『ハイキック・ガール』(2009)武田梨奈ちゃんはアクション界のニュー・スターになれるか?
最近、レンタル屋さんに行くと若いギャル風やセクシー系グラドルらしき女の子を無理やりアクション映画や突飛なSF&劇画チックの映画に出演させて、チープなパッケージのジャケットで勝負しているジャケ借りの作品を棚に並べているのをよく見かけます。
そんななかにあった一本がこの『ハイキック・ガール』及び『KG』でした。主演はどちらも武田梨奈で彼女は女子高生で、しかも黒帯を持つ本物の有段者で全日本チャンピオンでもあります。格闘シーンでの腰の入れ方もしっかりしていますし、作り物ではない動きの切れもある。
パッケージにあるようにあの高さまで足を上げて、ハイキックをかまし、アクションの殺陣をやり続けるのは素人では無理があるし、スタントを立てるだろう。もちろん彼女はボディ・ダブルなしですべてのシーンを自身で演じている。
ルックスも切れ長でキツメの眼が凛としていて、媚びていない。気の弱い男たちには支持されるかもしれません。とてもスレンダーな女の子なので、これから20代中盤になるにつれ、色気も増してきたら、アクション女優として特異な地位を築く可能性を秘めています。
問題は演技がまだまだ拙く、棒読み口調なのが気になりますので、しっかりとした演技メソッドの中で修行を積めば、個性的な特技を持っているわけですから、大化けするかもしれません。個人的には『告白』『アバター』で主演を務めた橋本愛とともに注目している若手です。
ただせっかく空手チャンピオンという本物の魅力を持っている彼女なのに、出た映画の演出と脚本が酷すぎて、半分も魅力が伝わっていない。彼女の個性は派手な演出よりも控えめの方がより分かりやすく出そうな気もします。
彼女を台無しにしてしまったのが演出です。やたらと繰り返すリプレイのスローモーションが致命的に下世話で鬱陶しく、せっかくのスピードを失わせ、作品を停滞させてしまっている。
劇画タッチを狙ったのでしょうが、脚本も上滑りで現実離れし過ぎていて、感情移入するのは非常に難しく、奇を衒ったのか、普通にストーリーをまとめられていませんし、何がしたいのかがさっぱり理解できません。
共演者にAKB48・チームKのキャプテン、秋元才加も出演し、両者の格闘シーンも出てきます。秋元も合気道経験者なので、型はしっかりしていますので、安心して見ていられます。
彼女たちのみではなく、格闘シーンに登場する演者は武道経験者のようなので殺陣は素晴らしいのですが、さきほど言いましたようにいちいちリプレイとスローモーションが出てくるので、逆にチマチマした作り物のように見えてしまう。素材をまったく活かせていない的外れな演出にはムカムカしてきます。
演者の殺陣の技術が優れていてもそれだけでは良いアクション映画を撮れるわけではありません。基本は監督がどのような方向性とセンスを持って、作品のレベルを上げていけるかだと思います。
千葉真一主演で『直撃!地獄拳』などの一連の東映アクション映画を撮っていた石井輝男監督や北村龍平監督ならば、もっと彼女の魅力を引き出せたかもしれません。
つまり武田梨奈に必要なのは演技訓練と良い監督にめぐり合うことでしょう。まだまだやせっぽっちでおとなしい素人少女の雰囲気が抜けない彼女ではありますが、それがまた魅力でもあります。
主題歌も彼女が歌っていますが、ギャルっぽい歌声がかなりギャップを感じさせます。
総合評価 43点