良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『勝利への脱出』(1980)サッカー映画と言えばこれでしょう!ペレ、ムーア、アルディレス!

 先週はワールドカップアジア二次予選、ホームでの試合が行われていました。前半終了時で1対0で日本リードとなっていました。1対0?ホームで対カンボジアで?相手はオリンピック世代なのに?こんなんで最終予選で勝てるの?なんでいつまでも代表選でまったく活躍できない香川を使うの(たまたま今日は1点決めたが、取った後は消えていました。)?  今までで最悪の代表はジーコが監督をやっていた2006年ドイツ大会時のチームだと思っていましたが、記憶に残る糞ゲームを連発で見せられて、最悪代表が更新されました。監督の名前はややこしく、覚えようとも思いませんが、最後まで見続けるしかない。  この映画をはじめて見たのはたぶん土曜日に移行してからのゴールデン洋画劇場でした。その後、大学生になってからレンタルやWOWOWで見ました。  サッカーファンでもあるので出てくる選手たちにはため息が出ました。神様ペレ、イングランド代表の中心選手ボビー・ムーア、1978年のアルゼンチン代表でワールドカップをはじめて母国にもたらした英雄オズワルド・アルディレスポーランド代表で1974年大会で大活躍したデイナ(41歳で事故死!)などが出演しています。
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 1980年公開作品なので、当時の有名選手をそろえています。フランツ・ベッケンバウアーゲルト・ミュラー、ミスター・ヨーロッパとして尊敬されていたカール・ハインツ・ルムメニゲらの西ドイツ選手が出ていないのは悪役になるからだろうか(笑)。  あと出て欲しかった当時の名選手としては神様ジーコ、フランスの英雄ミシェル・プラティニ、空飛ぶオランダ人の異名を取ったヨハン・クライフや同じくオランダ代表のニースケンスらがいます。今ならメッシ、クリスチアーノ・ロナウドらが入ってくるのでしょうね。  一番盛り上がるのはなんといっても、マイケル・ケインが率いて、スタローンが邪魔する連合国軍捕虜チーム対マックス・フォン・シドー率いるドイツ代表のプロパガンダ試合です。ここへ来るまでに映画は80分近くを費やします。  これを捕らえて、クライマックスのパリ・コロンブ・スタジアム(実際はハンガリーのスタジアムだそうです。)までの捕虜脱走計画などのレジスタンスの流れや捕虜チームのトレーニングを長すぎると考える人がいるかもしれません。ただジョン・ヒューストン監督をはじめ、製作サイドが見せたかったハイライトがこのゲームだとすれば、ギリギリまで引っ張っていくことが重要になるので長いとは思わない。
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 戦時下、それも占領されている状態で大っぴらに愛国心を高められる機会がサッカーしかなかった訳ですし、台詞にもあるように戦争などせずに国際紛争はサッカーで解決すべきだという主張は興味深い。  試合の監修はペレが行っています。おそらくモデルにしたのは1970年大会準決勝のイタリア対西ドイツでしょうか。凄絶な打ち合いで延長戦までもつれ込むワールドカップ市場に残る試合の展開によく似ている。ぼくもビデオでフルゲームを見ただけなのですが、今の目で見ても、緊張感が張りつめる名試合だと断言できる。試合中の激しい肉弾戦で傷ついたフランツ・ベッケンバウアーは鎖骨を骨折するものの、テーピングで腕を固定したまま試合に出続ける。まさに闘志。まさにゲルマン魂。  劇中、傷ついたペレが怪我を押して再びピッチに入るのはこのベッケンバウアーを意識したのか。それとも1966年の悪夢のポルトガル大会で執拗に足を蹴られ続けたために大会からも蹴り出された苦い過去を意識したのかはわかりません。  ただ走り回るのが普通になってしまった近代サッカーの感覚でこのゲーム場面を見るとかなりゆっくりしたものなので、しょせん映画にすぎないとか、リアリティがないと勘違いする人もいるかもしれない。
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 しかし1970年のメキシコ大会くらいまではこれくらいのペースの試合が主流であり、全力で走るのはここぞというときのみなのです。ただただ走力や戦術などが重要視される現在とは違い、テクニックが主体なのが当時のサッカーです。  ガンガン息を切らして走り出すのは1974年のドイツ大会以降であり、具体的には空飛ぶオランダ人と呼ばれたヨハン・クライフ率いるオランダ代表が現代サッカーの起源です。クライフは現役時代はカタルーニャFCバルセロナに移籍して、引退後にはバルサの監督に就任し、欧州チャンピオンズ・カップで優勝1回(対サンプドリア戦)、準優勝1回(対ACミラン戦)、リーグ優勝と輝かしい戦績を残しています。  試合に戻ります。見所はロスタイムでのドイツ贔屓のナチに媚びへつらうスイス人審判団が吹き鳴らすペナルティ・キックの場面でしょう。我らがスタローンは今回もドタバタしながら憎めないアメリカ人捕虜を演じていて、劇中の彼はツイてないか、ドジを踏むかの狂言回しとして活躍します。  試合はドイツ軍に抑圧されたパリの大観衆が地鳴りのようなフランス国歌『ラ・マルセイユ』で興奮が最高潮に近づく。卑怯な審判にPKの笛を吹かれてから、キッカーと対峙するまでの音の使い方が素晴らしい。ビル・コンティの音楽も素晴らしいですが、ここでの無音こそ最高の音楽だといえます。
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 スタローンが集中を高めていく過程で周りの地鳴りのような歓声が全く聞こえなくなり、彼はアポロ・クリードとの再戦のようにゾーンに入っていく。そしてドイツ人キッカーの強烈なキックを止めた瞬間、スタジアムの絶叫は再び彼を包み込む。  ドイツ人PKキッカーでシュートを外したのは彼と1982年スペイン大会のシュティーリケくらいしか記憶がない。観客はスタジアムに雪崩れ込み、選手たちを逃がしていく。なんと映画的に素晴らしい結末の作り方だろうか。
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 モデルになったディナモ・キエフの選手たちは銃殺されたが彼らは生き延びたのだろうか。その他、印象に残るのは神様ペレがごり押ししたに違いないオーバー・ヘッドでのゴールとオズワルド・アルディレスが見せる軸足と蹴り足のかかとでボールを跳ね上げてから敵を抜き去るフェイントでしょう。  前述したように、この映画のプロットにはモデルがあり、1942年に行われたドイツ選抜チーム対ウクライナディナモ・キエフシェフチェンコが所属したクラブで、個人的にはベンチでまったく動かない石像のようなヴァレリー・ロバノフスキー監督が大好きでした。)の試合がそれです。  もし勝ったら殺すぞと脅迫された中での試合で彼らは何と勝ってしまう。映画では連合国軍チームは脱出に成功しますが、実際のディナモ・キエフの面々は銃殺されてしまいます。
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 ハリウッド映画なので、こういう悲劇的な部分には触れませんでしたが、もししっかりと銃殺シーンまで描いていれば、歴史に残る名作として語り継がれていたかもしれません。  ただこの映画はこれで良い。だって、お正月映画だったこの映画の結末が冷酷なナチによる銃殺で終わっていたならば、『動乱』での健さんの銃殺シーン並みのトラウマ場面になっていたかもしれない。  音楽をビル・コンティが担当していますが、この人はショスタコービチの交響曲を明らかにサクッと使っています。そういえば『ライト・スタッフ』のなかでもチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を使っています。もう権利が公のモノになっているから、パクってもオッケーという姿勢の方だったのでしょうか。  我らがスタローンは今回もドタバタしながら憎めないアメリカ人捕虜を演じていて、劇中の彼はツイてないか、ドジを踏むかの狂言回しとして活躍します。試合はドイツ軍に抑圧されたパリの大観衆が地鳴りのようなフランス国歌『ラ・マルセイエーズ』で興奮が最高潮に近づく。
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 卑怯な審判にPKの笛を吹かれてから、キッカーと対峙するまでの音の使い方が素晴らしい。スタローンが集中を高めていく過程で周りの地鳴りのような歓声が全く聞こえなくなり、彼はアポロ・クリードとの再戦のようにゾーンに入っていく。  そしてドイツ人キッカーの強烈なキックを止めた瞬間、スタジアムの絶叫は再び彼を包み込む。ドイツ人PKキッカーでシュートを外したのは彼と1982年スペイン大会のシュティーリケくらいしか記憶がない。  観客はスタジアムに雪崩れ込み、選手たちを逃がしていく。なんと映画的に素晴らしい結末の作り方だろうか。モデルになったディナモ・キエフの選手たちは銃殺されたが彼らは生き延びたのだろうか。  その他、印象に残るサッカー・テクニックは神様ペレがごり押ししたに違いないオーバー・ヘッドでのゴールとオズワルド・アルディレスが見せる軸足と蹴り足の間にボールを置き、後ろ足のかかとでボールを跳ね上げてから敵を抜き去るフェイントでしょう。次の日はみんな真似していました。
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 フランス語で勝利を叫び続ける観客の様子はまるでミラノ・ダービー(インテルACミラン)やスペインのレアル・マドリッド(カスティージャ)対FCバルセロナカタルーニャ)での熱狂的なサポーターの応援風景のようです。  厳密にはダービーではありませんが、1990年のイタリア大会の一回戦でぶつかった西ドイツ対オランダの試合は事実上の決勝戦と呼ばれ、フランク・ライカールトルディ・フェラーが退場する遺恨試合と化しました。
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 この騒動の遠因となったのは会場がミラノのサン・シーロだったこと、オランダ代表の中心メンバーであるマルコ・ファン・バステン、ルード・グーリットフランク・ライカールトACミランに所属していて、対する西ドイツ代表にはインテルの中心メンバーだったユルゲン・クリンスマンローター・マテウスアンドレアス・ブレーメが顔を揃える状態だったことを挙げでも良いでしょう。  お互いのホームグラウンドであるミラノでの激闘は衛星放送で生中継されていました。アルゼンチン対ブラジルの試合後の眠い目をこすりながらの深夜3時か4時くらいの視聴でしたが、すぐにただごとではない異様な殺気と雰囲気に圧倒されたのを覚えています。
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 フィクションではありますが、マイケル・ケイン率いる連合国軍チームは第三帝国の捕虜であり、パリはまだ燃えていない状態でした。が、コロンブ・スタジアムはラ・マルセイユとともに沸騰していました。  ジョン・ヒューストンの演出が甘いと指摘する声もあるでしょうが、この映画はこれで十分楽しめるので良しとしたい。動いているペレやアルディレスが見られるだけでもサッカーファンとしてはただただ嬉しい。
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 ペレの真剣勝負での神業はビデオで確認するしかないのは残念ではありますが、彼の現役時代の晩年のプレーはニューヨーク・コスモス時代のテレビ中継を見ていたので覚えています。フランツ・ベッケンバウアーやオランダのヨハン・ニースケンスは当時はペレのチームメイトだったのも今考えると凄い。  引退するときのペレは観客に向かって、もっとも大切なのは愛だと連呼しながら、フィールドを後にしました。とりあえずペレを見ましょう。 総合評価 82点
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