良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『暗黒街の顔役』(1932)は『ゴッド・ファーザー』の元ネタであり、『スカーフェイス』のオリジナル。

 ハワード・ホークス監督の1932年の作品であり、フィルム・ノワールの傑作です。その後のアクション作品に使われたと思われるシーンや設定が次々に出てきます。センス溢れる美しい写真、テンポが良く無駄なシーンの無い展開、台詞でなく映像で人間の強欲と愚かさを見せつけるカメラの動き。モノクロ映像がギャング物に最適(ホラーも)だということを改めて気づかせてくれる作品です。

 アメリカ映画の時代劇というと西部劇をすぐに想像しますが、ギャングが跋扈した禁酒法時代についても、彼らの中には日本でいう「幕末・明治物」のような懐かしさや郷愁を感じる、ある種の時代劇なのではないか。

 そうでなくては『ゴッド・ファーザーⅡ』や『アンタッチャブル』に代表される多くのギャング物は成立しないのではないでしょうか。それらの作品での俳優達は楽しんで演技しているように感じますし、監督達も楽しんで撮っているように思えます。

 もちろん、この作品は1932年という製作年度から見ても明らかな通り、時代劇というには新しすぎていて、どちらかというと東映の実録物のような感覚で撮られたものと想像します。言ってみれば、当時の社会の暗部をえぐるリアリズム、それも裏社会物の代表がこの作品だったのでしょう。

 実際オープニングのテロップでは、このようなマフィア達の跋扈を許しているアメリカ政府に向けて、猛烈な批判が浴びせられています。実話を元に脚色されたこの作品の持つリアリティーはちょっとした会話や小道具に感じ取ることが出来ます。

 俳優陣では主役を張った「スカーフェイス」のポール・ムニの刹那的で、家族思いで、かつ粗暴なマフィアになりきった演技が素晴らしく、きざっぽく義理堅いリカルドを演じたジョージ・ラフトが好対照なマフィアを演じて、お互いのバランスを上手くとっています。二人とも良い雰囲気を出しています。ボリス・カーロフが出演しているのはモンスター映画ファンにはうれしい限りです。

 冒頭に明らかな通り、マフィアを毛嫌いしているはずのホークス監督ですが、彼の描くマフィア達はとても魅力的であり、人間味に溢れる印象を与えます。対して処罰する側の警官たちには魅力が無く、全く感情移入できないつくりになっています。

 これでは監督の意図はアンチヒーローとしてのマフィア賛美のようです。どんなに否定したところで、あれだけかっこよく、そして無様な彼ら破滅を描いたのですから、ホークス監督の感情がどちら側に付いていたかは明らかです。国家権力への反骨精神が、反対に市民を脅かす悪党を美化するような皮肉な結果になりました。

 では何故そうなってしまったのか。出来上がった作品から判断すると、脚本のせいでもあると思うのですが、監督の反骨精神、そして何よりも撮影が美しすぎるのが理由です。光と影の強烈なコントラストが作品を覆いつくし陰のあるそれでいて魅力的なムードを作り出すことで、芸術的なフィルム・ノワール、つまり「暗黒」映画の最高傑作になってしまったのです。なんという皮肉でしょう。

 実際、リー・ガームスによる撮影は絶品で、この映画の暴力シーン、銃撃戦、クライマックスシーンは美しい映像とモンタージュの宝庫であり、劇的で、モノクロの良さが完全に発揮されています。構図も個性的で美しく、場面転換のやり方もとてもスマートかつリズム良く行われるために、見る者は作品に没頭できます。

 象徴的な「X」の傷とその他のシーンで使われる、スカーフェイスの仕業であることを暗示する「X」の模様、同じく成功と凋落のシンボルとなった「The World is Yours」のネオンサイン。影だけで殺人の進行を伝えるシーン。

 ボーリングのピンで死を暗示するシーン。観客に対して言葉で語らず、映像で意味を暗示して語っていく演出は素晴らしい。上映時間も93分と集中するにはちょうど良い時間です。

 娯楽作品として優秀なだけでなく、モノクロ作品として芸術面から見ても屈指の作品です。俳優達も、皆それぞれに良い雰囲気(ここではヤバそうなそれ)を持っています。見ているだけでも「ああ。あれはここから取られていたのだ~」という設定やシーンが多くて楽しめます。後の映画監督にこれだけの影響を与えただけでもその価値は上がりこそすれ下がることはありません。

総合評価 95点

暗黒街の顔役

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