良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ウルフガイ 燃えろ狼男』(1975)千葉真一主演映画なんですが、犬神描写のため封印中!

 大昔に見た映画について書こうとすると、最近は様々な障害が発生する。これも現在、視聴が難しい作品の一つではありますが、その理由は狼族の血を引くという血筋に関してのもので、特定の血筋が災いをもたらすという文脈が差別を助長するのだとのことなのでしょう。  しかし今では松田優作が出演していた『狼の紋章』、長らく封印されていた『犬神の悪霊』、手塚治虫の『バンパイア』などの作品が無事に発売されたり、CSで放送されたりするなど、だいぶんと封印状況が変化して、どちらかというと緩和されている傾向に見えます。この映画も、もうすぐ普通に見られる日が来るのかもしれません。  内容について軽く触れていきます。冒頭、狼の血を引く犬神一族は日本人によって大虐殺を受ける。唯一生き残った、千葉真一は成長後に大衆誌のトップ屋となる。三日月の夜に、彼はある不可思議な殺人事件に巻き込まれる。
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 チンピラの風体の男が何物かに憑かれたかのように深夜の歓楽街を徘徊した挙げ句の果てに、猛獣に襲われたかのように、体中に爪で掻きむしられたような傷を負わされて絶命する。  その刹那、彼は「虎だ…」と意味不明の言葉を発する。調べていく内に、歌手の卵だった娘(奈美悦子)を強姦したマナベプロ(爆笑しました!)所属のバンドマンたち(含・安岡力也)が立て続けに惨たらしい死を遂げたという事件に遭遇する。  その死に様は千葉が見たのと同じように、まるで猛獣に引っかかれたり、噛みつかれたりしたような痕が残っていた。夢を奪われた彼女の恨みの念がこれら一連の事件を引き起こしているかのようだ。
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 真相に迫っていく千葉真一に立ちふさがるのはヤクザのような芸能事務所だけではなく、妖しい女が率いる政府組織JCIA暗闘の暗躍と政界の陰謀も絡んだ戦いが始まり、彼を軸にした抗争が激化していく。そして最後はお互いに傷ついた者同士のサイキック対決を向かえる。  恨みの念で人を殺す力を持ってしまった悲しい女(奈美)と狼族の唯一の生き残りの千葉が持つ特殊能力を駆使して殺し合うのだが、彼女は千葉が愛する渡辺やよいに嫉妬し、彼女と刺し違えて息絶える。千葉はまた天涯孤独な身となり、JCIAの生き残りを始末し、どこかへ消えていく。   いかんせん、難点はなんといってもウルフガイと謳っているのに千葉真一がウルフマンに変身しないこと、これに尽きる。監禁され、生体実験により内臓を引き裂かれても、満月の夜に牢屋から脱出するときに、まずは引き裂かれた内臓を正常化させ、鉄格子を素手でねじ曲げてしまったり、銃弾を大量に浴びても倒れなかったりとそれなりには特別な能力を感じさせるが、特撮ファンの支持を得るのは無理でしょう。
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 虎の呪いを表現するために挿入される虎の画像も締まりがなかったので、これは不要に思えました。劇中、千葉と絡む3人の女たちが皆、ミステリアスで魅力的だったので、余計に残念でした。  ヤクザ映画にオカルトとヒーローの要素を盛り込んだこの作品は東映自体がいつまでもヤクザ映画に頼っていられないが、かといって、どうすれば、苦境を脱することが出来るのかが分からないという微妙な時期に製作されている。結果的に全ては中途半端な仕上がりになってしまい、歴史に埋没してしまいました。  ただしアングラアクション映画としての魅力は確かにありまして、奈美の歌う不気味な歌や千葉真一独特の魅力溢れるアクションシーンなどに見所がある。またエロチックなシーンも多く、現在では地上波に乗せるのは難しそうだ。もっとも現在はその代わりにCSやBSがあるので、諸問題がクリアされれば放送に漕ぎつけられるかもしれません。  東映では同じように千葉真一を起用した『直撃!地獄拳』や『激突!殺人拳』シリーズのように石井輝男監督の演出による荒唐無稽な作品群が今ではカルト的な人気を誇っていますが、この『ウルフガイ 燃えろ狼男』は残念ながら国内ではソフト化されていない。
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 ただし大昔に地上波で放送されたことがあり、そのテープは裏市場で取引されているようです。まあ、正式に商品化されていなくとも、ネット時代ではなんとかして見れてしまうので、特に問題はないが、いちいちヤフオクで探すのは面倒なので、普通に正規版をリリースして欲しい。  それ以外に、一映画ファンという立場では、本当に見られない映画もありますが、そのへんは諦めるしかない。『スパルタの海』『スクラップ・ストーリー』『夕映えに明日は消えた』『ガキ帝国 悪たれ戦争』『女獄門帖 引き裂かれた尼僧』などを見るのは不可能でしょう。  あるとすれば、映画祭の目玉とか名画座での限定的な上映のみであろう。似たり寄ったりの映画祭ばかりでは集客力もないでしょうから、日本カルト映画祭とかを各社で企画し、春夏秋冬で札幌、東京、大阪、福岡をカルト映画で巡業してくれると嬉しい。  東宝、松竹、日活、東映の順番で各地方に各季節でやってほしい。作ったものを責任を持って、観たいと熱望するファンにさらして欲しい。映画ファンみんなで不幸な映画たちを見送りたいものです。今の基準に合わないからという理由でフィルムの歴史的な意義自体を葬り去るのは正しくない。リリースして様子を見て、それで売れなかったならば、そのとき初めて、廃盤にすれば良い。  総合評価 65点