良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『上田慎一郎ショートムービーコレクション』(2018)カメ止め監督の過去のお仕事!

 年末はなんだかんだと雑事も多く、映画館通いだけではなく、自宅でのDVD鑑賞もままならない状況です。ようやく久しぶりに映画館まで来れましたが、まだ何を見るか決めていませんでした。  どれにしようかと掲示板のスケジュールを眺めていたら、目に飛び込んできたのが上田慎一郎監督、つまり大ヒットした『カメラを止めるな!』の監督が過去に発表してきた短編映画をまとめて上映する『上田慎一郎ショートムービーコレクション』でした。  いかにもな便乗商法ではありますが、これまで報われなかったクリエイターに光が当たるのは素晴らしいことですので、少しでも彼らにお金が入るのであれば、観客として応援する意味もあります。  『この世界の片隅に』で一躍注目を浴びたクラウドファンディングなど、最近では賛同できるプロジェクトに対して、素人でも資本参加出来るというこれまでは考えもつかなかったツールが身近になっています。
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 それ以外にも賛否はあるにせよ、ふるさと納税など日本人には無縁だった寄付(実際には納税自治体を選んでいるだけ)の裾野も広がってきています。  プロジェクトや投資が失敗したときの損失リスクを理解していない人が自己責任を棚に上げてギャーギャー騒いでいる様子が見苦しかったりしますが徐々に甘えた主張も無視されるようになっていくでしょう。リスクフリーの投資対象である債券(国債)よりもリターンを求めるのであれば、超過のリスクを受け入れるほかはありません。  返礼品がなくなってからでも自治体を選んで納税するという行為を続けられれば、自分のことしか考えられないガリガリ亡者ばかりの日本人の意識改革が進むきっかけになるかもしれない。  クラウドファンディングにしても、怪しげな案件もありますし、騙されることも増えるでしょう。資金をすでに融資した上で追加支援を募るというサンクコストの概念に欠けた利用者からさらに資金を毟り取る者も出てくるでしょう。元本を取り戻そうとするあまりにさらに泥棒に追い銭を払う者が後を絶たない。
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 ネズミ講クラウド版も出てくるでしょう。ただ悪いものばかりでもないことを理解すべきなのですが、マスコミや野党の経済概念が乏しく、高給で安全地帯から綺麗事を垂れ流す輩には投資の意味と意義は理解出来ない。  僕らの周りはすべて投資で出来ています。家から外に出て、道に出ますが、それは国や自治体が公共投資したからでしょうし、電気やガスのインフラも同様です。  身の回りはすべて投資の産物です。僕らはみな働いていますが、意識するしないにかかわらず、経済の構成要素であり、誰かの役に立っています。なろうと思えば、株主にもなれるし、小口であっても出資者になれる世界は開かれた良い世の中ではないか。身分にかかわらず、債権者にも株主にもなれます。  作品はショートムービーコレクションと銘打っているように『彼女の告白ランキング』『ナポリタン』『テイク8』『Last Wedding Dress』の四本の短編映画から成っています。どの作品もなかなかの曲者揃いで、見飽きることはありませんでした。
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 はじめの二篇『彼女の告白ランキング』『ナポリタン』はお金が掛からない観念SFであり、かつコメディ要素が強い。テレビのドッキリショー形式の『彼女の告白ランキング』はまさかの展開になりますし、『ナポリタン』には上田監督作品のミューズである秋山ゆずきが出演しています。予算が潤沢にあるわけではないので、かなりメカや舞台設定などは安っぽいが、良い物を作りたいという意志が伝わってきます。  後半の『テイク8』と『Last Wedding Dress』の出来が秀逸で、まるで本人を投影したような売れない映画監督役の芹澤興人、覚悟を持って彼と結婚しようとしている売れない女優役の山本真由美、厳しい父親役の牟田浩二が良い味を出している『テイク8』には『カメラを止めるな!』にも通じるアイデアが散見されます。  ロケ地は両方とも同じ結婚式場でしたので、もしかすると二本を同時に撮影進行させていたのでしょうか。製作年度を見忘れたので、何とも言えない。  ちなみにあとで調べると『Last Wedding Dress』は2014年、『テイク8』は2015年製作でした。ポスト・プロダクション後にフィルムとして完成するのに年を跨いだのか、それとも会場が気に入ったので、再度使ったのかは不明です。
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 トリを飾る『ラスト・ウエディング・ドレス』はリーマン・F・近藤と惣角美榮子の老夫婦が主演する『白雪姫』のエピソードをモチーフに使ったホッコリする温かい作品ですので、資金が集まれば、話を膨らませたり、内容を濃くして長編化しても良いのではないだろうか。  残念ながら観客は少なく、大ヒットを受けてからの上映としては寂しいものでしたが、テンポよく話を進める脚本のキレ、奇をてらわないカットの見やすさなど才能の片鱗はそこかしこに見られます。  制作費が増え、利害関係者が多くなり、しがらみが増えれば、鋭さを失う危惧もありますが、何だったら、ずっと無名俳優や地方劇団員などをオーディションを通じて作品に起用し続けてほしい。  かつてのジョン・カサベデスやジム・ジャームッシュがそうだったようにアメリカの独立系映画監督的に独自の立ち位置を築き上げれるのではないだろうか。上田慎一郎監督の才能に期待し、次のおそらく初のメジャーとなるであろう作品にも足を運びたい。 総合評価 75点