良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『めまい』(1958) 特撮好きのヒッチ先生が送る、実験的な要素も多いサスペンス作品。ネタバレあり。

 ヒッチコック監督の1958年製作作品であり、特撮で有名な作品でもあります。ヒッチをあまり知らない人でも『鳥』・『サイコ』と共に、名前だけならば聞いたことがあるだろうと思います。個人的には、主人公の心理面の混乱を、いろいろな映像で示していたあたりが優れているとは思うのですが、突飛過ぎる幽霊話には内容の解りにくさがありました。

 

 「ネックレス」が触媒となり、一気にクライマックスへという流れをとったようですが、そこへたどり着くまでの主人公のエゴイスト振りというかサディスト振りが、個人的には好みではありません。事実を知った後ならば、なんてことはない展開なのですが、ジェームス・スチュアートの心理描写がところどころ解りにくかったです。いつもならば「ネックレス」はマクガフィンに過ぎず、意味の無いものであることがほとんどなのですが、今回はしっかりと意味を持つものでした。はぐらかしを期待したヒッチファンには少々不満の残る演出ではあります。

 

 その他にも、必要かどうか理解しかねるアニメ映像や特撮シーンには少々辟易してしまいました。替え玉が引っ掛ける相手に惚れてしまうが結局は...?という展開は、今では使い古されたものですが、それがそう見えてしまうのは、それらの手法が大量に導入されてしまっているからであり、ヒッチ先生のせいではありません。

 

 ストーリーは各プロットに影響を与える、主人公の高所恐怖症の原因と克服、かなわない不倫(実際には不倫ではない)、そして本当の真犯人の陰謀と目的とその顛末という三重層的なものです。ヒッチ俳優のジェームス(『裏窓』にも出演)は、今回もいろんな事件に巻き込まれながら、そこから逃れようと、もがく役を過不足なく演じています。

 

 ヒロインとして今回登場のキム・ノヴァクは、ヒッチ好みのブロンド官能美人ではあります。しかし個人的には好きではありません。『逃走迷路』のプリシラを、散々叩いたヒッチ先生が、セクシャルなだけのノヴァクを高評価しているのが不思議でした。  

 

 演出で見ていくと、何か常に新しいものを作り上げようとするヒッチ先生の、今回のハイライトは「階段シーン」です。ここだけを見るだけでも、この作品を見る価値があります。『ゆすり(1928)』でも撮りたかったであろうシーンが、三十年後にようやく完成しています。

 

 この階段のセットが最高で、あの階段は、実は横向きに作ってあるのだと聞いたときには驚きました。高所恐怖症の方ならば理解してくださると思うのですが、ああいう風に下を覗き見ると、目の後ろくらいから後頭部にかけて「ふぅーっ」と気が引いていく時があるのですが、あのシーンではまさにその感覚が見事に映像で表されています。ヒッチ先生も間違いなく高所恐怖症と思われます。  

 

 その他にも、少々長すぎる気もするフォーマリスティックな追跡シーン(あまりにも近すぎていて、本当ならば、ばれてしまうであろうが、映画では画面上の見え方として、あまり離れすぎると解りづらいため、これでOK。)と、時間を経て、同じ人物が違う人物として同じシチュエーション(ドライブ)を追体験する展開は興味深く興奮を覚えました。

 

 彼女(キム)は最初では恋人として、二回目は容疑者として、そして彼(ジェームス)は最初は恋人として、二回目は真相解明者として現れます。音響面で特に書くものはありませんが、音楽療法なんて効かないというのが笑えました。

 

 ヒッチの手がけたものの中では、名作群のひとつに数えられる作品ではありますが、ジェームスの病的なまでの女性への迫り方(『マーニー』でのショーン・コネリーよりはまし)と、霊が人格を占拠するという設定に無理を感じます。

 

 ジェームスというと、『素晴らしき哉、人生』などのキャプラ作品に出演していた時には、アイドル的な人気を持つ俳優であり、ベビーフェイスの印象が強かったのですが、ヒッチ作品では『裏窓』にしろ『めまい』にしろ変態的な性格を持つ役が多く、彼の芝居の幅を広げてくれる、やりがいのある仕事だったのではないか。

 

 ただし素晴らしい面も多々あるのですが、中盤にだるさを感じてしまうというのが響き、芸術性(セットなど)だけでは救いきれない散漫さを感じました。ただもしかすると、このだるさこそが最大の「めまい」のための仕掛けだったのかもしれません。この作品の場合は緩急の差がとても大きく感じました。

総合評価  70点

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