良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ドリームホーム』(2016)我が家は財産か?それとも身動きできなくする負債か?

 安倍首相が伊勢志摩サミットでの会見で、現在の世界経済がリーマン・ショック前の状況に酷似しているという発言をしたことに対し、多くのメディアは批判的でした。  ただ経済情勢はギリシャ債務危機など世界規模から言えば大したこととは言えないような小さなことがきっかけになって、バタフライ・エフェクトを連想させると投機家筋が動きだし、頻繁に極端な変動幅を発生させる状況になりやすいのも事実です。  そういったイベントを利用してボロ儲けを狙うのがヘッジ・ファンドを中心とする投機屋稼業や悪徳不動産業者、銀行です。価格を吊り上げるだけ吊り上げた後は暴落が待っていますが、逃げ遅れた間抜けな銀行の投機行為の尻拭いには一般市民の税金が投入される。  暴騰と暴落の原因である金融業者や不動産業者は偉そうな顔をして、傲慢な態度を維持したまま、豪奢な生活が税金投入で賄われ、維持されていく。  投資と言えば、最近こんなことがありました。先日のお休みに足つぼマッサージに行ってみるとぼくよりも早く来ていたらしく、70代くらいのオッサンが何やら大きな声を出して、自分がやっているらしい投資の話を嬉々としてしゃべっていました。  そもそもリラクゼーション施設に来ているのに周りを気にしない大声を出しているだけでも大人としてみっともない。さらに話す内容が投資の話だったのです。もちろん内容がしっかりしているのであれば、参考になるかもしれません。
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 ではどうだったのでしょうか。彼はまず世界情勢から話し出し、株式投資は難しいものではなく、要はタイミングなのだと言い出しました。  長谷工が昔、経営危機を言い立てられたときに一株当たりが80円だったので、1000株でもたった80000円だったので最悪潰れても損害は知れていると豪語していました。  つぎにヤマト運輸は態度が良いし、東南アジアにも進出しているから日本でダメでも大丈夫だとのことでした。さらに銀行株ならりそなが良いそうで、理由としては公金注入されても返し切ったのだからこれからはそれらがすべて儲けに変わるからとのことでした。  今やっている「投資」のこともしゃべり出し、それは為替、つまりFXのことだと推察していると、彼は為替の動きを読めば良いだけだから、株の情報を調べるよりも簡単で儲かると言っていました。  ただよくよく聞いていると「ネットを使えば、為替の手数料が0.5銭で済む。」とのたまわっていました。つまり彼がやっているのはFXではなく、ドル建てのMMFか、ネット証券でのドルの外貨預金であるのが明白です。  しかも0.5銭というのは50銭の誤りでしょう。外貨預金で仮にプラスが出ても、税法上は雑所得として扱われるので、ほかにもやっているであろう株式投資や債券他で損失が出ても、損益通算できないし、為替レートが不利な方向に進んで為替差損が生じていたとしても、雀の涙ほどしかない金利所得税の20%を課税されるのです。
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 えーっと、かなり危ないですね。株式投資に関すると、まず長谷工の話はその後に連れの人が「すごいな。いくら儲かったんや!?」と聞くと、「買おうと思ったけど、潰れるかもしれないから止めといた。」とのことで、ぼくはニヤリと笑ってしまいました。  つまり、いわゆる“たられば”の話なのです。ヤマト運輸にしてもそうでしたし、そもそも佐川急便などの運送会社は海外でイオンと組んで配送サービスを展開していたりするのでもはやニュースですらない。  りそなについてもよく聞いていると、自分の孫がりそなに入社していて、しっかりしているから(血税投入で迷惑をかけるようなクズだが…)など馬鹿馬鹿しさ(マイナス金利導入で一寸前に銀行株全般が急落したのを知らないのだろうか。)のてんこ盛りでうんざりしてしまいました。  口だけは達者のようですが、金融の読み書き能力はゼロに近く、自尊心と見栄だけが強そうで、金融詐欺師、証券会社や銀行にとって、もっとも扱いやすい典型的なカモネギでした。  まず基本的に理解すべきなのはおいしい話が一般人に回ってくるはずがないことです。そのへんの会社社長に必ず儲かる話を回すくらいならば、自分で銀行の融資担当と話をつけて独り占めするのが合理的なのに、なぜ自分なんかにこんな話を持ってくるのかと自問自答すれば、すぐにデマか詐欺だと解る。  高齢者の金融知識の無知につけこんで高額商品を売り付けようとするのは大手行も同じで、先日、うちの母親の保険が満期を迎えて返ってくるとすかさず、か○ぽの担当者が二人組でやってきて、75歳だがいまだに現役でキャッシュフローがある母に終身保険を売り込もうとしていました。  事前に相談を受けていましたので、高額療養費制度もあるから、無駄なもの買うくらいなら、変動国債普通預金で十分だとアドバイスしていましたので、母はそう伝えたそうです。  すると担当者はいつまでもあるかどうか分からないし、国債も危ないですよと脅すようなことを言って、また来ると言ってきたそうです。
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 仕方ないので次に来たときにぼくが応対すると同じような破綻話を言ってきました。ぼくは「一番国債を抱え込んでいるのは保険会社と銀行、それもあなたたちのところなので、路頭に迷う順番はあなたがたの会社が先であり、うちじゃないですよ。」と言うと、彼らは苦虫を噛んだような顔になり、すぐに帰っていきました。  その後、いっさい不要な金融商品の売り込みはなくなっています。話を映画に戻します。  サブプライム・ローンの破綻によって襲い掛かってくる変動金利の高騰と負の総決算であるリーマン・ショックにより金融機関も資金繰りに行き詰まり、老人に貸し付けたリバース・モーゲージにもいちゃもんをつけ、年寄りからも平気な顔をして終の棲家を奪い取っていく。  貸し剥がしによって破綻していった企業の倒産や無慈悲な差し押さえ執行が一般庶民の生活や資産形成に与えた影響は甚大で、ホームレスに落ちていった人々や格差を強要されて溜まっていった不満のはけ口となっているのが現在のアメリカ大統領選なのでしょう。  あの頃は良かったというノスタルジーと移民たちや政府への怒りを上手く利用しているのが人種偏見と内向きなアメリカ第一主義を煽るトランプ支持でしょうし、格差是正を求める“民主”主義(実際は社会主義)的な主張をしているのがバーニー・サンダース候補なのかもしれない。  この映画の舞台となっているのはサブプライム・ローンが社会問題化していき、リーマン・ショックへ向かって、徐々に暗い影を落としていくころを描いています。  「勝者の勝者による勝者のための国がアメリカだ。」「家はただの箱だ!」という不動産会社社長(マイケル・シャノン)の発言が強く印象に残ります。主人公(アンドリュー・ガーフィールド)は平凡な建築職人でオープニングでは作業に従事しているところを工事の取り止めを伝えられ、賃金不払いも告げられる。
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 マイケル・シャノンは最初の登場シーンでローン不払いによる資産差し押さえに向かった先で破産した家主が自殺した現場に立ち会うことになる。主人公アンドリューにもサブプライム・ローンの取り立ての返済期限が迫り、子供(ノア・ロマックス)と母親(ローラ・ダーン)のいる前で差し押さえ執行が行われ、安いモーテルに必要最小限の物資とともに移っていく。  購入した本人にとっては思い入れが強いマイホームでも、業者や政府にとっては一物件でしかない。モーテルというのは日本だったら、ウイークリー・マンションか治安が悪い地域のワンルームに一家三人で転がり込む感じでしょうか。  家屋を取り上げられた場合、日本では住宅ローンが消えずに払い込みは続きますが、アメリカでは業者に鍵を返して、簡単な手続きを行えば、以降の返済義務は無くなるようです。  まあ、こういう気軽で無責任な融資態勢だからこそ、サブプライム・ローンが大問題化し、やがて世界中を巻き込んでいくわけですが、後付けで原因を語られたところで損失が回復するわけではない。  主人公アンドリューは破綻したものの、ふとしたきっかけで、悪徳不動産業者マイケルの手先となり、自分と同じような境遇にある一般市民の家屋を次々に合法的に、そして時には違法手段を駆使してでも自分の家を取り返すために奪い取っていく。  普通の感覚を持つ人ならば嫌がる汚れ仕事でも不景気な町では引き受けて、子供と母親を食べさせていかなければならない。かつて自分も同じ状況に追い詰められ、辛い思いをしたはずなのに他者にも同じことをしてしまうという構図は見ていて気持ちが良いものではない。
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 それでも家族を食べさせ、大切なわが家を取り戻すにはやるしかない。結果として、悪辣な稼業にどっぷりと浸かった代償に新しいプール付きの屋敷を手に入れるが、自分がどうやってこの物件を手に入れたのかのかが家族に露見し、母親と一人息子は彼を残して、親戚を頼って、田舎に帰ってしまう。  クライマックスでは屋敷に立て籠り、差し押さえ執行に従わない一人息子の友達の父親(ティム・ギニー)に警官の前で自分の悪行を懺悔すると、ティムは武装解除し投降する。主人公が逮捕され、ボスである不動産会社社長も事情聴取を受けるところで映画は終わる。  誰も救われない結末ではありましたが、こういった作品なので、あえて陳腐なハッピーエンドにしなかった演出は効果的ですし、現実にはもっと悲惨な結末もあったに違いない。法律の執行は一般庶民のためではなく、金融業者や不動産業者の利益のために行われるのだという厳しく、寂しい現実を突きつける。  一時は我が家を取り戻すであろうティムも銃器を使用し、警官隊に発砲した事実は消せず、ローン自体は変動金利で返せるような金額ではなくなるだろうから、結局は手放さずを得ないのでしょう。 総合評価 82点