良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『となりのトトロ』(1988)日本人の持つ原風景である、田園や自然が懐かしさを蘇らせる。

 1988年公開作品で、宮崎駿監督の代表作のひとつであり、全作品をDVDで所有している僕としては懐かしさ以上のものがあります。うちの甥と姪もこれが大好き(ともに3歳)で何度も見ているにもかかわらず、わが家に来てまで「見せろ!」と騒ぎ出す始末で、我が家の『となりのトトロ』は彼らに略奪されました。  トホホです。それにしても何故彼らをそれ程熱中させるのかは謎です。心理学的に幼児を熱中させるわけですから、ディズニーやらピクサーズならば興味心身になる何かあるのかもしれませんね。     僕自身は、今から三十年位前に神奈川県の大船に住んでいました。関東地方というと、当時の日本の中において、わりと都会として見られていたようなのですが、実際には僕が住んでいた家の前は、見渡す限り全ての風景は田んぼであり山でした。  小学校から帰ると、毎日ザリガニやカブトムシを取っていました。分かりやすく言うと『下妻物語』の風景から、アスファルトの道を砂利道に変えた感じです。最初の公開時に真っ先に思い出したのは、幼少時に住んでいた大船の風景なのです。       その後、八十年代後半に、わが国はバブルの真っ最中となり、学生だった僕らでも、なぜかお金を沢山持っていて、海外や料亭に入り浸り、あそび倒していました。まさに狂乱の時代でした。そのころ観た時には「ああ。昔はこんな風だったね。」という懐かしさ以上のものはとくには感じませんでした。     しかしバブルがはじけ、リストラが猛威を振るい始めたころに見直したときは、また以前とは違っている印象がありました。なんというか「戻りたいなあ。」という感じなのです。単純でばかばかしいのは百も承知なのですが、実際にそう感じました。    生活水準で見ると、今の貧乏学生よりも当時の大衆の水準のほうがかなり低いのは(エアコンもなく食品添加物は山盛りでコンビニは一軒もないし、ツタヤもないしビデオもない)当然なのですが、彼らのほうが豊かなのです。  小川のせせらぎ、田畑、きれいな空と夕焼け、鎮守の森、よき隣人、そして井戸水など、今よりピュアな全てを見ることが出来ます。まあジブリの演出には少々あざとさを感じますが、美しいものは誰が見ても美しいのも確かです。当時は確かにこの風景は存在していました。たった三十年でわれわれはいったい何を失ってしまったのでしょう。  ノスタルジーに浸ることの出来る九十分です。作品のストーリーそのものは単純なのですが登場してくるクリーチゃーたちのデザインが、後年のような狙いすぎているようなデザインや、愛情を余りかけていないようななげやり感がなく「まっくろくろすけ」、「ちびトロトロ」、「猫バス」などはとても優れています。  生前、黒澤明監督がこの作品を鑑賞した時には「猫バス」のデザインをたいそう気に入ったそうです。あのデザインは他人には真似できないものです。 音楽面でも素晴らしく、『さんぽ』などが印象に残ります。宮崎駿監督作品は、ファンタジーの中に、ちょっぴり社会問題への風刺が効かされているのが魅力だったのですが、いつからか風刺が前面に出るようになってしまいました。昔からのファンとしては、元通りにして欲しいものです。なにはともあれ名作です。見ないと損しますね。 総合評価 88点 となりのトトロ
となりのトトロ [DVD]