良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『アンブリン』(1968)学生時代、野望に燃えるスピルバーグが監督した短編。

 全世界的に大成功を収めたスティーヴン・スピルバーグ監督のデビュー作品として有名なのは『激突!』です。もともとテレビ映画として製作されたこの作品は映画としての出来上がりが素晴らしかったこともあり、劇場公開された国もありました。  しかしながら、冴えない映画青年だったスティーヴン・スピルバーグはいきなり大成功したわけではありません。ユダヤ人であることが原因だったのかは分かりませんが、身体が弱く、眼鏡をかけていて、運動音痴で発達障害がありました。
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 いじめられっ子の過去を持つ青年はディズニーの『ダンボ』をこよなく愛し、ダンボと自身を重ね合わせていた少年期を経た後に、ブライアン・デ=パルマの部屋に入り浸る気持ち悪い若造のひとりになっていきます。  そんな冴えない彼は学生時代に自主制作映画を撮っています。タイトルは『アンブリン』、つまり、ぶらぶらするという意味でしょうか。
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 実験的な変わった作風で、上映時間はたったの26分間しかない。また台詞が一切なく、音楽が常に映像に寄り添っている。影絵のようなトンネルでのラブ・シーンはとても綺麗に仕上げられています。  登場人物の表情や二人の距離感を映像で表すさまは効果的で、サイレント映画的な楽しみを味わえます。こういった台詞に頼らないで登場人物の感情や人情の機微を表現できているのはさすがのスピルバーグです。すでに才能の片鱗は微かに見いだせます。
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〈あらすじ〉  女は旅の途中で拾った若い男とつるんで、ヒッピー・ライフを楽しんでいる。男はギター・ケースを抱え、女と旅を続けるが、けっしてギター・ケースを開かない。  二人は勝手気ままなフーテン生活に明け暮れ、タバコ(ドラッグの比喩でしょうね。)も試してみる。ここらへんはスピルバーグが憧れていた自由気ままなヒッピー的な生活への願望をフィルムに具現化したのだろうか。  二人は行動を共にするようになります。女も一人で動くことへの寂しさもあったのでしょう。キスをして抱きしめ合ってから、男は天にも昇るような気持ちになり、大はしゃぎでグイグイ前へ進んでいくが、彼が浮かれれば浮かれるほど、女は冷静に彼を観察するようになる。
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 女は彼と行動を共にすることへのメリットとデメリットを天秤にかけているが、彼は全く気が付いていない。デメリットとして強調されるのはヒッチハイクの失敗の連続です。  彼女だけならばすぐに自動車に乗せてもらえそうになるのに、男がのろまだったり、押しに欠けるためにことごとく逃げられてしまう。倒れたふりをしたり、行き先を示したりするが、これらもすべて彼女のアイデアだったのではないだろうか。結果、彼女は徐々に男の必要性を疑い始める。一緒にいると寂しくはないが、チャンスを逃がすのは納得できない。  ある晴れた日に標識を見て、町に向かうか、それとも海に向かうかの岐路に立たされるが、男は海に行くとはしゃぎ出し、女は仕方なく、不満ながらも海に出かけていく。  女は泳ぐこともなく、ブランコに乗ったりして砂浜で暇をつぶすが、男ははしゃいで海ではしゃぎ続けて、彼女の気持ちなど全く考えてもいない。
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 暇を持て余した彼女はついにギター・ケースへの興味を隠せなくなり、とうとう男が遊んでいる隙にケースを開いてしまう。  するとそこに入っていたのはスーツやネクタイなどのリクルート用の衣装道具一式でした。男はいずれ働かなければならないことを自覚しつつ、成長しきれずに現実から逃げているだけだった。  一緒にいたのは男ではなく、子供だったことに幻滅した女は精神的に幼い男を放置して、また独りで旅を始める。遠くで男はまだ楽しそうに泳いでいる。  まあ、こんな感じです。ギター・ケースを開いたら、後戻りできなくなって、社会人として社会の歯車となる日々が始まります。
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 いわば浦島太郎の玉手箱がギター・ケースなのかもしれない。また彼の外見と中身の違いとも思える。外見上はカッコいいギター・ケースではあるが、中に入っているのは就職グッズというのは内心、つまり彼は成長しきれていない自身を表現したとも取れる。  セリフがないので、見る人が各々感じたままに受け取れる。スピルバーグの意図は何だったのか。MTV風の作品でもあるが、60年代後半の夢破れる寸前の明るさがどこか切ない。
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 ただひとつ言えることはこの短編がユニバーサル映画の偉いさんの目に留まり、ユニバーサルに潜り込むきっかけになったのは間違いないですし、のちに大立者となるスピルバーグ青年の歴史的な第一歩となったのが『アンブリン』です。  彼がのちに自身の会社に“アンブリン”という名前を付けていることからも、彼にとってはとても重要な意味を持つ作品だったのは明らかです。
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 何年か前に突然、動画サイトにこの全編動画がアップされた時、すぐに消されると思っていましたが、一度ネットに拡散したものは誰かが必ずアップするという見本のような状態になっています。  巨匠の幻の作品という意味ではスタンリー・キューブリック監督のデビュー作品『恐怖と欲望』が昨年来、TSUTAYAさんに並んでいましたが、この『アンブリン』もいずれ店頭に並ぶのでしょうか。
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 レンタル屋さんに並んでいるDVDの名作で一番短いのは記憶する限りではルイス・ブニュエル『アンダルシアの犬』ですが、あれよりもちょっと長い程度の作品に借り手は付くだろうか。まあ、すぐに終わってしまいますのでストレスは感じないでしょう。  ただし26分間という上映時間は製品化するには短すぎますので、何か新作がDVD化されるときか、スピルバーグ監督のボックス・セットの特典映像として収録されるのでしょう。まあ、普通に動画サイトで全世界に全編映像がアップされて拡散している現状、わざわざこれ目当てに高価なボックスを購入するとは思えませんのでどうするのでしょうかね。 総合評価 70点
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