良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『大群獣ネズラ』(1964)大映がお正月映画として公開しようとした狂気の特撮映画。

 幼稚園くらいの子供のころ、友達の家に怪獣大百科のような分厚い本がたくさんあり、彼の家に遊びに行くとそれらを見ることが出来るのでよく通っていました。  その中には恐そうな怪獣やカッコいい宇宙人のモノクロ写真がたくさん載っていて、いつか見たいなあと思いながら、日々を過ごしていました。  そのころ見たスチール写真の一枚がとても怖く今でも記憶に残っているモノがあります。それは一般家屋と思われる部屋の中央で女の人が絶叫しているような感じになっている周りを巨大なドブネズミが大量に取り囲み、彼女を襲おうとしている写真でした。
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 実際にこの映画を見たことは一度もなく、ビデオ時代になってから、大映東映、新東宝、松竹など特撮映画を作りそうな会社と作品に目星をつけてずっと探し続けていました。  この前、ふとした折にこの記憶を思い出したので、便利なネット社会に生きていることを利用しようとGoogleで探してみるとついにタイトルが『大群獣ネズラ』であることが分かりました。  そしてこれはついには完成することなく、途中まで製作された20分ほど残っていたフッテージから予告編だけが製作されていたことが分かりました。映画館では流されていたそうですが、結局は企画はお流れになり、残っていた予告編も会社が無くなる際に破棄されたそうです。  そのため、現在世に残されたのはスチール写真のみのようです。もっとも80年代に数カットほど映像が流れたことがあるそうなので、もしかすると何かの拍子に映像がアップされることもあるのかもしれない。
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 ストーリーが残っているようですので一応記載しておきます。 <あらすじ>  昭和39年、東京都の南端・笹島にある「三上宇宙食糧研究所」の三上博士と助手の大久保らが、超高単位カロリーを持った、画期的な宇宙食の培養に成功した。  ところがこの宇宙食「S602」を食べた島のネズミが突然変異し、巨大化。島の村落を襲って人間や牛馬を喰い尽して全滅させた。強大化したネズミたちは三上博士らの調査の先を越して海を渡って東京に上陸し、銀座裏の下水道に巣食って増殖し、東京を襲い始めた。
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 猛威をふるうネズラを前に、三上博士はネズラを共食いさせて「マンモス・ネズラ」としてさらに巨大化させ、その共倒れを図る。やがて巨大化したマンモス・ネズラは、ネズラと争い始めた。  ところが三上博士の協力者と思われたシュミット博士が国際諜報員の正体を現し、特殊宇宙食の発明の強奪を図る…  こういうあらすじのようです。
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 しかしまあ、大映は何を考えていたのだろうか。人が入れる着ぐるみの製作が上手く行かないからと言って、本物のねずみを一匹50円で買い取ると称して、系列館の周りをトラックで走り回り、大群獣ただいま護送中という横断幕を張って探し回っていたそうです。  そしていざ捕まえてきたは良いものの相手は大量のネズミですので、ダニは出るし、蚤も跳ぶし、ベンと違って達者な演技なんかするはずもありません。  そのうち、撮影所はダニ、蚤、ネズミの死骸や糞、殺虫剤まみれになり、撮影陣もガスマスクを着けての作業という異様な現場となり、共食いまで始まり、最終的には保健所から駆除命令が出たことで撮影できなくなり、企画はお蔵入りしたそうです。
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 当然ですが、大量に集められたねずみを処理するためにガソリンが撒かれ、一気に焼き殺したそうです。『猛獣大脱走』にもガソリンを浴びせられたネズミが駆け回る様が写っていますが、今ならばCGで制作されるのでしょう。  あまりにも非常識な大映は何を焦って、これほどまで滅茶苦茶な撮影に踏み切ったのだろうか。まさに「焦る大映、生けるどぶねずみを走らす。」という感じです。  まあ、完成品を見たかった気もするし、もしかしたら、あまりにも気持ち悪いので封印されていたかもしれない。扱い的には『獣人雪男』『ノストラダムスの大予言』『狂鬼人間』(これは製作者側)の系列のようになっていたのかもしれない。
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 しかしあらためて見ても、このスチール写真は気持ち悪いですね。2000年代に入り、ネズラの名前を冠した作品が製作されたようですが、話題にもなりませんでしたので、品質は察して知るべしなのだろうか。オリジナルのストーリーを読む限り、もし1964年に完成していたら、恐いもの見たさも手伝い、期待度は70点くらいでしょうか。  ただしおめでたいお正月映画としてこれを持ってくるのはあまりにも非常識ですし、間違いなく不入りで打ち切りを食らっていたでしょう。わざわざ映画館まで行かなくても不衛生な当時の環境ではどこに行ってもネズミはいたわけですから気持ち悪い姿を目撃できたでしょう。  特撮を用いるシーンは全体の20%程度だとすると、本編を70分程度にまとめ、特撮シーンをせめて10~15分間程度使えるところまで持ってきていれば、狂気の作品は完成に漕ぎつけたのかもしれない。そう思うと残念ではあるし、カルト作品の系譜で確実に語り草になっていたであろう。
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 『ベン』や『ウィラード』は今でも廃盤扱いですが、ネズミがらみの映画はミッキーマウス以外は当たらないのかなあ。個人的にはドラえもん並みにネズミが大嫌いなので、ミッキーを見ても気持ち悪い。だれでもミッキーを好きだと思うなとディズニーには言いたい。  最初に友達の家に遊びに行って、この映画のスチール写真が載っている怪獣大百科を見てから、すでに四十年以上が経ちました。それでもまだ記憶の底に眠っていた画像のインパクトはよほど強烈だったのでしょう。  僕にとってのトラウマ画像はこの映画で若い女に襲いかかる巨大ネズミだったのです。その後、小学生の頃に『SF巨大生物の島』を見ても特にショックは受けませんでしたが、幼稚園児にはネズラはかなり恐く思えました。
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 モノクロ映画の禍々しさも原因のひとつかもしれません。もしこの映画がまがりなりにも完成して、小学生の夏ごろに見ていたら、家の近所のドブには近づかないでしょうし、橋の下にも寄り付かないし、トラウマ映画の代表になっていたでしょう。  そう思うと『ウイラード』あたりが限界だったに違いない。ウイラードとベンとソクラテスは意思の疎通が出来ていたが、ネズラは大群で蠢き、ただただ不潔で気持ち悪いだけです。  ネズラ第二弾に『ネズラ対ニャンギラス』でも出ていれば、話は変わってくるし、第三弾に『ネズラ・ニャンギラス・ワンワンギドラ横丁あたりの決戦』とかまで悪ノリすれば笑いで済ませられたかもしれない。
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 いずれにしても悪趣味映画に違いないし、デート映画にもお正月映画にも向かない。やっぱり大映は焦っていたのでしょうね。  ちなみに近年まで予告編が保管されていたそうですが、破棄してしまったそうです。もったいないですね。大映作品のDVD特典にでも使えば、みんな競って購入したはずです。あいかわらず商売を分かっていないようです。