良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ザ・ビートルズ~エイト・デイズ・ア・ウィーク』(2016)なぜ今このタイミングなのか?

 正式タイトルは長ったらしく、『ザ・ビートルズ~EIGHT DAYS A WEEK ‐ The Touring Years』です。『エイト・デイズ・ア・ウィーク』はレコード時代、イギリス4枚目のアルバム『ビートルズ・フォー・セール』のB面一曲目に収録されていた名曲で、大好きなナンバーの一つです。

 

 この映画でもタイトルに起用するだけあって、ツアーの合間を縫って行われる楽しそうなレコーディング風景から始まり、徐々に曲のアイデアが固まり完成していくさまが描かれているだけでも満足だが、その出来上がりまでの速さが驚異的で興味深い。

 

 題名に“The Touring Years”と断りを入れていますので、デビュー前のキャバーンやハンブルグまでさかのぼり、ブライアン・エプスタインの協力を得てのイギリスデビューを経て、1966年までのステージ活動を行っていた時期を捉えたドキュメンタリーのようです。

 

 実際、予告編では『エド・サリバン・ショー』『シェイ・スタジアム・ライブ』『武道館ライブ』などの映像が並べられていました。『サム・アザー・ガイ』を演奏している映像もチラッと入っていたので、ハンブルグやキャバーン時代についても触れられています。

 

 この調子で、“The Recording Years”とか“There Solo Years”とかアンソロジー・プロジェクトの時期のように商売第一主義でやりだしたら悪夢ですが、僕らファンは死ぬまで貢ぐので大丈夫です(笑)

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 たぶんその場合の目玉は封印された形になっている映画『レット・イット・ビー』とアルバム『ゲット・バック』の公式発売なのでしょう。公式なライブではないものの映画のエンディングではルーフトップ・コンサートの模様も流されます。

 

 両方ともすでにブートやVHSビデオで持っているマニアからするとあまりにも遅すぎるリリースとなり、5年くらいなら良いけど、10年後とか待たされるようだと死んでしまうマニアも増えるでしょうから、早めに冥土の土産として販売しておくれとアップルに言いたい人もいるのではないか。

 

 ブツブツ言いながらも祝日に合わせて、今回の劇場公開は9月22日(全世界同時上映なのかな?)と決まったようなので、県内のけっこう家からは遠い映画館まで初日に観に行くことにしました。上映は朝9時と夜9時の二回だけなので、朝の初回上映を選びました。

 

 さあ、眠い目をこすって集中しようとしているとファンの歓声が轟き、すぐに目を覚ますと同時に彼らのオーラに圧倒されていきます。このドキュメンタリーの第一印象としては観客の絶叫の大きさと持続にあらためて驚くのと音質に配慮がされていて、ライブの臨場感が上手く捉えられていて、特にリンゴのドラムやジョンのギターに迫力があります。

 

 ふだんはとぼけた感じしかしないリンゴがあれほど乱れ打ちする様子は映像をはじめて見るだろう若い観客には衝撃的でしょうし、小さなテレビ画面ではよく分からない細かい部分が見られて、とにかくファンならば楽しめます。

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 結構歌詞がいい加減なジョンはともかく、コーラス隊のジョージやポールもチョコチョコ間違えているのもご愛敬ですが、自分の声やバンドの音がほとんど聞こえていない中、よくぞここまでのノリを叩きだせるものです。バンドをやっていた友人も彼らは音がまったく確認できない不安な演奏環境下であれだけ揃えられるのは驚異的で、ライブバンドとして最高だとよく言っていました。

 

 ライブ映像ではマンチェスターでの演奏、ワシントンでの演奏、メルボルンでの演奏が元気一杯でかなり楽しめます。ファンや各国テレビ局やラジオ曲から寄せられたフッテージが素晴らしく、初見の映像が多いのも資料としてのポイントが高い。

 

 ビートルズはそのキャリアでのほんの数年間のワールド・ツアーで15か国を回っていたにすぎません。母国イギリス、ドイツ、フランス、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、スペイン、イタリア、日本、フィリピンなど行く先々で熱狂を生み出しています。まあ、フィリピンは別の意味で大騒ぎになったようです。

 

 映画の後半では見世物としてしか見られていないことに不満を持ち、クリエイティブではなくなっている自分たちへの疑問からどんどんスタジオに籠もるようになっていく彼らの葛藤が描かれる。彼らがやりたい音楽はスタジオで表現される実験的なものに切り替わっていき、哲学的な色彩を帯びていきます。この辺の変貌への戸惑いについてはエルビス・コステロがインタビューで語っています。

 

 ポップ音楽の歴史を語るだけではなく、ケネディ暗殺、公民権運動(南部では白人席と黒人席に隔離されていて、ポールが人種差別に反対する当時のインタビューが入っています。)、ベトナム戦争、テキサスタワー乱射事件など当時の社会情勢にも絡められて語られていきます。

 

 アルバム『リヴォルヴァー』の録音風景を挟みながら、ラストライブとなるキャンドルスティック・パークの様子が流され、その後のスタジオアルバムの簡単な紹介の後、ここで終わりかと思った途端、時間は1969年に進みます。

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 アップルレコードの屋上で突然行われた、いわゆるルーフトップ・コンサートが始まり、『ドント・レット・ミー・ダウン』と『アイブ・ガッタ・フィーリング』の演奏が続き、エンディング・ロールが流れていく。

 

 公式に映画『レット・イット・ビー』がたとえ細切れであるにせよ、劇場のスクリーンで観られるのは40年ぶり以上でしょう。これは諸般の事情でお蔵入りになっているこの不幸な作品の待ちに待った発売への布石だろうか。

 

 そのあとに劇場限定のサービスとして1965年にアメリカで行われたシェイ・スタジアムでの30分に及ぶ演奏が上映されました。見たことのある映像ではありますが、デジタル処理を施され、音が綺麗に分離されていて聴きやすい。

 

 ただし、ファンサービスとしてはありがたいが、ここまで二時間近く爆音を楽しんだ後なので、ファンの鳴り止まない絶叫が正直かなりキツい。

 

 ビートルズのメンバーは毎晩のようにジェット機並みの爆音と批判するマスコミ、巨大すぎるビジネスの成功とそれを維持し続けなければいけないのストレスに晒されながら、楽しくもなかったであろうライブをやり続けていたのでしょう。

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 彼らの上げ足を取ろうと身構えるマスコミに注意を促すポールの冷静な発言はさすがバンドのスポークスマンは彼なのだと理解できますし、ジョンの苛立つ発言も理解できる。油断とうんざりが混ざり合ってのキリスト発言だったのでしょう。リンゴはレコード契約が最低だったので、お金を稼ぐにはライブしかなかったとインタビューで答えています。

 

 話をシェイ・スタジアムに戻します。ジョンは『アイム・ダウン』演奏時に肘でキーボードを押したりと奇行が目立ち、明らかにラリっています。音がほとんど聞こえていないのもよく分かり、適当にMCをしてもひたすらに絶叫し続ける観客に苦笑しています。

 

 彼らはさぞ辛かったのでしょう。公演後に安全のために囚人護送車で移送される彼らの姿が映し出されますが、ここにはもはや自分たちがスターなのか、マスコミやファンに囚われた人なのか判別がつきません。

 

 映画のライブ映像自体はほとんどが見たことのあるもので、そうでないものはかつてボツになったものを掘り起こしてきたであろうフッテージ映像でしょうか。映像の海賊盤程度のものを綺麗にして商品価値があるようにしたのだろうかと見る前は疑念を持っていましたが、観ればそんなことを忘れさせてくれるのが我らがビートルズでした。

 

 目玉としては生き残っているおじいちゃんたちにネタフリをして語らせていることでしょうし、そもそも今頃になってなぜこのタイミングでの公開となったのだろうか。

 

 生き残っている者はすでに亡くなった人との秘話について、相手が否定できないのを知りつつ、都合よく好きなように事実を曲げられるし、そもそも50年以上前の当時のことを鮮明に覚えているとも思えない。

 

 40年近くビートルズ好きな中年ファンとしてはマニア知識を増やすためにも映画館まで足を運びましたが、1990年代中盤のかつてのアンソロジー・プロジェクトと同じようにダイジェスト版をテレビ放送して、完全版をブルーレイ化してリリースしていく形にしなかったのはなぜだろうか。それほど多くの音源がさすがに残っていないのだろう。

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 昔と違い、テレビを見ている層が減りつつあることを見越して劇場公開の形を選んだのか、それともダイジェストだけで十分と思われることを恐れたのか。

 

 アップル・レコードがネットでマニアが持っている非公式映像を募集するなど、さすがにネタは尽きているだろうことが推察できます。インタビューにしても、生き残りメンバーがイメージ悪化を招いてまでも、あえてツアー時の女遊びやドロドロした人間関係、ギャラ配分をぶちまけるとは考えにくい。

 

 映画公開に先駆けて、アナログ時代には普通に買えたが、イギリス・オリジナルのみにフォーマットが統一されてしまってからなかなか発売されず、今回ようやくリリースされたのが、『ビートルズ・ライブ・アット・ザ・ハリウッド・ボウル』です。キャピトルではなく、アップルが仕切るようです。

 

 公式な目玉としては14曲目から17曲目までの4曲の未発表ヴァージョンとのことです。しかしながら海賊盤ではすでにすべてが発売されていて、目新しいものは何もない。音質が良くなったとか言われるのでしょうが、ライブは音質ではなく、会場のノリや即興的なプレイを楽しむものなので、あまり響かない。

 

 ブートでは1964年8月23日のライブ、1965年8月29日と8月30日のライブ音源が彼らが出てくる前の司会者の口上から完全な形で残っているモノが市場に出回っています。もちろん繋がりやピッチの違いなど調整が難しいこともあるでしょうが、技術が発達した現在ならば、どうせ再発売するならば、もう少し良いモノに出来たのではと思います。

 

 良くなった点を強いて言えば、デジタル化に合わせてしっかりと音源を処理して分離させたりして聴きやすくしたり、歓声を抑える工夫を施し、メンバーのMCが分かるようになっていますが、ライブの醍醐味はファンのレスポンスなので、いつも同じようなMCをやっていた彼らの声よりもファンたちの熱狂を伝えた方が良い。

 

 そもそも今回の製作作業にはジョージ・マーティンの息子を起用していますが、製作を世襲にするというのはなんだか奇妙に思えます。同程度の仕事が出来る他人に仕事を任せようとはせずに内輪でお金を回そうとする姑息な意図を感じます。アルバム収録曲は以下の通りです。

 

1.ツイスト・アンド・シャウト(1965年8月30日)

2.シーズ・ア・ウーマン(1965年8月30日)

3.ディジー・ミス・リジー(1965年8月30日/1965年8月29日を1曲に編集)

4.涙の乗車券(1965年8月29日)

5.キャント・バイ・ミー・ラヴ(1965年8月30日)

6.今日の誓い(1964年8月23日)

7.ロール・オーバー・ベートーヴェン(1964年8月23日)

8.ボーイズ(1964年8月23日)

9.ア・ハード・デイズ・ナイト(1965年8月30日)

10.ヘルプ!(1965年8月29日)

11.オール・マイ・ラヴィング(1964年8月23日)

12.シー・ラヴス・ユー(1964年8月23日)

13.ロング・トール・サリー(1964年8月23日)

14.ユー・キャント・ドゥ・ザット(1964年8月23日――未発表)

15.抱きしめたい(1964年8月23日――未発表)

16.みんないい娘(1965年8月30日――未発表)

17.ベイビーズ・イン・ブラック(1965年8月30日――未発表)

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 1から13まではレコード通りです。彼らのライブ盤を聴いたことのない人には感動モノなのでしょうが、数多くのブートを聴いてきた者からするとこの曲順には怒りを感じます。それは14曲目以降についてです。

 

 14曲目(当日は2曲目に演奏されています。)と15曲目にせっかく1964年の8月23日の演奏を持ってきているのならば、珍しいバラード・ナンバーの『イフ・アイ・フェル』を『抱きしめたい』の前に演奏しているのでそれを挟み、著作権のかかる『みんないい娘』と差し替え、17を『アイム・ダウン』にすべきだったのではないか。

 

 彼らのライブはポールの絶叫ナンバーで終わるのが基本なのです。何でよりによって『ベイビーズ・イン・ブラック』で終わるのだろうか。

 

 だったら、1965年8月30日の同じライブのラストナンバー『アイム・ダウン』と『ベイビーズ・イン・ブラック』を差し替えてもらったほうが聴きやすいし、買った人もノリノリの状態で聴き終えることができるのです。大人の事情があるのでしょうが、ファンへの配慮がほしい。

 

 収録曲は英国アルバムとしては第一作目の『プリーズ・プリーズ・ミー』から『ウィズ・ザ・ビートルズ』『ア・ハード・デイズ・ナイト』『ビートルズ・フォー・セール』『ヘルプ!』『ラバーソウル』、そして『リヴォルヴァー』の先行シングルの『ペイパーバック・ライター』までの彼らのライブ活動時期の楽曲から演奏されています。『オールディーズ』を加えてもいいでしょう。

 

 ビートルズが演奏を楽しみ、元気だったのはかろうじて『ヘルプ!』のころくらいまででしょうか。映画でもポールは映画『ヘルプ!』には興味はなかったが、節税対策でバハマが良いと聞いていたので、バハマ行きを熱望し、それが叶った嬉しさを劇中で語ります。ついでに撮影期間中、ほとんどの時間に麻薬をやっていたことも付け足しています。

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 数多い海賊盤ライブでも会場が巨大化していき、締めに『アイム・ダウン』が歌われるようになってくるとなんだかポールだけが張り切っているように聴こえます。また『ラバー・ソウル』の楽曲が入って来る頃には活気が失われていて、ノリが悪くなってきます。

 

 アメリカのスタジオ盤でいうと『夢の人』から始まる『ラバー・ソウル』(?)くらいから妙な感覚になります。何故かというとアメリカ盤の『ラバー・ソウル』は一部ナンバーが差し替えられ、曲目も減らされ、僕らが知っているイギリス・オリジナルとは別物で、曲目は以下の通りです。

1. I’ve Just Seen A Face(Help!)

2. Norwegian Wood (This Bird Has Flown)

3. You Won’t See Me

4. Think For Yourself

5. The Word

6. Michelle

7. It’s Only Love(Help!)

8. Girl

9. I’m Looking Through You)※イントロを間違えるテイク

10. In My Life

11. Wait 12. Run For Your Life

 

 最低ではありませんし、これはこれで不思議な雰囲気を醸し出すアルバムなのですが、何か違うなあと聴くたびに思います。たぶんサウンドとかセッションの雰囲気が違うから違和感を覚えるのだろうなあ。

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 イギリスでは前のアルバムとなる『ヘルプ!』から2曲も選曲されていて、『恋をするなら』『ドライブ・マイ・カー』『ひとりぼっちのあいつ』『消えた恋』が落とされています。アメリカ盤は11曲程度でアルバムが構成されていたために14曲で構成されるイギリス盤と比べると曲数が少なく、枚数が多いのでファンにはツライ。

 

 コンセプトアルバムである『ラバー・ソウル』や『リヴォルヴァー』まで好きなように編集してしまうアメリカのキャピトルに対し、常日頃から悪感情を抱いていたようです。『ヘルプ!』『ラバー・ソウル』『リヴォルヴァー』をいじって制作されたアルバムが『イエスタデイ・アンド・トゥデイ』です。

 

 アルバムをこねくり回され、ツアーに明け暮れ、ボーイ・ミーツ・ガール的なポップ音楽にも嫌気がさしてきた彼らは中期に米国でリリースされたアルバム『イエスタデイ・アンド・トゥデイ』のジャケットにいわゆる“ブッチャー・カバー”で対抗します。

 

 ブッチャー・カバーは一般に自分たちが自信を持って送り出すイギリス盤の14曲入りのアルバムを好き勝手に切り刻み、11曲程度にまとめ、アルバム枚数を稼ごうとするキャピトルへの抵抗の象徴のように語られていました。

 

 実際は撮影したカメラマンのアイデアでポップスターの概念を崩したいという意向に賛成したジョンとポールが推し進めたようですが、ほかのメンバーや他のスタッフは乗り気ではなかったようです。

 

 映画でもブッチャーカバー騒動に触れらていますが、最初にリリースされたジャケットが回収されて、いわゆる“トランク・カバー”に変更される様子を皮肉っぽく表現しています。

 

A-1 ドライヴ・マイ・カー(RUBBER SOUL※)  

A-2 アイム・オンリー・スリーピング(REVOLVER♢)  

A-3 ひとりぼっちのあいつ(※)  

A-4 ドクター・ロバート(♢)  

A-5 イエスタデイ(HELP!)  

A-6 アクト・ナチュラリー(HELP!)  

B-1 アンド・ユア・バード・キャン・シング(♢)  

B-2 恋をするなら(※)  

B-3 恋を抱きしめよう(シングル※)  

B-4 消えた恋(※)  

B-5 デイ・トリッパー(シングル※)

 

 以上がアメリカ・キャピトル・レコード盤『イエスタデイ・アンド・トゥデイ』の中身です。ヘルプ・セッションから2曲、ラバー・ソウル・セッションから6曲、そしてリヴォルヴァー・セッションから3曲と中期アルバムからの選曲になっています。

 

 このアルバムで有名なのはもちろんジャケットの“ブッチャー・カバー”ですが、音源マニアにとっては『アイム・オンリー・スリーピング』のモノラルとステレオのテイク違いやシングル『恋を抱きしめようc/wデイ・トリッパー』のテイク違いを集めたり、聴き比べたりすることのほうが有意義です。

 

 マニア的には興味深いこのアルバムも、ライブという観点から聴くと踊りにくそうですし、ノリも良いとは言いがたい曲が多い。実際、演奏されたのはアルバム『ラバー・ソウル』までで、『リヴォルヴァー』の先行シングルとして発売された『ペイパーバック・ライター』が最後のライブ披露曲になってしまいました。

 

 ライブを嫌ったメンバーがあえてライブに不向きな歌詞や難解な演奏が要求されるナンバーを増やすことでライブそのものにピリオドを打とうとしたのだろうか。武道館ライブを見れば、快活でチャーミングだった彼らの姿はすでになく、疲労しか見えてこない。

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 グループの力関係やマネージングの難しさはどの集団にもいずれ現れてくるものですが、お金が絡んでくる世界一のグループにとっては身動きの取れない袋小路に追い込まれて行ったのでしょうか。

 

 後期ビートルズの多くのナンバーは芸術的であり、革新的であり、最先端であり、大人の音楽を目指した素晴らしい成功例ではありますが、楽しいかと聞かれれば「いいえ。」と答えます。

 

 『抱きしめたい』『シー・ラヴズ・ユー』『ア・ハード・デイズ・ナイト』『プリーズ・プリーズ・ミー』でファンになった女の子たちは果たして後期ビートルズを本当に好きだったのだろうか。

 

 ライブで『ツイスト・アンド・シャウト』のジョンのシャウトに失神したビートルマニアやポールの『のっぽのサリー』での絶叫に惚れたファンの女の子たちは『ペイパーバック・ライター』『レヴォリューション9』『サージェント・ペパーズ・ロンリーハーツ・クラブ・バンド』『エリナー・リグビー』『ウィズイン・ユー・ウィズアウト・ユー』を受け入れることができたのだろうか。

 

 前から言ってきたことではありますが、もともと女の子たちの圧倒的な支持を背景に盛り上がったビートルズなのになぜファンだった女の子側の意見がまるで聞こえてこないのはなぜなのか。

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 小難しく、説教臭いところもある後期ナンバーやアルバムを支持するのはおそらく男性ファンで、デビューからライブを止めるまでの中期を支持するのが女の子ファンなのではないか。

 

 音楽的な完成度はライブ時代以後なのでしょうが、中年に差し掛かると1965年くらいまでの感情豊かな彼らの楽しそうな歌声のほうが再び心にしみてきます。出来ることなら、1963年か1964年の絶頂期にライブを見たかった。

 

 もしくはデビュー前の一番エネルギッシュでパンクバンドのような荒々しい高速演奏が凄まじかったキャバーンやハンブルグ時代の前がかりの躍動感を楽しみたかったなあ。ポールが歌う『ヒッピー・ヒッピー・シェイク』は絶品です。まあ、プロが録った訳ではないので、音質は最悪です。

 

 大成功した彼らのパッケージングされたライブの楽しい雰囲気を味わえるのはCDが出た『ビートルズ・ライブ・アット・ザ・ハリウッドボール』が一番でしょう。DVDならば、『エド・サリバン・ショー』『シェイ・スタジアム・ライブ』でしょうか。

 

 そもそもこの映画はツアー時代にスポットを当てたものなので、いつものように商売第一主義ではなく、本来の主役であるファンの目線に立つならば、『We love You Beatles 』にすべきでしょう。ライブのころを語るのならなおさらライブを盛り上げてくれたファンに敬意をささげるべく、このタイトルにすべきだろう。

 

 いずれにしろ、ファンを語るならば、観に行くべきマストアイテムの一つでしょう。誰に気兼ねすることなく大音量で流れるビートルズ、さらに動くビートルズを見られる機会を逃すべきではありません。

 

 近々DVDが出ますが、色々なヴァージョンがあるようです。個人的には劇場で流れた5曲の演奏シーンのフルヴァージョンを収録した二枚組DVDを購入する予定です。

 

総合評価 85点