良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『キル・ビル vol.1』(2003) ファンだからあえて言う。血はいらない。もうやめてくれ!

 クエンティン・タランティーノ監督、2003年の作品。いまさら書くのもなんなのですが、この作品はタランティーノのものとしては、かなり質の下がってしまっているものです。彼くらいのフィルムメーカーとなると、ファースト・カットはもちろんのこと、おそらくファイナル・カットも自分自身で決めることが出来る立場にあると思われす。

 

 せっかく自分自身でなんでも決定できる立場まで上り詰め、絶頂にあると思われる彼が作った作品が、この程度のものでしかないのは残念でなりません。素晴らしい作品を切り刻まれたオーソン・ウェルズ監督、シュトロハイム監督、そしてグリフィス監督に比べ、最良ともいえる制作環境にいる彼が、まさかこのような無意味なものを作り出したのは理解を超えています。今こそ作って欲しかったのはリンチ監督の『ストレイト・ストーリー』のような変化球的作品でした。

 

 作品自体に戻ると、モトネタの多くが判っている僕は、残虐シーンでもニヤニヤ笑えてしまうために、周りの方から見ると映画オタクか変人にしかみえなかったのではないでしょうか。自分が好きなように編集するのは、ほとんどの監督の夢であることは明らかでしょうが、今回に限っては会社がやらせていいこととだめなことの判断を下すべきであったと思います。

 

 確かに香港映画や深作モノをたくさん見てきた僕らの世代からすると楽しめる作品であり、これを観ることで、モトネタとなった『死亡遊戯』、『修羅雪姫』、『片腕カンフーvs空飛ぶギロチン』、また直接には引用されませんが『座頭市』、『仁義なき戦い』などに見られる立ち回りを髣髴とさせる映像が多く、それら昔の映画が再評価されていることはうれしいことですが、タランティーノの作品としてはあまり面白みの無いものと思われます。

 

 いつもどおりの時間配置をずらしていくシーン構成も、正直言うとワンパターン化してきています。『パルプフィクション』の時のような驚きはもう全くなくなってしまい、ルーシーとの決闘シーンでかかるマーチのような音楽も(おそらく対位法を狙ったのだと思いますが)あまり効果的とは思えません。

 

 せっかく『ジャッキー・ブラウン』で優れた映画作家の仲間入りをしたかと思いましたが、後戻りしてしまったのは返す返すも残念です。

 

 スプラッターのような血の飛び散り方もむしろB級と言うよりは、c級とでも言わなければならないもので、あそこまで下世話にやるべきものではなく、スクリーンで見せる必要の無い、とても汚らしい映像です。深作監督は『BR』で残酷描写が大問題になりましたが、あの作品では、サブテキストとして極限下での信頼と恋愛を扱っていた作品ですので、特に言われているほど問題とは思いませんでした。

 

 厳しいことばかり言っていますが、僕は彼のフィルムにとてもほれ込んでいたので、余計に彼がなんでもできるからといって、ゴミのような作品を残してほしくないのです。点数としては70点くらいの出来のものです。この点が高いか低いかは意見が分かれるとは思います。なぜなら世の中には60点もいかない作品が大半を占めているからです。

 

 ただ彼はタランティーノなのです。堕落させてはならないので、面白いとかつまんないで判断しないで欲しい。先日、知り合いの女の子と話していて、(10代です)タランティーノ監督の話が出てきました。彼女が観たのがこの作品だけであり、印象を聞くと「血がバンバン出るので気持ち悪く、こんな変な監督と思わなかったのでがっかりした」とのことで、僕自身もかなりがっかりしてしまいました。

 

 もう血はいらない。

総合評価 72点  

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