良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『レザボア・ドッグス』(1992)タランティーノの名前を一躍ビッグにした作品。キューブリックの影!?

 クエンティン・タランティーノ監督、1992年の監督デビュー作品です。まさに低予算映画の鏡!!!これだけ分厚い作品なのに、舞台は「安っぽいレストラン」・「路上」・「事務所」そしてメイン舞台の「倉庫の中」のみです。これならば額縁舞台でも上演できるんじゃないでしょうか。  

 

 オープニングの下品だが、真剣にバカ話をしている中年たちや、「チップ」でもめる(しかもたった一ドルで)ミスター・ピンク(スティーヴ・ブシュミ)のせこさがたまりません。次作でもその応用でマクドのビッグ・マックのヨーロッパでの呼び方の話などで無意味な話をしています。

 

 観客の作品内キャラクターへの感情移入を深めていく意味でも素晴らしい効果を生んでいます。そこで交わされるあまりにも馬鹿馬鹿しすぎる会話の内容もある意味、とても新鮮で、オープニング・シークエンスに、このシーンを持ってきたあたりは、ただものではない風格を感じます。 

 

   時間軸をずらしていく、見事なプロットとシーン構成、「襲撃」のシーンを全く見せずにそのシーンを想像させるヒッチ的「マクガフィン」など、その後の彼の作品群にも繰り返し使われるテクニックの全ては既に、この最初の作品で見る事が出来ます。  

 

 興行を考えた場合、この作品で弱いのは、あえて言うならば「俳優」であり(たしかにハーヴェイ・カイテルやブシュミは素晴らしいのですが、アイコンとなるスターが不在という意味で観客動員は難しそうであり、一般の観客は感情移入がしにくく、一般受けしづらい)、この部分が見直されて、予算もつきトラボルタ、Lジャクソン、ウィリスなどが出演した『パルプフィクション』は大ヒット&賞とりまくりで、タランティーノ監督の名声を不動のものにしました。

 

 そうは言っても、俳優達の演技そのものはこの作品のほうが複雑かつ重厚であり、性格俳優たちが演劇舞台で見せるような各々の芝居の違いを堪能することが出来ます。その他多くの部分も『パルプ~』よりこちらの方が上をいっている。

 

 ですが、あえて言いたいことがひとつあります。彼はこの二作と『ジャッキー・ブラウン』・『ナチュラルボーンキラーズ』以外では作りこみのテンションがあまり感じられないようになってきていることです。

 

 『ナチュラル~』にしても、あのオリバー君だったから、あそこまでのハイ・テンションに仕上がったのであります(あのしつこいまでのヤマタノオロチや悪魔君はいただけませんが...)。

 

 タランティーノ監督は、その後オリバー君の悪口を沢山言ってたようですけれど、彼だからしっかりと「骨」のある作品になったのだと思います。『レザボア~』自身の出来はほぼ完璧な作品だと思います。

 

 特にラストシーンはなぞめいていて、生き残った三人は結局どうなったのだか分かりません。まあたぶん中の二人はだめでしようけどね。

 

 ただひっかかるのはタランティーノ監督はこの一本で才能が世に知られるようになったのですが、この『レザボア・ドッグス』という作品は、あまりにもスタンリー・キューブリック監督の『現金に体を張れ』に酷似し過ぎているのです。もし『現金を~』を知らなければ、もしくはこれがオリジナルなものならば、タランティーノ監督の凄さを手放しに認めるところですが、知っている以上そういうわけにはいきません。

 

 キューブリック作品の中でも影の薄い『現金を~』をリメイク(パクリ?)したのは彼のセンスの良さを感じますが、あくまでもリメイク(パクリ)に過ぎないのです。彼を誉めそやすのは結構ですし、実際いろいろなものから研究してきたであろう、彼の映画制作への熱意は感じます。

 

 この作品、良い映画だなあ、と思える映画は多々あります。後でリメイクと知り、がっかりすることも度々あります。

 

 知らなければ良かったこともある、という映画ファンを長くやっていると嫌でも出くわすことのある失意の瞬間を味わう作品です。ただし、リメイクとしては秀逸です。草葉の陰でキューブリック監督も許してくれるレベルの高さはあります。

 

総合評価 80点  

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