『SM大陸/マンダラ』(1975)かつてビデオ屋に並んでいたが、手を出せなかった一本(笑)
1980年代、高校生の夏、ぼくらの街にようやくTSUTAYAがやってきました。二泊三日で500円という価格は当時は破格の安さで、学校帰りにしょっちゅうみんなで押し掛けました。
もちろん学生服を着たままでエロビデオ・コーナーには行けるはずもなく、ホラーやちょいエロ作品が陳列されている棚から、その奥に大量に並べられているAVを羨ましそうに眺めていたのを思い出します。
ドキュメンタリーの棚にはモンド映画の『世界残酷大陸』『カタストロフ』『ジャンク』『ビーイング・ディファレント』などと一緒にある作品が並べられていました。
そのタイトルは『SM大陸/マンダラ』でした。なんとイカツイ題名なのだろう。しかし知り合いの誰が見ているか分からない地元のTSUTAYAではパッケージを手に取ったり、勇気を出して借りたりするのも困難だったので、結局はずっと気になっていたもののついに見る機会を失いました。
さすがにおっさんになった今では迷うことなく手に取れますが、思春期の頃、もし同級生の女の子に見られたら最悪なのは誰でも分かってくれるでしょう。
数年後、大学生になっていたぼくは悪い先輩から裏ビデオを借りていたのでモザイクのかかったビデオをわざわざレンタルする必要もなくなり、いつかこの作品のことを忘れていました。
それがふとした拍子にこのタイトルを思い出したのですが、当たり前のようにDVD化はされておらず、ヤフオクに参戦する他はない状況でした。
さすがにこれを自宅のコレクションに加えるのは勇気が必要ですので、オークションには参加しませんでした。そんな話を友人としているとなんと彼はこのビデオを持っていると言うので、早速貸してもらうことにしました。
数日後に受けとり、VHSで再生してみると思っていたのとはかなり違っていて、12チャンで昔見ていたちょっとエッチなシーンがちょこちょこ挿入されている程度の肩透かしドキュメンタリーだということに気づかされました。
しかも原題は『MOND SHOCK』、英語タイトルは『ショッキング・アジア』という白人による上から目線まる分かりのモンド映画系列の恣意的なドキュメンタリーを延々と見せられる。
当時の白人にとってはアジアなんて、文化されていない野蛮人の括りでしか理解されていなかったのでしょう。中身も薄っぺらく、奇習を表面的になぞっていくのみで拍子抜けもいいところです。ヒンズー教徒の修行者に刺される無数の針は確かに痛そうですが、修行はSMではないのになあ。
ゲテモノ料理での蛇を裁くシーン、東南アジアの市場で蝙蝠や亀の皮を剥いだり、甲羅を切断したり、また大亀を密猟する様子の一部始終を撮影していて、亀が絶命するまでを執拗に見せつける。悪趣味な現場をこれでもかとモンタージュしていく。
インドの映像もすさまじい。ガンジス川での沐浴の様子が描かれるが、腐乱死体が信者の横を流れていく様子もわざわざアップで映し出す。
身分格差も炙り出されていて、貧者が死んでも火葬するお金がないために生焼けで放置されるが、お金持ちはしっかりと灰となって、僧侶の手によってガンジス川に流してもらえる。
貧富の差が激しいアジアの現状は今もさほど変わっているようには思えませんが、数十年前はさらに格差があったのでしょう。
残酷シーンのあとはお約束のセックス描写がお出ましとなる。タイの歓楽街での猥雑な様子、オカマのショー。日本もしっかりアジアなので、変な映像はおかしいと理解できますが、もともと差別してくる白人にとってはみんな一緒です。ゲテモノ料理屋では中年のオッサンが蛇の生き血をすすり、回春を諦められない老人は蛇の干物を粉末にしてもらう。
わざわざカップルを仕込んで、目黒エンペラーの室内を映し出すのは今でいう投稿ビデオのようなわいせつ性を感じさせるも仕込みがバレバレなので白けてしまう。
タイだったかの海外での性転換手術の生々しい様子、彫り師のテクニックに恍惚の表情を浮かべる情婦(?)、そして秘宝館巡りで幕を閉じる。
西洋人にとってはショッキングなのでしょうが、一番ショッキングなのはゲテモノ料理を日本人がみな喜んで食べている風に見えてしまう映像作りと唐突に差し込まれる大相撲の幕内優勝パネルです。意味が分からない。
そこへSMショウがほんのちょこっとだけ差し込まれる。それだけです。タイトルに呼応するのはわずか数分間だけです。しかしこのいかがわしさこそがこういった見世物映画の見世物映画たる所以でもあります。
それでもたった数分の場面しかないのにタイトルにSM大陸などと仰々しく冠をつけるのはいかにも昭和の見世物興行に思える。
実際に映画館でお金を払った人々は騙された怒りをどこにぶつけたのだろうか。誰にも言えずに、たぶん不機嫌に日曜日を過ごしたのでしょう。見てみたいでしょうが、見る価値はあまりない。『洗濯屋ケンちゃん』みたいなものでしょうか。
総合評価 42点