良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『グッド・ヘアー』(2009)“ねえ、どうしてわたしの髪はチリチリなの?”黒人女性最大の悩み!

 「ねえ、どうして私の髪はチリチリなの?」というアメリカのコメディアン、クリス・ロックが彼の小さな愛娘の素直な悩みから幕を開けるのが『GOOD HAIR』というドキュメンタリー映画です。  そもそも“良い髪”の定義とは何なのか。黒人の髪の毛のステレオタイプの特徴はと聞かれたら、それはモコモコのアフロであったり、チリチリの天然パーマであったり、またはレゲエ風のドレッド・ヘアーであったりします。  しかしながら、そういう人は今ではとても少数派になっています。ディスコ全盛時代、ブラック系のダンス・サウンドアース・ウインド&ファイアージャクソン・ファイブ、大御所ダイアナ・ロスやアンジェラ・デイヴィスらのアフロは昔の風俗になりつつあります。
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 たしかに現在、世界的に有名な黒人で思い出すのはナオミ・キャンベルビヨンセ、ライス元国務長官、そしてジェームス・ブラウン(笑)のサラサラしたストレートな髪の毛です。  アンジェラ・デイヴィスはアフロを黒人であることの誇りの象徴だと言いましたが、これがマイナスに働き、アフロをしていると過激派ブラック・パンサーの思想に共鳴しているのかと誤解され、就職に不利に働いたりするそうです。  黒人を解放しようという運動の趣旨とは反対の結果を招いてしまったのはなんとも皮肉なことです。テレビやメディアで洗脳された黒人女性たちの意識もより美しいヘアー・スタイルを求めていって、たどり着いたのが縮毛矯正剤によるストレート・ヘアー信仰です。
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 彼女たちはとにかく縮毛を毛嫌いしていて、ストレート・ヘアーにするために髪の毛のタンパク質を破壊し、毛根にダメージを与える水酸化ナトリウムで出来たストパー・クリームとセットに月に2万円以上を費やす。リラクサー(縮毛矯正剤)は身体に悪く、皮膚にも悪く、さまざまな実験を通して危険性が明らかにされていく。  実際、実験では水酸化ナトリウムに浸したアルミ缶が三時間程度で溶けてなくなってしまう様子や鶏肉に数滴垂らすと肉が侵食されていく様子が映し出される。  使っている人たちもこの薬剤が頭皮の傷に沁みると激痛が走ることを訴える。それでも彼女たちは薬剤使用を止めることが出来ない。それほど悩みが深刻ということです。
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 そしてもうひとつ、もっとも厄介なのがウィーヴ(日本でいうエクステのことでしょうか。)と呼ばれ、髪の毛に他人のストレート・ヘアーを縫い込んでいく技術です。  ウィーヴの主な原産地はインドで、宗教上の理由から剃髪したインド人女性の人毛が海を渡ったアメリカで黒人女性の髪の毛に化けていきます。  またウィーヴはさらに高価で数十万円を超えるものもあるようです。そのため黒人男性はガール・フレンドや奥さんたちの髪の毛に触れることは許されず、20年以上も触っていないという者も登場します。
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 男たちも不満なようで、ウィーヴは金はかかるし、触れないとつぶやく。また親密かどうかは髪の毛に触らせるかどうかで決まると言い出す始末です。男たちは性交時に髪の毛を触りたくなったら、どうするのか?と聞かれ、「おっぱいに置いとけ!」と言い返す。  その他の不満としては偽物なので、髪の毛を撫でるとセーターみたいに爪に引っかかるというのもありました。またセット代が高いので、崩れるのを嫌うためにスパにもジムにもプールにも一緒に行けないようです。  それほどまでして白人の髪の毛に近づけたいのが黒人女性の縮毛の悩みであり、最大のコンプレックスのようです。理想としてはイングリッド・バーグマンやリタ・ヘイワーズのような昔のハリウッド女優たちなのでしょうね。またファラ・フォーセットのようなふわふわした髪の毛への憧れも根強い。
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 ヘア産業の巨大化も紹介されていて、ヘアケア産業の80パーセント程度は黒人向けなのに、彼らはその産業の中で消費者でしかなく、黒人経営のヘアケア会社は全体(200社中)の4社しかないと嘆く。  一大イベントであるブロス・ブラザースのコンクールの様子も映し出されるが、ド派手な演出で出場者たちが技を競う。ヘア・デザイナーが4人出てくるのですが、演出が無意味なパフォーマンスばかりで、本来のヘアカットの斬新性とか技術とかではなく、何のための大会なのかがよく分かりません。
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 クリス・ロックは皮肉を込めながら映画を進めていきますが、彼の暖かみもまた伝わってきます。黒人たちの頭髪へのコンプレックスと本音が飛び交う良作で、ほとんどの日本人があまり知らない世界に触れることが出来て、興味深いドキュメンタリーでした。  男たちは「最後に髪の毛に触ったのはブラック・マンデーの前の週以来だ…」「髪の毛に手を突っ込むと引っかかって、DJのスクラッチみたいになるぜ(笑)」と笑い話にしてしまう。一方の女たちも「さわらないで!指を折るか、切り落とすわよ!」と脅される。  他人の毛を使っているウィーヴをどう思うかと聞かれ、「これはファッションで洋服みたいなものなの!ほっといて!」と言い返す。セックスにも問題があり、髪型が乱れるからベッドに入るときには髪の毛をタオルで巻いて覆うし、体位も騎上位かバックでしかやらないと赤裸々に語りだす。
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 まあ、みんな楽しそうにショーを見ているわけですから、別に問題はないんでしょう。主な出演者は主役であり、監督であるクリス・ロックキング牧師の後継者であるアル・シャープトン牧師(彼もストレート・パーマをやっている!)、ポルノ女優のメリンダ・フォードらが出てきます。  日本でアフロというと大昔の若い頃の笑福亭鶴瓶が「突然ガバチョ」でやっていたような髪型や『泳げ!たいやきくん』での子門真人くらいでしょうか。そういえば、つのだ☆ひろもアフロだったような…。でも鶴瓶師匠もつのだも今じゃこのころのパーマの影響かどうかは分かりませんが、毛根がやばくなってしまいましたね。  総合評価 75点