良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『地球に落ちてきた男』(1976)稀代のロックスター、デヴィッド・ボウイ主演SF映画。

 つい先日、ネットを開くと1970年代にグラム・ロックのカリスマとしてTレックスマーク・ボランとともに圧倒的な人気を得て、その後も大スターとして君臨し続けたデヴィッド・ボウイの訃報がニュースで流れていました。  40年以上に及ぶ彼のロック音楽界への功績が偉大であるのはもちろん、自分の過去アルバムの権利をもとに作ったボウイ債という債券ビジネスを立ち上げるなど独特かつ斬新な手法を駆使する画期的なビジネスマンでもありました。  彼の残したナンバーでは『スペース・オディティ』『スターマン』『ダイアモンドの犬』『ジギー・スターダスト』『モダン・ラヴ』『ブルー・ジーン』『トゥナイト』などが思い出深く、アルバムではニューウェイブの先駆けと言われた『ロウ』やティナ・ターナーとのデュエットが話題だった『トゥナイト』をよく聴いていました。  なによりも美しく、中性的なルックスを持つ彼には映画界からのオファーも多く、大島渚監督の話題作でビートたけし坂本龍一などと共演した『戦場のメリー・クリスマス』でのキス・シーンは中学生だったぼくにはかなり衝撃的でした。
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 その他に映像作品として有名なのが『ジギー・スターダスト』とこのSF映画『地球に落ちてきた男』でしょう。妖艶で美しいルックスのボウイがバイセクシャルだったのは有名な話ですが、昔は風変わりなスターとして捉えていました。  彼は結婚もしていましたし、子供も授かっていましたので実際にどうだったかは分かりませんが、バイセクシャルの場合はそのときそのときの恋愛対象が同性であったり、異性であったりということもあるようですので、真偽は分かりません。  現在では性のあり方もさまざな指向があることが知られるようになってきており、総称としてLGBTもしくはLGBTSとも言われています。  Lはレズビアン(女性同士)、Gはゲイ(男性同士)、Bはバイセクシャル(どちらの性も愛せる。)、Tはトランスジェンダー(両性具有など。)、最後のSはその他の指向(たとえば、そもそも人を愛するという感情がないひともいる。嗜好ではない。)など多岐に渡ります。
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 またゲイについては昔は男性同士の関係を表していましたが、ゴールデン・グローブ賞ジョディ・フォスターが「自分はゲイだ。」とカミングアウトしたようにどちらにでも使われるようです。性的指向にも色々な種類があります。  こういった傾向を持つ人々は10%前後存在する(日本では8%程度と言われているようですが、まだまだ遅れているわが国ではカミングアウト出来ずに隠している人も多い。)という研究もあるようですので、割りと実際には多いのだなあという実感です。  自分の性的指向が普通(普通という言い方も問題があり、そうでないと自分が認識する指向について異常だと言っているに等しい。異性に性的指向を持つ大多数の人々はストレートと表現される。)でLGBTSに関して偏見を持っていると何かの拍子に軽口を叩き、当該の指向を持つ人々を苦しめることになるので注意したい。  繰り返しますが、全体の一割弱です。異なる指向を持つ人々を嫌うのは個人の勝手だが差別するのは良くないということだろうか。彼氏彼女という言い方も良くないようで、パートナーとか恋人というほうが当たり障りがない。
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 まあ、まとめると人の趣味や指向に関しては余計なことを言うなということと相談された場合にはあからさまに差別的な言葉を投げ掛けたり、態度を変えたりしないことが肝要なのでしょう。デヴィッド・ボウイ死去に絡めて、ぼくがこの性的指向の話を職場で話したら、後日私もそうなんですという後輩女性がいました。  くれぐれも無思慮な発言をして、彼や彼女を傷つけないよう気を付けましょう。また告白されたときは他の人たちに絶対に言いふらさないようにしましょう。勇気と覚悟を持って相談してきた人を裏切らないようにしたい。  それはともかく、この映画『地球に落ちてきた男』は上映時間二時間以上(僕が持っているのは133分版。一番長いのは140分程度らしい。)の文芸SF大作であり、なかなか集中して見続けるのは疲れます。  展開が緩やかすぎて集中が続かないという声も多い。ぼくも長すぎると思いますが、作り手側からするとその長さも含めて一本の作品なのだという意志を読み取れます。宇宙へ帰ろうとしても帰れないイライラする感情、母星への帰還がいっこうに進まない絶望感は上映時間に織り込まれているのかもしれない。
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 昭和の大昔、われらが東京12チャンネルでこの作品が放送されたときには大幅に切り詰められていたためか、今回あらためて見ていくとずいぶん違った印象を受けます。じつはカットされた短縮版のほうが見やすく、テンポが良くなってしまっているモヤモヤ感があるのはいかんともしがたい。  主演がデヴィッド・ボウイではなかったら、おそらく見ることもなかったに違いない。興味を持たれた方はBSやCS放送を待つか、あるいはDVDなどを手に入れて、若かりし頃のデヴィッド・ボウイの魅力に浸ってもらいたい。  ブキミな印象を与える牛乳瓶の瓶底メガネが異常に似合うバック・ヘンリーははまり役です。性描写シーンが必要以上に多いのも特徴で、全裸の女子学生をおおぜい漁りまくる教授役のリップ・トーンはやりたい放題にやっています。  主役のボウイも義眼を外すシーンがあったり、拷問に近い人体実験を受けるシーンがあったりと1970年代の感覚に戻ってみてみるとかなり過激な描写が盛り込まれている。
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 光の反射などセンスに溢れる映像といっけん脈絡がないもののまったりとした展開のリズムが独特で、ニコラス・ローグの個性が存分に発揮されているのでしょう。彼の映像を引き立てているデヴィッド・ボウイの貢献度は大きい。両者の才能と個性が上手く混じりあった幸せな一例なのかもしれません。  音楽面ではグレース・ケリービング・クロスビーの『トゥルー・ラブ』やルイ・アームストロングの『ブルーベリー・ヒル』が味わい深い。エルビス・プレスリーデヴィッド・ボウイが見ているテレビの一つに映っています。  しかし一番印象に残っているのはエイリアンである彼の母星で家族に見送られるときに乗り込む瓦葺の小屋のようなデザインの風力で走る電車(?)なのです。なんだろう、あれ? 総合評価 65点