良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『のぞき魔!バッド・ロナルド』(1974)大昔に12チャンでやっていたトラウマ映画。

 テレビ放送時のタイトルは『のぞき魔!バッド・ロナルド/十代の異常な欲望』というなんだか、いかにも変態チックな副題がつけられていました。しかしそれは当たっているようでそうでもないという微妙な邦題です。  今回登場する主人公ロナルドを演じるスコット・ジャコビーは最初から精神異常者だったわけではない。ジャコビーが特異な経験と特異な環境によって徐々に精神に異常をきたしていく過程を描いており、その意味ではかなりオリジナリティ溢れる作品なのです。

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 内向的で周りの友人たちの嘲笑の対象となっているスコット・ジャコビー(ロナルド少年)が自分と母親までを馬鹿にした同級生の妹と口論になり、誤って殺害してしまう。意図的ではない事故でしたが、これだけでも十分に精神異常となるきっかけではあります。  自首しようとするジャコビーをマザコンチックで一人息子を溺愛する母親が家の中を改造して隠し部屋(すごく器用なんですねえ。)を作り、そこへ彼を匿う。翌日には警察が来たり、隣人のお節介のおばはんが覗き見しに来るが、なんとか誤魔化して、彼の奇妙な生活が始まっていく。

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 最初はほんの一週間か長くても一月くらいとタカをくくっていた母子でしたが、被害者が死亡しているために殺人容疑が掛かっているのでそう簡単には行かなくなる。  缶詰やスキムミルクなど保存が出来る食料をまずは備蓄し、通常の食料は母親が運び、ロナルドは外部との接触、つまり社会とのつながりを失われていく。

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 することがないジャコビーは大好きだったアトランティスの物語の世界にはまっていく。その度合いはどんどんひどくなり、壁一面には宗教画のような巨大な絵を描き、どちらが現実なのかの境界線が怪しくなっていきます。  そんな折、体調を崩した母親は入院先の病院で死去して、親類が家を売り払います。売却が決定し、家具等がすべて取り去られた部屋で、ジャコビーの孤独な隠れ家生活第二弾が始まり、部屋のあちこちに覗き穴を作り、地下へ通じる入口を軒下に作っていく。

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 準備万端、長期戦への対応が整った家へ可愛い女の子ばかりの三姉妹を伴った家族が入居してくる。しかし、すぐに家族にとっての異変が起こりだす。  冷蔵庫に入れてあった食料やゆで卵が少しづつ無くなっていき、家族同士で小さな揉め事が起きたりする。大胆になってきたジャコビーが家人がいない隙を見計らってつまみ食いをしているのです。  ある日、部屋にノコノコ現れたところを隣家の覗き見ババアに見つかってしまうが、ショックを受けたババアは階段で足を踏み外し絶命する。放って置けばいいのをわざわざ軒下に埋めてしまうくだりは必要性がない。

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 さらに思春期の少年らしく、暇を持て余し、性欲も旺盛になってきたジャコビーは三姉妹の部屋に忍び込み、長女の日記を漁ったりする。三姉妹はお互いに罵り合うが、犯人は彼女たちではないので答えは出ない。  深夜に誰かが蠢いている気配がするとか、引っ越し後に気味が悪いことが続く一家ではもしかすると幽霊でもいるのではないかと心配し始める。ジャコビーが殺害した少女の兄貴がこの家の長女と付き合いだす。  彼は自分の妹がかつてこの家に住んでいたジャコビーに殺されてしまったこととジャコビーを探し出して復讐することを告げる。ホラー映画だったら、ここから悪霊との戦いが開始されるのですが、もちろんこの映画には幽霊は出てきません。

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 三姉妹の部屋にちょくちょく侵入する描写では画面には出てこないが、ジャコビーは当然下着も漁っていたでしょうし、彼女たちの着替えなども覗き見していたであろうことは容易に察しがつきます。  つまり見ず知らずの根暗なメガネのヒョロヒョロした青白い顔をした中坊(ハイスクールかなあ?)が自宅に隠れ住んでいて、女の子たちの部屋を覗いている状況ですので、いわばストーカーよりも数段危険な環境が出来上がっているのです。

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 社会性を失い、透明人間的な存在で家人に知られずに勝手放題しているジャコビーにはもはや善悪の基準もなくなっていて、彼の行為はどんどんエスカレートしていったのでしょう。行為がエスカレートするにつれて、彼の髪がボサボサになり、絵の具で服が汚れていく。ニュースでよく見る変質者が逮捕される現場の様子に似てきます。  さらに気色悪いのは最初はただ内向的だっただけの彼の目が徐々に変質し、目つきが悪くなり、どこを見ているのか分からない変質者らしい顔つきになっていくさまは異様に映ります。

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 ただふと気づいたのですが、映画という媒体自体が他人の生活を覗き見をしているのではないか。たとえば、ホームドラマでは幸せそうな家族の部屋にカメラを仕込み、相手が全く気付いていない中で会話を盗み撮りしているのと大差ない。  現実の家庭では生活が苦しいとかの赤裸々な会話をして、寝室では性行為に勤しみ、オナラをしているわけで、それが作品としてはカットされているのと同じだと考えると違ったものが見えてくる。

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 幽霊でもいるならホラー映画になりますが、素性も知れない赤の他人が家人の誰にも気づかれずにこちらの様子を監視し、恥ずかしい行為などもすべて見ているとしたら、これはホラーよりも恐ろしい環境ではないか。  盗聴は音だけですが、ここではライブで生活をすべて見られていて、会話もすぐそこで聴かれていて、場合によっては一方的に家のテリトリーを荒らしに来るのです。

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 変質者の恐ろしさを嫌というほど味わう作品ですが、この映画が独特なのは最初に書きました通り、ジャコビーは『ジェレミー』と同じく、ただの内向的な少年に過ぎなかったのが、過失致死とその後の隠遁生活により、妄想癖のある気持ち悪い変質者と化してしまう点です。  これは変質者への成長(?)過程を見せられる映画なのです。いわゆる“殺すつもりではなかった”と主張できた弱虫君がママの言うとおりに隠し部屋に閉じこもり、ずっと罪から逃げ続けた挙句、三姉妹の一番下の妹へ異常な恋愛感情を抱き、絶対に出てきてはならない彼女の部屋に侵入した上に「ぼくと結ばれよう!」と微笑む様子は衝撃的です。

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 身勝手などでは表現しきれない異常性は今見ても異様に映ります。30年以上経っても未だに記憶に残り続けたのも当然かもしれない。それでもこの作品の優れている点は異常な精神変化を淡々と描き切っていることです。過剰演出は全くない。  その中では最大の見どころとなるのは次々に家人や友人が消えていってしまい、さすがに様子がおかしいと気づいた年長の姉妹二人が深夜、誰もいないはずの真っ暗な部屋に一筋の明かりが差し込んでいるのに気付き、光の出所に近づいていくというクライマックスに近づくシーンです。

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 彼女が何気なく光の先を覗いてみると、向こう側からもジャコビーがこちらを覗いている。両者の視線がぴたりと合う恐怖の瞬間、自分の存在がばれたジャコビーが部屋を隔てていた壁紙をぶち破り、かつての自宅からの逃亡を図るシーンはかなり強烈な印象が残る。  さらにドアから出たところで警察に確保される際に彼が「ママー!」と絶叫する声が気持ち悪い。こんなはずじゃなかったのにという心の声でしょう。映画の最後のセリフがこれですので、嫌な気持ちになって作品は終わります。

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 暗黒世界の青春映画とでも言えばいいのでしょうか。こういう作品って、いまではとても放送できないのでしょうが、日本語字幕版でしっかりと見たいですね。  残念ながら、日本では一度もソフト化されていない作品なので、海外サイトを探したところ、全編をアップしているサイトがありましたのでそこで久しぶりに見ました。ちなみに海外ではきちんと商品化されていて、DVDを気軽に視聴できるようです。

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 ぼくが見たのはおそらくテレビ放送されたものをアップしたらしい映像で画像は荒い。ただもともと、うす暗い色彩が特徴の薄気味悪い映画でしたし、画像も荒かったので、かえってこの映画が持つ陰鬱さがより引き立ち、見終った時にも何とも言えない感情が湧き上がってきました。  トラウマを与えてくれることは必至ですので、腑抜けた最近の作品に飽き飽きしている方にはお薦めできます。ただ視聴は難しいので、一日も早く、ソフト化をしてほしい。ちなみに海外版DVDは8000円以上もしましたので購入には躊躇します。

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総合評価 85点