良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『シャイニング』(1980)キューブリック監督の唯一のホラー作品。映画的表現の宝庫。

 イギリスへ渡った巨匠、スタンリー・キューブリック監督の1980年に発表された傑作ホラー作品。なによりもまず、これはキューブリック監督の撮ったフィルムの中では、ある意味、一番解りやすい作品でしょう。

 

 ジャック・ニコルソンシェリー・デュバルの顔を見ただけで、この作品はサイコホラーに違いないと、どんなバカでもわかるから...。解りやすいということは結構大切なことだと思うのです。

 

 なんせ、この作品は、あの単純なアメリカ人ですら、FOXの「恐い映画ランキング」で、ベスト5に入れてしまったのです。(ちなみにあとの作品は『エクソシスト』、『オーメン』、『クジョー』などでした。) これたしか商業的には大ヒットしましたが、評論家からは散々叩かれてしまった作品だったと記憶しています。僕自身は十分に楽しめました。

 

 なんといっても、この作品の偉いところは、何年たっても覚えているシーンが、それこそ十分おきぐらいにバカバカ出てくるところです。演出の冴え渡り方は尋常ではありません。映像だけで、恐ろしさを表現するキューブリック監督の冷徹で突き放した感性はホラーというジャンルではとても有効に見えました。

 

 ちなみに、個人的に気に入っているシーンは「双子の少女のシーン」「三輪車の目線で映る世界」、そしてあの不気味なオープニングです。あのシーンで、もしほかの音楽がかかっていたら、あのような冷たい演出で無かったならば、あれほど恐ろしいものになったかどうか解らないくらい見事なオープニング曲と撮影です。まさに「つかみはOK!」なのです。 

 

 批評している人は、とかく心霊世界を低く見て、物語の整合性ばかりに気をとられがちですが、あえてその人たちに言いたいことがあります。「 あの映像美を観ろ!」。あれこそが凡庸な監督では撮ることのできない活動写真なのだと言いたい。批評に傷ついたためか、そのあと7年もの長い間に一本も制作しなかったこと(次作の『フルメタル・ジャケット』は1987年)をとても残念に思います。

 

 勝手に批評するのはかまわないが、キューブリック監督が制作意欲をなくして、そのあと立ち直れなくなるまで痛めつけるのは芸術への冒涜なのです。全ての作品が百点満点であることは無理なのでどこかしらに矛盾はあるのですから、「ここはいいけど、あそこはよくない」という批評の仕方をして欲しいのです。もちろん映画への愛情が根底に無い評論、特に異分野の評論家の批評など気にする必要すらない。

 

 自分で判断できない人は、それをうのみにして、最悪の場合、その作品を見てもいないのに知ったかぶりして「つまらないんだってね」などと、のたまう可能性が大いにあります。ちなみにこの作品に対して持った大まかな印象としては、むしろ尺が短すぎるので、もっと丁寧に妻子側の心理描写を入れて3時間くらいの作品として仕上げて欲しかったと思うのです。

 

 だって彼の作品の多くが「休憩」が入るのが当たり前になっているのですから。その他の部分は完璧なんじゃないでしょうか。ジャックも『イージーライダー』であっさり殺される奴と同一人物とは思えません。制作にはあの有名なプロデューサー、ロバート・エヴァンスが関わっています。

 

 『ゴッド・ファーザー』、『ローズマリーの赤ちゃん』、『ある愛の詩』で名声を築いたもののトラブルを繰り返し、低迷していた彼を日の当たる世界に引き戻した友人、ジャック・ニコルソンは恐いだけの人ではない義理堅い人だったんですね。

 

  最後になりますが、一番最後に見てから、もう十年以上たちますが、いまだに十以上のシーンを鮮明に記憶しています。映画的表現の素晴らしいものを全篇で堪能できる。

 

 記憶に残る映像のあまりにも多いことに改めて気付かせてくれる傑作でした。それだけでも、この映画がとても素晴らしいものであるという証明になります。

総合評価 96点  

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