(1928) シュール・レアリズムって一体なんだ?映像が目に焼きついて離れない

アンダルシアの犬  スペインが生んだ素晴らしい監督の一人、ルイス・ブニュエル監督の1928年の作品であり、奇才サルバトーレ・ダリが脚本を担当したことで話題になったこの作品ですが、一体全体、何を持ってシュール・レアリズムなのか。

 勉強不足のためにはっきりとは言えません。ただ言えることは、この作品の上映時間である15分少々の中には、当時の最先端のテクノロジーであり、かつ絵画などに見られるようなギャラリー、演劇などに見られる劇場(映画と似た部分のある演劇ですが、生身の人間の演じる演劇は、同じ時間に、一ヶ所でしか出来ない)などの狭い空間に止まることを拒むような意気込みを感じる。

 大衆に広く知らしめる可能性のある未知の芸術分野であっただろう映画の、それ本来が持ちえる表現の可能性を模索しようという、ブニュエル監督と奇才サルバトーレ・ダリの実験的意味合いがとても強く感じられます。

 目に焼き付いて、決して離れない映像美の数々には圧倒されます。刺激的な映像が溢れかえる21世紀現在でも、未だに新鮮なままで、その迫力は衰えてはいません。まさに動く絵画であり、映画と芸術との融合を見ることが出来ます。1895年12月28日のリュミエル監督のシネマトグラフでの『列車の到着』『海水浴』などで産声を上げたフランス映画をはじめとするヨーロッパの映画。

 1900年前後のジョルジュ・メリエス監督のフィクション及び特撮の名作の数々の誕生を受けて、1921年のルイ・デリュック監督の『狂熱』を間に挟み、誕生からまだ30年も経っていなかった当時、ヨーロッパでも、おそらく映画は、海のものとも山のものとも知れないものだったのではないか。

 当然ながら蓄積された理論体系も無く、いまだ最も新しい芸術分野だったであろう演劇と比べても、胸を張って芸術と言えるところまでは、いっていなかったのではないか。いくつかの例外はあったにせよ大衆にとっては、あくまでも新しい娯楽に過ぎなかったのではないか。

 そういう時期に、名声のあった奇才ダリが映画に手を貸したことは、物珍しさや娯楽というだけではなく、映画が最新の第七芸術として存在していくための後押しとして重要だったのではないか。

 意味を求めると、非常に解りにくい作品ではありますが、映像が流れるように進んでいく様子は詩的ですらあります。夢をモチーフに作られたというこの作品ですが、芸術家の見る夢というのは凡人の見るそれとは全く違うようです。しかも悪夢。

 いきなり始まる最も有名な例のシーンから始まる構成は、当時の観客を恐怖に陥れる衝撃的映像だったことでしょう。出だしの1分間で作品の中に観客を引きずり込んでしまいます。もしくは映画館から出て行くか、のいずれでしょう。

 剃刀で眼球をスライスされる瞬間の痛みを思うと身震いがします。刃が当たる痛みも激痛でしょうが、その後に出てくる体液の方が、よりリアルであり吐き気を催す映像です。「月」の「円」と「眼球」の「円」。「月」に刺さる「黒雲」。「眼球」に刺さる「剃刀の刃」。

 「手」に「蟻」という映像も何度も出てくる映像で、男が女と一緒にいて悩む時に必ず登場してきます。何を象徴するのかは心理学の本でも読めば、もっともらしい説明を得られるかもしれない。しかし純粋に映画表現としてみても秀逸な映像です。男の性的なもやもやを表しているのですかね。

 二台のピアノに載せられた二頭の「ロバの死体」と二人の聖職者を引きずる映像も衝撃的なおぞましいものでした。ロバから連想するのは「穏やかさ」「のろま」「勤勉」であり、ピアノから連想するのは「調和」「上流階級」「重厚感」ですが、この作品ではそういった既成のイメージを打ち砕きます。

 もうひとつ出てくるイメージに「切断された手」があります。これは最初のシーンでの刃物で切られる人体のイメージと、「手と蟻」でも出てくる「手」のイメージの融合なのでしょうか。この「手」を文字通りに自分の手に入れた美少年は、直後に車に轢かれて死んでしまいます。

 望みを叶えれば、後は死を待つのみということでしょうか。路上で死ぬのも人を代えて、二回繰り返されていました。虫も二種類登場し、先ほどから何度も出てくる「蟻」と、作品の後半に男に化ける?「蛾」が出てきます。

 作品を通してみていくと「2」に何か拘りがあるのかと思いました。偶数。一対。カップル。余らないもの。映像として見ていくと、わずか15分という短い作品ではありますが、実は作品中では眼球をえぐる時間を基点とすると前後8年を足して、なんと16年間を描いた作品だったのです。

 濃いはずだ。万人向けとは思えない作品ですが、見るものを惹きつけて止まない魅力に満ちた作品であることも間違いありません。

  総合評価 88点 

 

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