良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『日本沈没』(1973)日本人とは何か?国民の生命、財産を守るとはどういうことなのか?

 東宝は特撮映画には圧倒的な力量を発揮します。この『日本沈没』も70年代を代表する傑作特撮パニック映画のひとつであり、原作は小松左京、脚本に橋本忍を起用、製作にゴジラ・シリーズの田中友幸が携わり、スタッフにも佐藤勝(音楽)、村木与四郎(美術)、木村大作(撮影)ら黒澤組が顔を揃え(森谷監督は黒澤監督の助監督を務めていました)、森谷司郎監督をバックアップしていました。

 

 とにかくスケールの大きな作品であり、のちの『八甲田山』などに受け継がれていく、東宝の大作映画のうちの一本です。自社の明暗を決する、これらの大作映画を任せた東宝首脳陣の森谷司郎監督への絶大な信頼を感じます。

 

 森谷監督も東宝の信頼に応え、じっくりと腰を据えて、丁寧にメリハリと迫力のある作品に仕上げました。前半部が静かな展開を見せるために、物足りなさを感じる方もいるかとは思いますが、2時間20分を越える上映時間のほとんどを爆発シーンや沈没シーンなどの派手な描写で押し切ってしまえば、かえってなんら強い印象を残せません。

 

 後半に特撮を集中させたからこそ、一気に長時間を見せ切ることが出来たのであって、小出しにチョロチョロ特撮を見せられては興味も緊張も持続しません。いつ沈むのかというサスペンス的要素が作品にはあり、どのように崩壊滅亡していくかを見せるのには140分でも短い位です。実際TVドラマも制作され、20話を超える一大大河ドラマになっています。

 

 また原作ファンからすれば、バタバタ展開しているように思え、評価を下げがちになるのは仕方ない事ですが映画と小説は別物であることを理解すべきでしょう。もちろん原作を読んでから映画を見れば、端折られたシーンにたいして思い入れが深いほど憤りがあるのは分かりますが、映画とは編集の作業なので、優れているシーンでも予算の都合、スケジュールの都合、リズムへの影響から削除されるシーンも多いのです。

 

 静かな海底と繁栄する地上。実際には大変化が起こっている海底を無音で演出し、騒々しく繁栄を謳歌している地上との対比を描く。黄土色、赤茶色、黒味がかった赤色などの不気味な泥流の描写は地獄絵を思わせるほどの異様な映像でした。

 

 手振れを起こすカメラは不安定でリアルな状況を演出し、薄暗い画面には将来への不安感を強調する。ツー・ショット撮影でも工夫があり、同じツー・ショットを撮るにも感情や立場の違いが出ているようで興味深く見ていました。結婚しようとしているカップルがお互いの目を全く見ずに会話をする様子からは、見えない未来への不安と双方の見解や結婚への温度差が見て取れる。

 

 音の構成にも考慮が感じられ、クライマックスまでは極力音量を低めに設定して、見せ場見せ場に最大音量を持ってくるなど配慮がされているようでした。佐藤勝の曲も前半では暗く沈みこんでいくような曲だったのが、ラストでは新生を感じる音楽になっています。

 

 とかく批判の目に晒されがちな特撮チームも大きく作品に貢献しています。火の描写や爆発の描写にばかり目が行きますが、土砂崩れや洪水の描写も優れていました。今のCGに慣れきった目で見れば、退屈でちゃちなものに見えるのかもしれませんが、そのときどきに応じた予算と技術の中でやり繰りしながら、最善のものを制作するのが特撮チームなのです。

 

 好き放題に湯水のように予算をつぎ込むハリウッド作品だからといって、10年後にも生き残っていると断言できる作品が果たして何本あるだろうか。『スター・ウォーズ』の新三部作でも明らかな通り、特撮技術と俳優陣が格段に向上したからといって、作品の印象も格段に深くなったとは全く言えない。熱意があるかないかで、作品の印象が変わってくるのです。

 

 個人的には『スターウォーズ』は特別篇になる前の三本こそが『スター・ウォーズ』です。そのときそのときの技術とスタッフの中で一番良いものを使い続けてきたからこそ、特撮ファンはあの映画を支持したのであって、あとからもっと良い技術が生まれたからといって、全部それで作り直されてはたまらない。

 

 特撮の進化を味わえません。前作よりお金を掛けられるようになったのだなあ、と実感させられながら、続編を鑑賞しているマニアックなファンを無視するのは自分で自分のツバを飲むようなものです。作品を支えるのは宣伝を見て暇つぶしに足を運ぶ人々ではなく、マニアなのです。もちろん彼らの数は一握りでしかありませんが、半永久的に作品を語り続けるのは彼らなのです。

 

 技術的にも配役的にも進化したのかもしれないが、スピリットは後退してしまっている。スターウォーズ新三部作への最大の不満はそこらへんだったのかもしれません。『日本沈没』もリメイク作が公開されるようですが、甘っちょろいメロドラマや本質を抉らない分かりにくい薄味作品にはしないでいただきたい。少々不安を感じております。

 

 この作品には政治的にも民族的にも重大なメッセージが多く含まれている。「沈没」した場合に、日本人が取り得る手段はそうは多くない。「沈没」というのは物理的なことでなく、繁栄してきた日本への暗喩なのではないでしょうか。作品では1000万人程度の国民は世界各国に受け入れ(暗喩という意味では雇用と置き換えても良いかもしれません)が決まるが、残りの人々は何処へも行き場がない。

 

 作品中ではオーストラリア、中国、アメリカ、ロシアが沈没難民を受け入れてくれますが、北朝鮮と韓国は受け入れを拒絶する。70年代の描写ですが、今でもそう大差はないのではないか。移民できる(通用する)日本人は全人口の十分の一にも満たないというのが現実です。

 

 国ごと心中するしかない。この作品では大規模な自然災害により、日本は滅亡しますが、滅亡させる手段は災害だけではない。経済破綻や核による滅亡もありえる訳で、北朝鮮が核弾頭を放った時にも想像できない被害が発生することを予想できます。

 

 特撮が大きな話題となった映画ではありましたが、この作品の大切なテーマは実はドラマ部分にあります。分かりやすくいかにわが国が脆弱な地盤の上に成り立っているのかを東大教授の竹内均さんが説明する場面には感心しました。政治家に説明をするという形を採りながら、観客にも共通理解を広めていくこの場面は何故か印象に残っています。

 

 いかに我々の繁栄が砂上の楼閣にすぎないかを分からせてくれるまでに、この映画は一時間を掛けます。科学的な説明を無視する政治家や根拠の全く無い、無意味な楽観論が支配する状況は今のテポドン騒ぎとなんら変わりがない。

 

 実際に特撮シーンが目白押しの後半には目を瞠るものが多い。下町が地震よりも洪水のために破壊されていく様子、ビルから飛び散る窓ガラスにより大怪我を負わされたり、死亡していく人々の描写、倒壊する高速道路など神戸の地震のような光景が続きます。

 

 リメイク作ではこのような描写が控えられているようなのですが、映像の持つ力を観客に見せる事によって、実際にそのような状況に近い状況に陥った時にどう対処するかも大切なので、目を逸らさない描写で描いて欲しかった。

 

 また日本政府が極秘裏に纏めた日本国の指針というものが作品中で示されますが、これが本質を突いていると思われますので、掲載します。

 

1.他国に将来、新日本を建国する。(イスラエルのイメージか。)

 

2.他国に帰化していき、世界に同化していく。(華僑のイメージか。)

 

3.そのまま何もせず運命に任せ、アトランティスのように玉砕する。(神風のイメージ。)

 

 まず1と2ですが、ここで重要なのは我々にはもう帰る国がないということです。バックボーンの何もない我々が厳しい世界で生き抜いていくのは並大抵のことではありません。いわれない嫌がらせ、迫害、生命に危機に晒され続ける事は必至で、生きながらにして地獄を味わうかもしれません。自分が日本人である事、その誇りを外国人に伝える事ができて、はじめて日本人としての生存権と人権が保障されるのではないか。

 

 ただ生物的に生存しているからといって、人間として生きているとは言えません。ユダヤ人には自分達の英知の根源としてユダヤ教があり、タルムードがありますが、日本人にはいったい何があるというのだろうか。自国文化、自国の宗教を語れない民族に世界の人々が尊敬の念を抱くとは思えない。

 

 また宗教というと日本ではタブー視されているようですが、そこまで格式ばらずとも、「世界で生きる、日本人としてのルール100か条」みたいな物でも制定して、国民すべてが唱和できるようにしておくだけでもいいんじゃないかと思います。

 

(例)として

1.ありがとうを言う

2.すみませんと言える 

3.お願いしますと言える 

4、手を洗う 

5、清潔を心がける 

6.笑顔 

7.殺さない 

8.盗まない 

9.傷つけない 

10.嘘をつかない 

11.日本は良い国だったと外人に説明する 

12.地域を大切にするなど。

 

 つまり日本人とはこういう人々ですよ、というアピールをしていかなければ、世界史に埋没してしまいます。

 

 科学者の総意は3になったとの見解が示されました。実際老人は住み慣れた自国で死ぬのを臨む者がかなり大多数出てくると思われる。英語もしゃべれない、食べ物も気候も合わない外国で生き抜くのは相当の覚悟が必要になります。

 

 若者にしても英語がしゃべれないと仕事も見つけにくいし、将来に絶望した群集が多ければ多いほど、受け入れ地はスラム化し、治安は最悪になってしまいます。

 

 国防の面でも自問自答が続き、東京が大災害にあっても食糧備蓄さえ十分ではない状況、水道管の断裂による消火力の低下、避難場所の少なさ(群集が皇居に押しかけるシーンもあり)、自衛隊の無力さが際立ったつくりがされています。

 

 パニックに翻弄される群集よりも、それらから一歩引いた立場から状況に必死に対処する立場にある首相(丹波哲郎)、深海調査船の乗組員と彼女(藤岡弘いしだあゆみ)、政界のフィクサー島田正吾)、そして海洋学者(小林桂樹)の心情や行動に焦点を絞って製作されているために、政治家の苦労と努力、若い日本人の未来への不安、日本と運命を共にする老人たちが少々強引ではありますが、力強く描かれていました。

 

 日本にも良い俳優さんたちが大勢いたんですねえ。味のある人々がどんどんいなくなっていく寂しさを常に思う今日この頃の邦画ですが、この当時の俳優は皆濃くて、各々が自分の個性を持っています。  http://app.blog.livedoor.jp/nekohimeja/tb.cgi/50780898

 

総合評価 76点

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