良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ホーリー・マウンテン』(1973)シュール?俗悪?評価が分かれるであろう問題作 ネタバレあり

 デビュー作『ファンドとリス』、その名を一躍有名にした『エル・トポ』に次ぐ第3作目となる1973年の作品で、アラン・クライン製作、アレハンドロ・ホドロフスキー監督という極悪コンビによる伝説のカルト・ムービーです。映像表現の限界まで突っ走ってしまったような作品であり、115分の上映時間を耐えられるかが、映画ファンとしての第一の分かれ目となります。ハリウッド製作の古典的なストーリー展開がはっきり分かる映画のみを見てきた人にはかなり辛い作品かもしれません。  この作品で展開される、ホドロフスキー監督独特の映像表現を楽しめるか、目を背けるか。悪趣味だといってDVDなり、ビデオなりをストップするのもその人次第。しかし、映画ファンならば、俗悪趣味の極致は知っておくべきでしょう。

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 製作に携わっているのがアラン・クラインだというだけで、ビートルズ・ファン、ローリング・ストーンズ・ファンならば怒りが込み上げてくる名前なのです。万事、自分が儲かれば、他人のことなどどうでも良い、ましてや倫理などクソ食らえ、という姿勢が常に見えます。  たまらなく嫌いな、悪辣な人間として有名なマネージャー、それがアラン・クラインです。そんな彼が映画をプロデュースする以上、最も必要なことは作品の質ではなく、金になるか、ならないか。それだけです。センセーショナルに宣伝して金が稼げれば、それで良いのがこの男、クライン。

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 まさか悪名高い1932年の『フリークス』のような悪夢が、「ラブ&ピース」の60年代が終わったすぐの、1973年に再現されるとは誰もが思っても見なかったことでしょう。「奇形」としてのインパクトは『フリークス』には及びもしませんし、内容にしても『フリークス』は真面目に作られています。  しかし、この作品は修行と解脱の思想がテーマとして、あるにはあるのですが、その表現がグロテスクすぎて一般受けするとはとても思えません。酒やドラッグでへべれけになった人のみが深夜、場末の映画館で楽しむ映画、それがこの作品です。家族やカップルで見るものではない。誰も居ない時に深夜こっそり覗き込むように見るべきです。結構のめりこみます。

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 この作品で凄まじいのは動物への虐待、現地人(メキシコ)及びペルー人への差別の助長と人格否定、サイケデリックの安易なイメージの使用、そしてエロ・グロ・ナンセンスのデカダンの復活です。有名なところでは「皮を剥いだ犬を十字架に見立てての行軍」、「睾丸摘出」、「カエルに鎧を着せたメキシコ征伐寸劇」などだけでも吐きそうです。  さらに「等身大のキリストのマネキンを100体以上作って、すぐに破壊して残った一体を風船で飛ばすシーン」、「何故かすぐに裸になるメイン・キャストたち」、「意味無く多い現地人エキストラ」、「障害者への虐待」、「優しく愛撫するとクライマックスを迎え、子供まで作ってしまうラブ・マシーン」、「人体へのボディー・ペインティングとそのモデルの性器への愛撫」、「錬金術で人糞を黄金に変えるシーン」などなどおぞましい映像がひたすら2時間弱の間、続いていきます。

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 キャストとして興味深いのはホドロフスキー監督自らが錬金術師の役で重要な役を演じていることが上げられます。この狂気と悪趣味に満ちた作品は、まさに彼の精神世界だったのでしょう。破壊願望と旺盛な性欲に対峙する、精神の向上と悟りへの願望の軋みが創りだした映像世界。見る者はその軋みを受け入れるだけの柔軟な感性を持っているのか。  対応は人それぞれ。不思議な映像世界に浸るも良し、最初の5分で自分には必要ないものとして拒絶するも良し。興味深いのは、特に前半の1時間が極端に台詞が少なく、ほとんどを映像で語りつくしていることで、それはとても印象的でした。ホドロフスキーという、この監督は大変非凡な映像感覚の持ち主です。奇才です。

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 気になるのは前半で飛ばし過ぎたためか、後半がだんだん迫力が無くなってくるように感じることです。ショット、シークエンスともに普通のB級作品に徐々になってしまいます。挙句の果てに、ホドロフスキー監督が、観客の目をさんざん幻惑させておきながら、自分だけ「錬金術師」という作品中の重要な演技者から、「ズーム・バック」の掛け声とともに監督をしている現実世界に戻ってきて、観客全てを煙にまき、置き去りにして唐突に、この作品は閉じられます。  いったい聖なる山には何があるのか。不死とは何か。散々引っ張るだけ引っ張って、エンドマークが出てきます。本当に後味悪いのですが、何か魅力のある作品でもあります。予期せずに監督の術中に嵌まり、結果としての虚しい笑いが出てきます。  カルト・ムービーというよりも、「カルト」集団の映画、デカダンな宗教団体の御伽噺か神話かな、という印象です。また十年くらい経ったら見たくなるのかなあ。 総合評価 71点 ホーリー・マウンテン

 

 

 

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