良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ザ・コンサルタント』(2017)地味で宣伝も少ないが、高レベル!

 先週から公開が始まった『ザ・コンサルタント』はそれほど大ヒットしているわけでもなく、話題の『沈黙-サイレンス-』(もう観に行きました)、大量宣伝の『ドクター・ストレンジ』、来月から始まるブラピの『マリアンヌ』(予告編を見ていると『イングロリアス・バスターズ』の続編かと見間違いました)『相棒-劇場版IV- 首都クライシス 人質は50万人!特命係 最後の決断』(タイトル長いなあ…)『サバイバル・ファミリー』などの話題作に囲まれているためにひっそりと上映されています。  年度末までの有給休暇消化のため、本日は午後三時からの鑑賞となりました。二時間とか三時間とかの空き時間が出来たら、映画ファンとしては劇場で観るべしとなります。  ただ先程も書きましたように、すでに『沈黙-サイレンス-』を観に行きましたので、観たいなあと思える作品でちょうど今掛かっているのは『ザ・コンサルタント』くらいなのです。なんだかジェイソン・ボーンのシリーズみたいではありますが、なかなかの高レベル作品です。  しかし、上映開始になってもスクリーンはずっとぼく一人で、結局まさかの一人鑑賞になりました。200人程度の収容キャパがあるのにさすがに平日の昼下がりでは客は集まらないようです。こんなのだったら、平日は全部お昼の上映回までは1000円以下で固定化して、集客したほうが良いのではないか。
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 まあ、それはともかく一番後ろのど真ん中に移動して、映画はスタートしました。主人公(ベン・アフレック)は天才的数学センスを持つ会計士(地味!)であり、もう一つの顔は凄腕のスナイパーという必殺仕事人の天才版という感じです。  タイトルはコンサルタントにしていますが、実際の英語題はアカウンタントになっているので“会計士”が正しいのでしょうが、あまりにも地味すぎるためか、コンサルタントにしてるのでしょう。  劇中、多くの場面で彼の過去をフラッシュバックで振り返り、その後も過去と現在を行ったり来たりを繰り返します。そんなに違和感はないが、上映時間130分ほどの中、中盤までの人物の掘り下げ方がよく言えば丁寧、悪く言うと冗長に感じます。  その分、中盤から後半にかけての伏線の回収が異常にスピーディで、「はい!はい!はい!」という感じで、家族のつながりとか、そこでそうなるのかというのがあまりにも力技で調子がいい時のジェロム・レ=バンナのように押し切ってきます。
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 今回、ヒロイン役となったのはアナ・ケンドリックでしたが、ガリガリでセクシーとは程遠い。また、冷徹な主人公のベンがなぜ、たった数日の付き合いしかなかった彼女を命がけで助け出し、後の面倒も見続けるのかの理由も鮮明ではない。  過去に命を助けてもらっり、手柄をもらったはずのJ・K・シモンズがなぜかベンの犯罪を執拗に探ろうとシンシア・アダイ=ロビンソンを秘密捜査に使ったりするのも理解不明です。また敵方の用心棒の親玉と思われていたジョン・バーンサルが実はベンの弟だったとなるに至っては「????」となんだこりゃの嵐になります。  なんというご都合主義だろう。映像的には見やすく、アクションとサスペンスの良いところ取りに徹しているが、ドアの描写に意味を持たせようというサスペンス的展開を出してきますが、意図はなかなか見えてこない。  自宅にいるにもかかわらず、狭い窓越しに仕切られる四角の中で潜んでいるようなカットは居住スタイルが彼の世界の狭さと孤独感を表しているようでしたし、ちょこちょこ入れてくる意味ありげなカットが微妙な空気感を生んでいる。
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 印象的なカットは刑務所内の消灯時間後のもので主人公と彼の師匠となる知的犯罪者ジェフリー・タンバーとの触れ合いとお互い、まっさらな人間にはなれない闇の深さを影を用いて印象つけています。  その他、ルイス・キャロルモハメド・アリなどのエピソードも登場するが、彼らは障害を抱えながら生きてきた人物なので、自閉症である主人公にとっては憧れの存在だったのがそっと語られているようにも見える。  アクションシーンの出来は良いので、もっと会計士の凄腕ぶりをたくさん描いてくれたほうが、過去を振り返るよりもスリリングに見ることが見られたかもしれない。経済映画としてもアクション映画としても上出来というレベルを目指してほしかった。  お話に戻ると悪の組織から助け出したアナにアクション・ペインティングの画家、ジャクソン・ポロックの絵画を送ったりするのも奇妙で、『ポーカーをする犬』のレプリカで誤魔化しているものの、芸術作品のような“足”が付きやすいブツ(本物のポロック作品)を渡すのもなんか納得がいかない。
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 ただあちこちに奇妙な欠点はあるもののお話の回収の仕方はスピーディですし、中盤までのモタモタを過ぎれば、あとはジェット・コースター的展開で一気に見せてくれます。社長の邸宅を要塞化したラストの銃撃戦や主人公ベンの本拠地である移動式トレーラーハウスの装備や準備が楽しく、アメリカ人のおじさんならば、秘密基地を見るような楽しさと憧れを感じながら見られるかもしれない。  この感じだと、今回の作品がある程度の興行収入を稼いだならば、上手く行くと続編製作も決定するかもしれない。そんなに有名俳優を使っていませんのでコスパも良さそうですし、オーソドックスな見せ場作りは若い層には向かないでしょうが、40代以降であればゆったり見られるので高評価を受けるかもしれない。  ちなみに主人公が凄腕の殺し屋能力を身につけるきっかけになったのは元軍人の父親が自閉症の主人公が社会に出ても一人で生きていけるようにするためになんとか苦しみに耐えられる体を作ろうとしたためであり、少年時代の修行シーンは『ベストキッド』みたいでした。
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総合評価 67点