良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『三度目の殺人』(2017)三人目の犠牲者は自分か?

 休みの日に久しぶりに『三度目の殺人』と『散歩する侵略者』の二本立てで観てきました。二本続けて見るとさすがにキツいので、イタリアンでしっかりお昼を食べてからの鑑賞です。  『ダンケルク』を観に行っても良かったのですが、邦画二本を選択しています。両方とも人気女優を起用していて、『三度目の殺人』には広瀬すず、『散歩する侵略者』には長澤まさみが出ています。なぜか観に行った両作品に満島真之介が出ていたのは不思議でした。  女優で選んで、映画を見るかどうかを決めることはありませんが、キレイなお姉ちゃんは大好きなので問題ではない。まずは『三度目の殺人』からです。  ちょっと前、公開中の『関ヶ原』を見に行ったときにも徳川家康役で出ていた役所広司が今回は供述を二転三転させる凶悪犯罪者役で登場します。彼もなかなか引っ張りだこのようであちこちの作品で見かけます。  役所広司をはじめて意識したのはNHK大河ドラマ徳川家康』での織田信長役、そして好きな俳優の一人となったのは同じくNHKドラマとして放送された吉川英治原作の『宮本武蔵』での武蔵役でした。
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 どちらもハマっていて、今でも好きなドラマのひとつです。今回の『三度目の殺人』では主役は福山雅治、共演に広瀬すずちゃんらがいますので、より渋さが引き立っています。  福山雅治と是枝監督のタッグでは『そして父になる』がありました。今回も人間の葛藤や深層に迫る上質な作品に仕上がっています。  映画は脇役が良いと引き締まりますので、役所広司市川実日子や吉田綱太郎とともに質を上げています。興味深かった点は裁判では裁判官、検察官、弁護士ともに立場の違いこそあれ、司法という船に乗っているのだというセリフでした。  悪く言うと皆エリートで、同じ穴の狢が思惑と報酬の違いのはざまで蠢いているだけとも取れます。じっさい、公判を続けるかどうかのカギを握っているのは犯人や証人の供述ではなく、裁判官の成績とスケジュールを忖度する司法関係者全員の都合という醜悪な描写があります。  勝てば良いという姿勢を前面に押し出す福山と吉田に違和感を持つ満島の言動や態度が一般人の心情に近いのかもしれません。
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 金目当てと怨恨では前者は単純で自分勝手だからという理由で罪が重く、後者は止まれぬ理由があるので情状酌量の余地があるという考え方も面白い。  作品全体の色調はテーマに合わせているのでかなり暗く、各々の本音や戦略、裁判の進み方が五里霧中でどう転ぶのかが分からないのを表すためか、各演者の顔は影で窺いにくく、ハーフシャドウになっていることが多く、全員でポーカーをしているような重厚感があります。  あくまでも法廷戦術を構築し、依頼人の利益になることのみを第一に動いている福山弁護士はぼくらが想像する有能弁護士の立ち位置です。それが悪いとは思わないが、黒を白と言いくるめようとする小賢しい弁護士イメージを体現しています。  出てくる親子関係が三つあり、容疑者役所には足の悪い娘がいて音信不通、犠牲者の妻斉藤由貴には足の悪い娘すずちゃんがいて、福山にも非行を重ねる娘がいる。  タイトルは『三度目の殺人』だが、斉藤由貴は三度目の不倫騒ぎを起こしています。デビュー当時から『スケバン刑事』で大人気となり、アイドル歌手としても『悲しみよこんにちは』で紅白に出場していたりしました。
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 しかしながら、カリスマだった尾崎豊との不倫騒ぎがあって以降、徐々に消えていきました。それがまさかの復活で活躍していましたが、またスキャンダルを起こしてしまい、当時の人気を知る者としては少々哀しい。  良い演技をしていただけにこの人に一般常識を押し付けるのは無理でしょうから、いい加減不倫不倫で騒ぐ論調もやめにしてほしい。  演出面で見ていくと拘置所での面会シーンでの窓越しの両者の撮り方が絶妙で、犯罪者と弁護人という立場の違いはあるものの考え方がじつは同じだということに愕然とする福山雅治の表情が良い。  両者の顔がガラス越しに映り込むことで重なりあったり、理解できない部分では離れて行ったりする撮り方にゾクゾクしました。  ちなみに分かりにくい留置所、拘置所、刑務所については留置所が警察署にある施設で逃走防止や証拠隠滅を図られないようにする場所、拘置所は検察官の起訴を受けてから裁判で刑が確定するまで置いておかれる場所、そして刑務所は刑罰確定後に収容される施設です。
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 劇中、基本的に格子とガラス越しに福山と対面して、自由を奪われて裁かれる側にいた役所の照明はかなり暗かったのが、死刑という判決が出たあとはなぜかスッキリした表情の役所の側に光が当たる。  人間の命を奪ったり、与えたりできる権限を持つ司法に対しての犯人役所の怒りを感じる作品でもあります。象徴的に配置される小鳥の墓や強殺後に死体を焼いて作った十字架の意味は何だったのか。  埋葬と取ることもできますが、すずちゃんをレイプしたDVオヤジへの食品偽装も含めた罰として刻印したのだろうか。言えることと言えないことのはざまで真相は藪の中に押し込まれていきます。  作品が進んでいく中、ずっと裁く側にいたはずの福山雅治が暗い側にいて、福山は役所から眩しそうに目を逸らすシーンが印象的です。自分が犯した罪滅ぼしのためにかつての娘に似た障害を持つすずちゃんを救うためにオヤジを殺害し、罪をかぶって自分を司法に殺させる。  ずっと重々しい本作は是枝監督にとっても大切な作品になるのではないか。広瀬すずちゃんもしっかりしてきていて、昨年の李相日監督の『怒り』を得て、着実に成長しているのを見るのは楽しい。  見て楽しい作品ではありませんが、ベネチア映画祭に出品しても恥ずかしくないだけの素晴らしい法廷劇に仕上げられています。 総合評価 80点