良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『バーニング』(1981)世にあまた存在する“13金”亜流映画の一つですが、出来は良い方です。

 この映画はビデオ時代は普通にTSUTAYAなど多くのレンタルビデオ屋さんに並んでいましたが、フォーマットがDVDに変遷していく移行期に再ソフト化されることはなく、見れなくなってしまい、当時のファンのみならず、ホラー映画ファンからソフト化が熱望されている作品の一つです。  販売されない理由としては配給元であるミラマックスのワインシュタイン兄弟の確執やイギリスでのビデオ・ナスティ認定に引っかかってしまっているためか、スタッフNGによるものかさまざまな憶測があるようです。後に出世していったクリエーターや俳優にとっては自身のキャリアから消してしまいたい仕事もあるのでそういう原因かもしれません。
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 またビデオ時代も本来の上映時間である91分版ではなく、僕が見たのは86分版でした。カットされているシーンはおそらく有名なトビー・サビーニによる血みどろ修羅場場面でしょう。理由としてはこのシーンともう一か所だけ場面転換時に明らかに編集しましたと分かる真っ赤なディゾルブが掛かるからです。これはおそらくクリエーターの必死の抵抗だったのでしょう。  完全版がどういったものなのかは分かりかねますが、筏の大虐殺シーンでの植木バサミによる喉への突き刺し、刃を使った頭部への切り裂き、そして超有名な全手指切断シーン、バンボロが焼け焦げるシーンなどはしっかりと残っています。
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 お話はホラー映画の王道演出がオーソドックスに盛り込まれる。全身大やけどを負った後に娼婦の腹をぐりぐり刺しながら、窓から突き落とす場面以外は彼の存在は視点ショットのみで展開される。  基本的に彼を映さずに彼の行動視点でストーリーを語るのは演出上、決めていたと思われます。作品の中盤までは「見せちゃ恐くないんだよ!」というヒッチコック的センスが踏襲されております。
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 そのオーソドックスな姿勢があるからこそ、トム・サビーニによるいかだでの虐殺シーンとスプラッター演出が引き立ってきます。  キャンプ場に来ていた、浮かれているティーンエイジャーたちをどんどん始末していく殺害絵巻が始まるまでは殺人鬼バンボロ(誰だいあんた?実はこの映画に出てくる殺人鬼はクロプシーです。)はあまり出てこないし、姿も見せないように演出されている。
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 クロプシーがどうなったらバンボロになるのかはいまだに不明です。東宝系での公開でしたので、どっかの山師がインパクトを求めて出鱈目な呼称をつけたのでしょう。ビデオで見直したときに復讐に燃える彼のことを誰もバンボロとは呼んでいないのでおかしいなあとは思っていました。  じっさい、オリジナル原作では単に「クロプシー」というあまりにもシンプルなネーミングでしたのでインパクトには欠ける。
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 ホラーのお約束として殺人鬼の来襲を臭わせるショットも、気の弱い少年が覗き見をしているだけだったり、真っ暗な倉庫でギシギシいうので懐中電灯を照らしてみるとキャンプ場の管理人がチェックしているだけだったりする。  夜にカップルでいちゃついている奴らは必ずバンボロ(ここではあえてバンボロと呼びます!)の犠牲者になるのも大笑いしますし、無駄におっぱい丸出しシーンがあちこちに盛り込まれていたりして、男性ファンのニーズにしっかりと答えています。
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 バンボロの罠なのに、というかどう考えてもヤバそうな方向に向かって、なぜわざわざそこへ行っちゃうのかなあというお約束の誘導もあちこちに挿入されています。  またトイレを見回りに行って、ドアを開けてみると白ハトがバタバタ飛び去ったりと、ホラー・ファンが身構える場面で悪ふざけ的な演出をしてくれるので笑ってしまいます。
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 子供が見たら怖がるのでしょうけど、数百本ものホラーを見てきたであろう大人の映画ファンからすると「来るぞ!来るぞ!」と身構えているところにうっちゃりを食らうようで、それが繰り返されると製作者側が狙っているなと理解できますので、そういう悪戯心にニヤリとしてしまいます。  子供の頃、公開中の『13日の金曜日』の予告編やポスターを見かけてビビっていましたのが懐かしい。さすがに小学生では映画館まで観に行く友達もおらず、名前は知っているけど見たことのない作品のひとつになっていました。
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 結局、“13金”もはじめて見たのはテレビの洋画劇場でしたが、あまり印象に残っておらず、じっくりと見たのは大学生になってからTSUTAYAでレンタルしてきたときでした。  そういう感じで『バーニング』『バタリアン』『ゾンビ』などもテレビ放送だったり、レンタルビデオで後追いするのが遅れてきたホラー映画ファンの作品鑑賞姿勢でした。
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 『バーニング』をビデオで見たのは大学生の頃で、「全米27州で上映禁止!」という煽り文句を思い出し、ちょっとワクワクしながらビデオを再生したのを思い出します。  キャンプに来たガキどものいたずらにより、ガソリンの業火で焼き尽くされたバンボロは全身に大火傷を負い、二目と見れない怪物のような姿となってしまう。復讐の鬼と化した彼による無差別大量殺人を描いたのがこの『バーニング』です。
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 つまり理由とモチベーションがある、ぶれない殺人鬼ですので一切の容赦はない。より残虐に、より陰湿に標的を仕留めていきます。男も女も関係ない。  一方的に悪いとは言い難いバンボロは最終的にかつて彼を酷い目に遭わせた張本人で青年に成長し、キャンプの監督を勤めるトッドにとどめを刺される。
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 原因を作った加害者が罰せられずに被害を受けたバンボロは自らが持ち込んだバーナーを利用されて、再び火炙りにされて絶命する。なんだか後味が悪いエンディングで、殺人鬼が退治されたのに爽快感はありません。  この作品では筏場面で5名、森の中で3名の合計8人が犠牲者となり、彼と戦ったトッドと気弱な少年アルフレッドが軽傷を負う。
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 大騒ぎして観客を煽った割りにはそれほど殺していない。座頭市のほうがシリアル・キラーなのではないかと思いつつビデオの巻き戻しを眺めていました。  ちなみに似つかわしくない、素晴らしいサントラを付けているのはYESに所属していたリック・ウェイクマンでしたので、彼の音楽を聴きたい方はオークションに参加しましょう。
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 難点としてはせっかくテレジェニックな植木バサミによる殺人鬼ぶりが定着しつつあるのに何故に最後の最後でバーナーに武器を持ち替えてしまったのだろう。演出上の痛恨のミスではないか。自分が醜い姿にされてしまった恨みを晴らしていく過程で過去に受けた仕打ち(生きたまま火だるまにされる!)の記憶がフラッシュバックで蘇るさまが映像で表現されているのは良く出来ています。  結局、修羅場で武器を持ち替え、しかもそれを止めを刺さなかった少年に使われた上にバーナーまで奪われて、その最終兵器により自分が殺害されるという致命的な凡ミスを犯してしまってはジェイソンのような悪のスーパースターにはなれないのも頷けます。ザ・シークやブッチャーを見習え。 総合評価 70点