良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ロゴパグ』(1963)ロッセリーニ、ゴダール、パゾリーニ、グレゴレッティ。4人の頭文字が題名。

 1963年度に製作されたもので、監督に、 ロベルト・ロッセリーニジャン=リュック・ゴダールピエル・パオロ・パゾリーニ、ウーゴ・グレゴレッティという4人の個性豊かな映像作家を迎えて、製作されたオムニバス作品である『ロゴパグ』は今から考えると、とても贅沢なメンツで作られた事に驚かされます。

 

 短編集というのは昔からあったようで、『ボッカチオ70』、『世にも怪奇な物語』、『街の恋』、そして最近WOWOWでも『10ミニッツ・オールダー』などが放映されていました。短い時間に己の個性を出し切らねばならない短編というものは、起承転結を簡潔に展開させて、贅肉を極限までそぎ落としてしまわないと、観客に伝わりにくく、かえって見づらくなってしまう危険もあります。

 当然、作品の出来栄えも、各々の監督のスタイルが顔を出してくるために、結構、個性の違いを感じやすいのではないでしょうか?作家のエッセンスを感じ取るには都合の良いジャンルではないかと思います。あくまでもエッセンスだけなので、どっぷりと監督の個性に浸るには、長編を見なければならないのは勿論ですが、遊びとしては興味深い。

 もともとすべての監督だって、たとえ今は巨匠と呼ばれ、価値を確立している人であっても、最初は必ず短編から製作を始めたはずなので、自分達の過去を遡って、楽しく作ったか、もしくは企画倒れになってしまった作品を、会社への面当てに作ったか、アイデアは出たが、長編にするほどの価値は無いものを製作したかのいずれかに当てはまるのではないでしょうか。

 ロッセリーニ監督の撮り方とテーマは、今でも使えるものだと思いますし、むしろ今の方が、屈折した変態的な人物は多いわけですから、フェチシズムとストーカー予備軍を扱ったこの短編の価値は大きい。いかにもいそうなリアリティを醸し出す、ロッセリーニ監督の撮り方はこの時期でも失われてはいません。

 パゾリーニ監督の作品を見たときは、フェリーニ監督の『甘い生活』(1959)、『8 1/2』(1962)が、もしこっちのパゾリーニ監督作品のほうが先だったのならば、とフェリーニファンとしては複雑な思いを持ちながら見ていました。残酷な風刺の効いた作風は、幾分和らげられてはいますが、ここでも見事なまでに健在です。

 ゴダール監督は淡々と仕事に取り掛かったようで、ここでの彼の作品はあまり印象に残っていません。サラサラしすぎていて、『アルファビル』と『カラビニエ』から毒が抜けたような仕上がりに思えました。

 そして今まで、まったく知らなかったグレゴレッティ監督...。なんだか『トワイライトゾーン』の中で、出てきそうな話だなあと思いながら見ていると、『ウィリアム・テル』が作中でかかってきてしまったため、まるで最後は『オレたち ひょうきん族』を見ているような、わけの解らない気持ちになってしまいました。作品自体は、人間が鶏と同じに見えてしまう、という隠喩が刺激的であり、皮肉っぽく、会話というコミュニケーションの意味を疑問視するような作り方が興味深かったのを覚えています。

 巨匠同士のコラボという以外には、特に意味を見出すことは出来ませんが、極東のこの国で、遥か遠い欧州の、四十年も前の、しかもマイナーすぎるほどマイナーな作品集を、自宅でお茶を飲みながら見る事ができるという、夢のような幸せを感じています。

 「スカパー」も「WOWOW」も無かった20年前には、そんな作品があることさえ知らなかった、または監督の年表中に小さな文字で記述だけされていて誰も見た事がない、もしくは上映されても特定の場所と期間だけというような不便な時代を知る者からすると、まさに今のTV環境(ネットも含めて)は間違いなく天国なのです。若い人は映画の神様にもっと感謝すべきでしょう。シネフィル・イマジカには感謝しても、しすぎる事はないのです。

総合評価 62点